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二章「結婚の儀」
四十話「守護者の家族」前編
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「乱暴で勝手で小憎(こにくた)らしい弟ですが」コレウスを睨み付けながら、白い髪の美女が頭を下げた。彼女はファレノプシス、コレウスのお姉さんだ。
「本当は優しいんです。愛した人は大切にしますから、見放さないでやって下さい」下を向いて続ける、その耳が赤くなっている。
今日は結婚の儀に参加する守護者の家族が、離宮を訪れて顔合わせすることになっている。来られない人は、警備の都合で参列できないと説明してあるそうだ。
朝一番の来訪者はファレンだった。仲の悪いお兄さんは離宮の結界に阻まれて入れなかったらしい。コレウスが結界調整の依頼を受けて、無理だと断わり黒く笑っていた。
「高慢で面倒な姉だが」コレウスは皮肉な笑みを浮かべた。
「離宮へは入れたんだから、貴女に隔意はない。セントラルの防波堤として辺境を守っている父の補佐で、後継である嫁き遅れだ」
「貴方が後を継いでくれたら、わたしだって結婚してたもの! 出て行ったきりで。あの子のことは謝っているでしょ、お父様もお祖母さまもずっと待ってたのよ?」お姉さんの金の目が涙で流れ出しそうだ。
「彼奴の顔を見ていたら、殺してしまいそうだったからな。こうなったからには、諦めて継いでくれ。姉貴なら出来るだろう。婿が来るかは知らんが」コレウスが困ってる。意地悪するからよ。
「酷い奴ですよね、こんなに綺麗で優しいお姉さんを泣かせるなんて」パースランが見ていられなくなったらしく、お姉さんの手を引いて奥の間に連れて行く。コレウスが呑気な顔で後に続いてるから、いつもこんな感じなんだろう。
「一言も挨拶してないわ」私が呟くと
「パースランがしてくれるさ」とヒビスクスが返してくれた。
次はパクレットのお兄さん、ラッセルだ。
「弟がお世話を掛けます。両親は夕食まで来れそうにないので、先に来ました」ぺこりと頭を下げる。背が高く朴訥な青年で、薄紫の髪と優しい薄緑の細い目が印象的だ。
「パクレットはとても頑張ってくれています。みんな助かってるんですよ」イオナンタが笑顔で答えて、頬を染めるパクレットを挟んで三人で話し始めた。
それからタリーの家族が来てくれた。両親と姉、弟と妹、姉婿とその腕に抱かれた姪。
実は彼らは、タリーが伴侶に選定された翌日に、王宮の宿舎に移っていたそうだ。
「会いたかったわ」私もタリーの家族と次々抱き合って、涙を流す。彼らの安全が気にかかっていたからホッとした。
彼らは私の甘えや癇癪を受けとめ、時には笑い飛ばして、タリーと一緒に育ててくれた。義母プリムラは商家出身なので、末端でも貴族である騎士爵の貴族教育はタリーの両親が担当だった。
「タリーの宿願が果たされて、胸を撫で下ろしたよ」タリーの父親の言葉に一家全員が頷く。
「酷いなぁ、そんなに迷惑かけてた?」笑うタリーを、各々がじっとりと見つめる。
「まぁ、ここでは言わないであげるよ」タリーの弟が首を振りながら偉そうに言うのに、みんなで笑った。
私の家族が到着し、タリーの家族と合流した。タリーの弟妹達は大はしゃぎだ。
タリーの弟はスパティフィラムと同い年で、双子のように育った。水属性の彼は、半年前から王宮の治癒院で修行中だ。巫女姫の治療も手伝ったらしい。
巫女姫の話になると頬を染めるから、もしや……と思ったら。
「弟も巫女姫の守護者候補だって」とタリーに囁かれた。巫女姫が単婚を選べば、どちらかが失恋するのね。二人でため息を吐いた。
ヒビスクスの家族代わりに騎士団長、イオの家族として巫女長も来てくれた。
昼の参加予定者が集まったところで昼食となる。平民や末端貴族には豪華な食事で、タリー家族の子ども達は大喜び。デザートまで食べ切れず、包んでもらっていた。
昼食時には大事件が起きた。パクレットのお兄さんがコレウスのお姉さんに一目惚れしたらしい。見惚れたまま固まってしまって、周囲は困惑した。相手は大貴族の後継者だし。
「商家の子息は領地では大歓迎されるぞ。祖父が死んでから、セントラルとの取り引きでは振り回されるばかりだからな。奥手の姉の相手まで頼めるなら、祖母が泣いて喜ぶ」
コレウスの言葉に、二人が真っ赤になる。これは脈があるかもしれない。
コレウスの目が光って見えた。ロックオン、てところね。もう逃げられないわ。
昼食後に一旦解散。可能な人には離宮内を案内して、忙しい人などには、当日の説明を受けて帰って貰う。
