カミサマの父子手帳~異世界子育て日記~

青空喫茶

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四章

悪友との再会

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 俺達はトロイアーノが手配してくれた宿で、首都クルムベルクの朝を迎えた。さすがに日が暮れてから国王陛下に拝謁しようってのは失礼だったからな。旅の疲れもあったから、昨日はゆっくり休むことにした。
 俺は宿の食堂でぼんやりと紅茶を飲みながら、昔見た映画のシーンを思い出す。確か王の間に入ってから、片膝ついてご挨拶……中世を舞台にしたよくあるB級映画だ。ラフィーアコッチのマナーなんか知らないけど、これならまあ、問題ないだろ。
 そんなことを考える俺の横では、クシナダとトトが朝メシを食べている。2人とも胃はすこぶる健康らしく、既に朝メシの量を軽く超えてるな。おかしいな、1番体が大きい俺より食ってるぞ。
「2人ともその辺にしとけよ。あんまり食うと動けなくなるぞ?」
 2人は目の前の皿から顔を上げた。クシナダがきょとんとした顔で俺を見ている。
御主人マスター、まだ大丈夫だよ?」
「ユートこそ、そんなんで足りるのかい?」
 逆に心配するようにトトが首を傾げた。ちなみに食堂の朝食は、拳くらいのパン2つとスクランブルエッグにソーセージ、後は野菜サラダ。うん、俺はとっくに満腹なんだけど……。
「……ほんと、ほどほどにしとけよ?」
 4つ目のパンをほおばるクシナダと、2杯目のスクランブルエッグに突入するトトを眺めて苦笑を漏らす。ほんと、そのちっこい体のどこに入るんだよ、お前ら。結局2人が食べた朝メシの量は、ちょうど2人前ずつ。もしかするとクシナダのおなかは本当に次元鞄になっているのかもしれない。
 食後の紅茶を飲みながら満足そうにしている2人を眺めつつ、俺はそんなことを考えていた。
 しばらくして、トロイアーノが俺達を迎えに来た。今のトロイアーノの立場は少しややこしく、表向きは属国の客将として城の近くの宿に宿泊している。城にいるという女神の御子が、息をするように魔力探知ができる場所に建てられている宿で、民間ではなく公営なんだそうだ。トロイアーノの魔力は青いから、監視なんかする必要も無いと思うんだけどな。
 迎えに来たトロイアーノの案内で、俺達は城へと向かった。朝もまだ早いというのに、街には人通りが多い。街並みはベルセンとあまり変わらない。違うのは建物の高さと広さかな。高い城壁に囲まれたベルセンの建物は、そのほとんどが建てに伸びるように作られていた。高いものだと5階建てのものもあるしな。
 でも、クルムベルクの建物はその逆で、高さは高いものでも3階建て、代わりに横幅が最低でもベルセンの建物の3倍はある。広いマンハイムと同じ大きさの建物がごろごろしてるのには驚いた。クルムベルクも旧市街と新市街に分かれていて、パルジャンス城周辺が旧市街なんだとか。
 出発前にトロイアーノが地図を広げて説明してくれたんだけど、旧市街は建国当時の街並みで、公営のものがほとんどらしい。旧市街は城を中心に放射状に広がっていて、旧市街の端には旧市街を囲むように大通りが配置されていた。城の背後には山脈があるから、城の東西から南に向けて旧市街が広がっている。ちょうど野球のホームベースみたいな感じだな。そのホームベースの枠から外が新市街で、こちらは細かく区画が整理されているみたいだ。ホームベースの各辺に隣接するように正方形の形をした区画が4つ。正方形と正方形の間は三角形の区画に区切られていて、3つ。五角形の旧市街の周りを新市街が囲み、クルムベルクの街並みは大きな七角形になっていた。そしてその周囲を、昨日俺達が目にした城壁が囲んでいるわけだな。
 トロイアーノの話によると、クルムベルクの大きさはベルセンの倍くらいだそうだ。ここまで説明を受けて、俺は少し複雑な気分になった。ベルセンで冒険者やってる俺より、テオロス帝国の軍人の方がこの街のことをよく知っている。うーん、俺もパルジャンス王国のことをもっと知るべきなのかなあ。戻ったらスザンヌに教えてもらうか。
 クシナダと手をつないで4人で連れ立って大通りを歩く。これははぐれたら迷子決定だな。さすがのトトもびびったらしく、俺の右肩に陣取って落ちないようにしがみついていた。
 道の端を歩きながら城へ向かっていると、前方に大柄な犬耳男の姿を見つけた。鎧姿の見慣れない男を連れている。とりあえず呼んでみるか。
「ドミニク!おーい!」
 分かりやすいように右手を挙げて声をかけると、ドミニクも俺達に気が付いたようだ。人ごみの中をするすると抜けて歩いてくる。でかい割に器用な奴だ。
「ボウズ、早かったな」
