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一章
カミサマの育児放棄
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朝から普通に仕事をし、少しだけ残業をして家路に着いた。
営業部の主任になって1年。やっと業務が落ち着いた気がする。
特に急な依頼がなければ、家につくのは大体20時頃という状況だ。
あとは夕食、風呂とのんびりしたあとに、嫁さんにメールを送って寝るだけだ。いつもと同じように。
半年前に入籍した亜紀とは、いい家が見つかるまでは互いの実家で暮らすことにしていた。
互いにあまりおしゃべりする方ではないが、朝晩は必ずメールを送り合うようにしている。付き合っていた頃からの習慣だ。
明日も頑張ろう、とか、体に気を付けて、とか。俺たち夫婦のメールはいつもそんなものだが、不思議と寂しくはなかった。
時計を見ると23時を過ぎている。
「明日も早いし、寝るか」
いつも通り亜紀にメールを送り、俺はベッドの中で目を閉じたーーー。
バァッ……!
「うわっ!」
眩し!誰だ、いきなり電気つけたの!
「起きるのです、黒部 勇人ーーー」
眩しい部屋に、知らない誰かの声がする。
ーーー女か?
てか、俺いつの間にベッドから出たんだ?
ってか眩しいんですけど!
「起きるのですーーー」
いや、起きてるし。眩しいから起きたし!
「なんか分からんが、とりあえずこの、眩しいのどうにかしてくれ」
俺がそう言うと、光量がだんだん弱くなってきた。
うっすらと目を開けてみる。目がショボショボして焦点が合わんーーー。
「うぅ……」
まばたきを繰り返していると、ようやく視力がまともになってきた。
でも、戻った視力がここは俺の部屋じゃないと訴える。
テレビがない、電灯がない、窓がない、ベッドがない。
俺の正面に少し離れて、一人の女が浮いている。
「ここは?あんたは?これはいったいどういうことだ?」
「落ち着きなさい、黒部 勇人」
「なんで俺の名前を知っている?」
わからんことだらけだ。とりあえず、もう一度聞いておこう。
「あんた、誰?」
あ、コイツ今ため息つきやがった。
「私はフィオネス。ラフィーアの女神です」
ため息混じりに言いやがったよコイツ……ってーーー。
「女神?」
「そう、女神フィオネスです」
「……初めて聞く神様だな」
それっぽい服装ではあるが。それに浮いてるし。
「当然です。私はラフィーアの女神であり、地球の女神ではないからです。分かりやすく言えば、異世界の女神となるでしょうか」
ふーん、そうか。
「夢だな。リアルな夢だ」
「……はぁ」
そんなかわいそうなものを見る目でこっちを見るな。失礼な。
「夢ではありません。地球もラフィーアも、確かに存在しているのです」
いや、地球はわかるけどね。いきなり異世界って言われてもなぁ。
「では、こうしましょう」
ガンッ!
「痛っ!」
なんか降ってきた!石か!?
「魔法です」
ガガガンッ!
「あだだだっ!」
「分かっていただけましたか?」
分かった、分かった、分かりましたからっ!
「笑いながら石を落とすな!」
ガンッ!
「いてぇっ!」
「おまけです」
「いらんわっ!」
「信じていただけましたか?」
右手で口元を隠しながら、女神様がこちらを見ている。
まぁ、痛かったしなぁ。足元に目をやると、さっき落ちてきた石が光になって消えていった。
「……はい」
「それはよかった。それでは、話を進めましょう」
そう言って、女神様はにっこりと笑った。
「私のラフィーアは、まだ若い世界です」
「はぁ」
「若い世界には、神々の力が必要です」
「へぇ」
ガンッ!
「あだっ!」
「真面目に聞くのです」
「……聞いてるって……」
分かった、睨むな。あんた女神様だろう?
「こほん」
「……続きをどうぞ、お願いします」
「若い世界には、神々の力が必要です」
2回目だな。
「神々とはつまり、女神である私の子供達になるのですが、そのひとつを、貴方に育てていただきたいのです」
女神様はそこまで言いきると、満足そうにうなずいた。
いやいや、ちょっと待て。
「女神様の子を?」
「そうです」
「ラフィーアで?」
「もちろん」
俺新婚で、仕事もあるぞ?
「ムリ」
これが現実で、異世界があるところまではいいだろう。石痛かったし。
でも、異世界には行けないだろ、どう考えても。
「俺はまだ死んでないから、今の生活を捨てるわけにはいかん」
女神様は微笑んだ。
「ご心配なく。貴方は黒部 勇人のままで構いません」
ん?
「黒部 勇人でありながら、ラフィーアでも生きていただきたい。そして、新たな神を育ててほしいのです」
「……どうやって?」
「貴方の魂に限り、地球とラフィーアを同時に認識できるよう、人格のみを転移します」
「……人格……転移?」
「そうです。地球の黒部 勇人という存在はそのままに、ラフィーアに貴方を受け入れる器を用意します。そして、黒部 勇人と器の中を貴方の魂が自由に行き来できるようにするのです」
「いや、するのですと言われても」
てか、俺はやらんと言ったんだが。
あれ?女神様手のひらが光ってますよ?