十六才未満の子どもとその親、騎士団長と巫女長は昼食後に帰って行った。
そして午後一番に、飛び入りの来客があった。
「本当は優しいんです。愛した人は大切にしますから、見放さないでやって下さい」下を向いて続ける、その耳が赤くなっている。
今日は結婚の儀に参加する守護者の家族が、離宮を訪れて顔合わせすることになっている。来られない人は、警備の都合で参列できないと説明してあるそうだ。
朝一番の来訪者はファレンだった。仲の悪いお兄さんは離宮の結界に阻まれて入れなかったらしい。コレウスが結界調整の依頼を受けて、無理だと断わり黒く笑っていた。
「高慢で面倒な姉だが」コレウスは皮肉な笑みを浮かべた。
「離宮へは入れたんだから、貴女に隔意はない。セントラルの防波堤として辺境を守っている父の補佐で、後継である嫁き遅れだ」
「貴方が後を継いでくれたら、わたしだって結婚してたもの! 出て行ったきりで。あの子のことは謝っているでしょ、お父様もお祖母さまもずっと待ってたのよ?」お姉さんの金の目が涙で流れ出しそうだ。
「彼奴の顔を見ていたら、殺してしまいそうだったからな。こうなったからには、諦めて継いでくれ。姉貴なら出来るだろう。婿が来るかは知らんが」コレウスが困ってる。意地悪するからよ。
「酷い奴ですよね、こんなに綺麗で優しいお姉さんを泣かせるなんて」パースランが見ていられなくなったらしく、お姉さんの手を引いて奥の間に連れて行く。コレウスが呑気な顔で後に続いてるから、いつもこんな感じなんだろう。
「一言も挨拶してないわ」私が呟くと
「パースランがしてくれるさ」とヒビスクスが返してくれた。
次はパクレットのお兄さん、ラッセルだ。
「弟がお世話を掛けます。両親は夕食まで来れそうにないので、先に来ました」ぺこりと頭を下げる。背が高く朴訥な青年で、薄紫の髪と優しい薄緑の細い目が印象的だ。
「パクレットはとても頑張ってくれています。みんな助かってるんですよ」イオナンタが笑顔で答えて、頬を染めるパクレットを挟んで三人で話し始めた。
それからタリーの家族が来てくれた。両親と姉、弟と妹、姉婿とその腕に抱かれた姪。
実は彼らは、タリーが伴侶に選定された翌日に、王宮の宿舎に移っていたそうだ。
「会いたかったわ」私もタリーの家族と次々抱き合って、涙を流す。彼らの安全が気にかかっていたからホッとした。
彼らは私の甘えや癇癪を受けとめ、時には笑い飛ばして、タリーと一緒に育ててくれた。義母プリムラは商家出身なので、末端でも貴族である騎士爵の貴族教育はタリーの両親が担当だった。
「タリーの宿願が果たされて、胸を撫で下ろしたよ」タリーの父親の言葉に一家全員が頷く。
「酷いなぁ、そんなに迷惑かけてた?」笑うタリーを、各々がじっとりと見つめる。
「まぁ、ここでは言わないであげるよ」タリーの弟が首を振りながら偉そうに言うのに、みんなで笑った。
私の家族が到着し、タリーの家族と合流した。タリーの弟妹達は大はしゃぎだ。
タリーの弟はスパティフィラムと同い年で、双子のように育った。水属性の彼は、半年前から王宮の治癒院で修行中だ。巫女姫の治療も手伝ったらしい。
巫女姫の話になると頬を染めるから、もしや……と思ったら。
「弟も巫女姫の守護者候補だって」とタリーに囁かれた。巫女姫が単婚を選べば、どちらかが失恋するのね。二人でため息を吐いた。
ヒビスクスの家族代わりに騎士団長、イオの家族として巫女長も来てくれた。
昼の参加予定者が集まったところで昼食となる。平民や末端貴族には豪華な食事で、タリー家族の子ども達は大喜び。デザートまで食べ切れず、包んでもらっていた。
昼食時には大事件が起きた。パクレットのお兄さんがコレウスのお姉さんに一目惚れしたらしい。見惚れたまま固まってしまって、周囲は困惑した。相手は大貴族の後継者だし。
「商家の子息は領地では大歓迎されるぞ。祖父が死んでから、セントラルとの取り引きでは振り回されるばかりだからな。奥手の姉の相手まで頼めるなら、祖母が泣いて喜ぶ」
コレウスの言葉に、二人が真っ赤になる。これは脈があるかもしれない。
コレウスの目が光って見えた。ロックオン、てところね。もう逃げられないわ。
昼食後に一旦解散。可能な人には離宮内を案内して、忙しい人などには、当日の説明を受けて帰って貰う。
十六才未満の子どもとその親、騎士団長と巫女長は昼食後に帰って行った。
そして午後一番に、飛び入りの来客があった。
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