 俺達の前で立ち止まると、ドミニクは人懐っこい笑顔で俺達を迎えてくれた。
「そうか?丸2日かかったから、こんなもんだろ」
「……そうじゃねえよ。お前、旦那と会ってすぐに出発したんだろ?」
 ドミニクが苦笑した。どうやらドミニクは、俺がごねるだろうと思っていたらしい。バカだなあ、俺がごねたらトロイアーノがいつまでもベルセンにいることになるじゃないか。おっさんの監視付きで冒険者やるほど奇特じゃないって。
「まあ、用事は早めに済ませたほうがいいだろ」
「にしてもボウズが素直に動くなんてな」
 失礼な。俺はいつも素直だっつーの。
「国王陛下の召喚状を、将軍がわざわざ持ってきてくれたのにごねるわけないだろ」
「いやいや、お前のことだからな」
「どういう意味だ?」
「そういう意味だ」
 やかましいわ大型犬。俺とドミニクは声を上げて笑った。
「……ひどいですよ、ドミニクさん」
 ドミニクの背後から、控えめな声がする。笑うのをやめると、ドミニクの影から先ほど一緒に歩いていた鎧姿の男が姿を現した。金属と革で作られた鎧に身を包んだ、俺より背の低い若い男が遠慮がちに佇んでいる。
「置いてかないでくださいよ」
 拗ねるようにドミニクを見上げる男は、男と言うよりまだ子供みたいな顔つきだ。茶色いショートボブから覗く、大きな茶色い瞳のせいでそう見えるのかも。声変わり前かな、声も甲高い。
「ああ、わりいわりい」
 頭2つくらい背の低い少年にまとわりつかれ、ドミニクが苦笑している。まるで小型犬に懐かれた大型犬みたいだ。
「ドミニク、この人は?」
「ああ、初めてか?こいつはジャクリーン、最近俺が面倒みている新人だ」
 ジャクリーン……ってことは女の子?
「はじめまして!ジャクリーンです!」
 ジャクリーンがばね仕掛けの人形のように勢いよくお辞儀する。朝から元気な子だな。
「ジャッキーって呼んでください!」
 ああ、はいどうも。俺も軽く頭を下げながら挨拶する。よく見ると体のラインが柔らかい。なるほど、女の子か。失礼しました。
「俺はユート=スミス。マンハイムの冒険者だ、よろしく」
「クーちゃんはね、クシナダ=スミス!クーちゃんも冒険者だよ!」
 俺が挨拶すると、クシナダも俺に続いた。俺達の素性を聞き、ジャクリーンが目を見開く。
「ああああなたがユートさんですか!あの有名な山猫殺し!」
「……は?」
 何それ初耳。
「あははは、すごいねえユート。かっこいい二つ名じゃないかい」
「……トト、お前は笑っちゃまずいんじゃないか?」
 ちんちくりんだけど、お前も大山猫だろ?トトは俺のツッコミをスルーして笑いこけている。
「他にも!」
 ジャクリーンが手を叩く。え、まだあるの?
「天使の保護者!ベルセンのお人よし!妖精の恋人!……えーと、あとは……」
「もういい、もういいから!」
 指折り数えるジャクリーンを慌てて止める。いろいろ聞き捨てならないが、妖精の恋人って何!?
「はははは、さすがはユート殿だ。こんなに二つ名のある冒険者など聞いたことがない」
 楽しそうだね、将軍。俺は全然楽しくないぞ?ジト目で睨んでやると、トロイアーノはにやりと笑った。
「ちなみに我が国では……」
「いい!聞きたくない!」
 なんでそっちでも俺にあだ名がついてんだよ。トロイアーノを慌てて止めると、ドミニクが苦笑していた。
「まあ、あれだ。派手にやりすぎたな、ボウズ」
「ねえねえ、クーちゃんには?クーちゃんには?」
 気が付くとクシナダが羨ましそうに俺を見上げていた。いやあ、あだ名なんか嬉しくないぞ?
「えーっとですね、クシナダ先輩には……」
「先輩?」
 俺はジャクリーンに聞き返すと、彼女は当然のように頷いた。
「はい、私はクシナダ先輩の後に冒険者になりましたから。お2人にお会いするのは今日が初めてですが、いろいろお話は伺っていますよ」
 にっこりと笑うジャクリーン。いい笑顔なんだけど、誰から何の話を聞いたんだ?
「ねえねえジャッキーちゃん。クーちゃんのあだ名は!?」
「はい、先輩」
 ジャクリーンに先輩と呼ばれてクシナダが照れる。にっこりと笑ってジャクリーンが続けた。
「先輩の二つ名はですね、ベルセンの花と巨人の指揮者の2つですね」
「わあ!」
「あ、いいなクシナダ。2つともかっこいいな」
御主人マスターのもかっこいいよ?」
「……そうか?」
 山猫殺しはともかく、他のはいろいろと他意を感じるんだけども……。
「……恋人って誰なんだろうね~?」
 にやにやしながらクシナダが俺を見上げてくる。俺がため息をつくと、ドミニクとトロイアーノが豪快に爆笑した。トトには頭をぽんぽんされて、ジャクリーンはと言うと……。
「よろしくお願いしますね!先輩方!」
 とてもいい笑顔で俺達を見つめていた。
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