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オマケ
何やかや危うかったヒト
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※五羽の前半より少し後くらいの話です。
静かな、そして凛とした空気が部屋を支配していた。
星司は美しく正座して文机に向かっている立夏の後ろ姿にじっとりと視線を注ぐ。
浴衣の襟から覗く白いうなじがなまめかしい。延びた背筋の下にある折り畳まれたなめらかな足のことを考えるだけで股間がじわりと熱を持つ。
しかし、残念ながら今は「待て」の時間だ。立夏の仕事を邪魔するわけにはいかない。
これまで立夏の仕事中には、星司は別の場所で過ごしていた。だが、愛の告白が受け入れられて以後は、許される限り立夏の側についている。ここで邪魔をして出入り禁止にされてはたまらない。
息さえ殺してじっと見つめることしかできない。だから、「これが西洋机であれば、置き所のない足を裸にし、その指をしゃぶり尽くして時間を潰すこともできたのに」と妄想をたくましくするのが関の山なのである。
不意に立夏が身震いをひとつして、星司を振り返った。
「もうすぐ、もう少しで終わるのやけど……。かんにんな、星司クン」
「いえ、お気になさらず」
答えながら星司は、立夏が振り向いてくれたことを嬉しく思った。少女のように儚い美貌の彼の恋人は、曖昧に笑うとまた文机へと体を戻した。
目下のところ、この泣き虫で臆病な想い人との距離をじわりじわりと縮めている星司だったが、気がかりなことがひとつだけあった。
いや、我慢できずに襲いかかって立夏を壊してしまいそうな自分自身もまた懸念材料のひとつではあるが……それはさておき。立夏のクラスメートのことである。
ちらりとだけ見かけた、立夏にべったりと抱きついていた軽薄そうな少年……。立夏の肩を抱き寄せ、無遠慮に頬に顔をくっつけていた。今思い出しても腸が煮えくり返るようだ。
いっそ呪殺してしまおうかとも思う。そうすることで立夏がどう出るか、星司はそっと探りを入れてみることにした。
「立夏、三条というクラスメートが死んだら、悲しみますか?」
「えっ、唐突になんなん? そりゃあ、僕のクラスメートやもの。ひどぅ悲しむか言われたらわからへんけど、普通に悲しいわなぁ。だって、僕とおない年やよ? そんな若さで亡くなってもうてたら、可哀想やん?」
立夏は色の薄い瞳を真ん丸にして星司を見つめた。そんな邪気のない様子に、星司もふっと口許を弛める。
「立夏は、優しいですね」
「ええ? そやろか……。それで、なんか見えたん?」
「え?」
「三条クン。なんか死相でも見えたんやろか思うて」
「ええ、まあ。そんなところです」
「なんとか、ならんやろか……」
「……本人に忠告しておきますね」
「ほんま? ほなら、大丈夫やろか。おおきに、星司クン」
「いえ」
ふんわり微笑む立夏を目にして、星司は心の中であの少年に対して舌打ちをした。
(命拾いしたな、あのガキ)
危ういところで自分の命が助かったことを、三条少年はもちろん知らない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
静かな、そして凛とした空気が部屋を支配していた。
星司は美しく正座して文机に向かっている立夏の後ろ姿にじっとりと視線を注ぐ。
浴衣の襟から覗く白いうなじがなまめかしい。延びた背筋の下にある折り畳まれたなめらかな足のことを考えるだけで股間がじわりと熱を持つ。
しかし、残念ながら今は「待て」の時間だ。立夏の仕事を邪魔するわけにはいかない。
これまで立夏の仕事中には、星司は別の場所で過ごしていた。だが、愛の告白が受け入れられて以後は、許される限り立夏の側についている。ここで邪魔をして出入り禁止にされてはたまらない。
息さえ殺してじっと見つめることしかできない。だから、「これが西洋机であれば、置き所のない足を裸にし、その指をしゃぶり尽くして時間を潰すこともできたのに」と妄想をたくましくするのが関の山なのである。
不意に立夏が身震いをひとつして、星司を振り返った。
「もうすぐ、もう少しで終わるのやけど……。かんにんな、星司クン」
「いえ、お気になさらず」
答えながら星司は、立夏が振り向いてくれたことを嬉しく思った。少女のように儚い美貌の彼の恋人は、曖昧に笑うとまた文机へと体を戻した。
目下のところ、この泣き虫で臆病な想い人との距離をじわりじわりと縮めている星司だったが、気がかりなことがひとつだけあった。
いや、我慢できずに襲いかかって立夏を壊してしまいそうな自分自身もまた懸念材料のひとつではあるが……それはさておき。立夏のクラスメートのことである。
ちらりとだけ見かけた、立夏にべったりと抱きついていた軽薄そうな少年……。立夏の肩を抱き寄せ、無遠慮に頬に顔をくっつけていた。今思い出しても腸が煮えくり返るようだ。
いっそ呪殺してしまおうかとも思う。そうすることで立夏がどう出るか、星司はそっと探りを入れてみることにした。
「立夏、三条というクラスメートが死んだら、悲しみますか?」
「えっ、唐突になんなん? そりゃあ、僕のクラスメートやもの。ひどぅ悲しむか言われたらわからへんけど、普通に悲しいわなぁ。だって、僕とおない年やよ? そんな若さで亡くなってもうてたら、可哀想やん?」
立夏は色の薄い瞳を真ん丸にして星司を見つめた。そんな邪気のない様子に、星司もふっと口許を弛める。
「立夏は、優しいですね」
「ええ? そやろか……。それで、なんか見えたん?」
「え?」
「三条クン。なんか死相でも見えたんやろか思うて」
「ええ、まあ。そんなところです」
「なんとか、ならんやろか……」
「……本人に忠告しておきますね」
「ほんま? ほなら、大丈夫やろか。おおきに、星司クン」
「いえ」
ふんわり微笑む立夏を目にして、星司は心の中であの少年に対して舌打ちをした。
(命拾いしたな、あのガキ)
危ういところで自分の命が助かったことを、三条少年はもちろん知らない。
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