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クールビューティー

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「ルシアン、好きだ」

 そう言われた瞬間、もう片方の彼の腕が伸びてきて、再びセラフィム様に引き寄せられるように抱きしめられた。私の胴体に彼の腕がしっかりと回されている。
 スンスンと愛おしそうに頭の匂いまで嗅がれている。こめかみにチュッという音とともに柔らかい感触までした。

 まさかキスされた!?

 私の体温が沸騰するくらい上昇した。

「ちょ、止めてください!」

 私は彼の腕を振り払って、逃げるように席を立った。いくらなんでも、彼は無遠慮に触りすぎだわ。
 私は珍しいことにとても憤っていた。すぐに彼を見下ろし、ビシッと彼に指をつきつけて、激しく睨みつけた。怒りすぎて、手がブルブル震えている。

「キ、キスするなんてセクハラです! もう二度と勝手に私に触らないでください!」
「……え?」

 セラフィム様の表情が絶望に染まる瞬間を目撃してしまったが、すぐに視線を逸らして見なかったことにした。

 ちょうどセラフィム様の横の席が空いている。

「すみませんがセラフィム様。横の席にずれて、私の真横にいないでください」

 相手は先輩だけど、もうここまで好き勝手されたら気にするものか。
 強気で指示を出してみた。

「しかし……」

 ところが、彼はなかなか素直に従ってくれなかった。泣きそうなほど嫌がっていた。

「言うことを聞いてくれないと、もっと嫌いになりますよ」

 腕を組み、険のある言い方をすると、彼はやっと渋々ながら言うことに従ってくれた。

 ふーやれやれ。
 何事もなかったように席に戻る。もう右隣りの人なんて知ったことではなかった。

 こんなに距離感なくグイグイくる人なんて信じられない。
 こんな強引な習性だから、嫌になって人間の男を伴侶に選ぶ人も出てきちゃうのよ、きっと。

 三百年前、異界から人間たちが訪問するようになってから、彼らの文明のおかげで私たちの世界は凄まじく発展したけど、同時に彼らと交わるようになって、混血が多く生まれるようになったのよね。
 そのせいで、古来からあった亜人の純血種がかなり減少し、今では種の保存の観念から国をあげて保護対策を打ち出すまでになっている。
 でも、羽翼種のように番の習性がある種族は、他と比べて純血種が割と残っているのよね。

 プンプン怒っていると、なんだか急に寒くなってきた。
 冷房が効きすぎている気がする。
 目の前にいる兵士たちの吐く息が白くなっていた。
 両腕で体を抱き寄せてガタガタ震えている。

 誰よ、勝手に冷房の設定温度をいじった人は。
 きょろきょろと周囲を見回し、ちょうど私の右側を振り向いた直後に絶句した。

 セラフィム様が氷と霜で埋まっている!

「やだ! 何をやっているんですか!? 寒いから止めてください!」

 慌てて立ち上がり、セラフィム様の肩から寒そうな氷を払い落とすと、彼の目から涙がシャーベット状になって流れていく。

 彼はクールビューティーって言われていたけど、物理的に冷たいって意味だったのかしら。

「ルシアンが触ってくれた……」

 セラフィム様が感極まって泣いている。
 先ほど私が怒って拒絶したせいで、彼がますますおかしくなってしまったようだ。

 すがるように私を見上げる彼は、私なしではいられないようにとても弱々しかった。
 本当にこの人は、私じゃないとダメなんだ。
 そう思ったとき、胸の奥がキュンと切なく高鳴った。彼のことがとても可愛い存在に感じ始める。
 鼓動がドキドキ激しくなっていく。

 べ、別に、セラフィム様のことが嫌いってわけじゃないんだよね。
 噂だけで実際に知らないから受け入れづらいってだけで。
 もうちょっと時間をかけてお互いに知り合ってから告白してくれたら私だって――。

「きゃ!」

 車が車線変更をしたのか、急に車体が左に揺れたせいで、立っていた私の体がふらつく。
 吹き飛ばされるように呆気なく倒れそうになった。

 やだ、ぶつかる!

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