「これが、新たな神となる『女神の御子』です」
「光の球?」
うわっ、こっち来た。
「女神の御子は、成熟すれば新たな神となり強い力を持ちます」
「……はぁ」
俺の顔の前に浮かんでる、野球のボールくらいのこの光の球がねえ。
「ですが、成長するためには神以外の魂に触れなければならないのです」
ならないのですか。そうですか。
「と、いうわけで、ラフィーアでその子を育ててほしいのです」
育児放棄だよな、それ。
営業部の主任になって1年。やっと業務が落ち着いた気がする。
特に急な依頼がなければ、家につくのは大体20時頃という状況だ。
あとは夕食、風呂とのんびりしたあとに、嫁さんにメールを送って寝るだけだ。いつもと同じように。
半年前に入籍した亜紀とは、いい家が見つかるまでは互いの実家で暮らすことにしていた。
互いにあまりおしゃべりする方ではないが、朝晩は必ずメールを送り合うようにしている。付き合っていた頃からの習慣だ。
明日も頑張ろう、とか、体に気を付けて、とか。俺たち夫婦のメールはいつもそんなものだが、不思議と寂しくはなかった。
時計を見ると23時を過ぎている。
「明日も早いし、寝るか」
いつも通り亜紀にメールを送り、俺はベッドの中で目を閉じたーーー。
バァッ……!
「うわっ!」
眩し!誰だ、いきなり電気つけたの!
「起きるのです、黒部 勇人ーーー」
眩しい部屋に、知らない誰かの声がする。
ーーー女か?
てか、俺いつの間にベッドから出たんだ?
ってか眩しいんですけど!
「起きるのですーーー」
いや、起きてるし。眩しいから起きたし!
「なんか分からんが、とりあえずこの、眩しいのどうにかしてくれ」
俺がそう言うと、光量がだんだん弱くなってきた。
うっすらと目を開けてみる。目がショボショボして焦点が合わんーーー。
「うぅ……」
まばたきを繰り返していると、ようやく視力がまともになってきた。
でも、戻った視力がここは俺の部屋じゃないと訴える。
テレビがない、電灯がない、窓がない、ベッドがない。
俺の正面に少し離れて、一人の女が浮いている。
「ここは?あんたは?これはいったいどういうことだ?」
「落ち着きなさい、黒部 勇人」
「なんで俺の名前を知っている?」
わからんことだらけだ。とりあえず、もう一度聞いておこう。
「あんた、誰?」
あ、コイツ今ため息つきやがった。
「私はフィオネス。ラフィーアの女神です」
ため息混じりに言いやがったよコイツ……ってーーー。
「女神?」
「そう、女神フィオネスです」
「……初めて聞く神様だな」
それっぽい服装ではあるが。それに浮いてるし。
「当然です。私はラフィーアの女神であり、地球の女神ではないからです。分かりやすく言えば、異世界の女神となるでしょうか」
ふーん、そうか。
「夢だな。リアルな夢だ」
「……はぁ」
そんなかわいそうなものを見る目でこっちを見るな。失礼な。
「夢ではありません。地球もラフィーアも、確かに存在しているのです」
いや、地球はわかるけどね。いきなり異世界って言われてもなぁ。
「では、こうしましょう」
ガンッ!
「痛っ!」
なんか降ってきた!石か!?
「魔法です」
ガガガンッ!
「あだだだっ!」
「分かっていただけましたか?」
分かった、分かった、分かりましたからっ!
「笑いながら石を落とすな!」
ガンッ!
「いてぇっ!」
「おまけです」
「いらんわっ!」
「信じていただけましたか?」
右手で口元を隠しながら、女神様がこちらを見ている。
まぁ、痛かったしなぁ。足元に目をやると、さっき落ちてきた石が光になって消えていった。
「……はい」
「それはよかった。それでは、話を進めましょう」
そう言って、女神様はにっこりと笑った。
「私のラフィーアは、まだ若い世界です」
「はぁ」
「若い世界には、神々の力が必要です」
「へぇ」
ガンッ!
「あだっ!」
「真面目に聞くのです」
「……聞いてるって……」
分かった、睨むな。あんた女神様だろう?
「こほん」
「……続きをどうぞ、お願いします」
「若い世界には、神々の力が必要です」
2回目だな。
「神々とはつまり、女神である私の子供達になるのですが、そのひとつを、貴方に育てていただきたいのです」
女神様はそこまで言いきると、満足そうにうなずいた。
いやいや、ちょっと待て。
「女神様の子を?」
「そうです」
「ラフィーアで?」
「もちろん」
俺新婚で、仕事もあるぞ?
「ムリ」
これが現実で、異世界があるところまではいいだろう。石痛かったし。
でも、異世界には行けないだろ、どう考えても。
「俺はまだ死んでないから、今の生活を捨てるわけにはいかん」
女神様は微笑んだ。
「ご心配なく。貴方は黒部 勇人のままで構いません」
ん?
「黒部 勇人でありながら、ラフィーアでも生きていただきたい。そして、新たな神を育ててほしいのです」
「……どうやって?」
「貴方の魂に限り、地球とラフィーアを同時に認識できるよう、人格のみを転移します」
「……人格……転移?」
「そうです。地球の黒部 勇人という存在はそのままに、ラフィーアに貴方を受け入れる器を用意します。そして、黒部 勇人と器の中を貴方の魂が自由に行き来できるようにするのです」
「いや、するのですと言われても」
てか、俺はやらんと言ったんだが。
あれ?女神様手のひらが光ってますよ?
「これが、新たな神となる『女神の御子』です」
「光の球?」
うわっ、こっち来た。
「女神の御子は、成熟すれば新たな神となり強い力を持ちます」
「……はぁ」
俺の顔の前に浮かんでる、野球のボールくらいのこの光の球がねえ。
「ですが、成長するためには神以外の魂に触れなければならないのです」
ならないのですか。そうですか。
「と、いうわけで、ラフィーアでその子を育ててほしいのです」
育児放棄だよな、それ。
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