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【第一章】チューニング
新世界
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「やだっ! ちょっとQ! アンタなんとかしなさいよ! なんか知ってるんでしょ!?」
すっかり腰を抜かした私はそう言って背後のQへと縋り付く。危機感と不安感で全身からじっとりと気味の悪い汗が滲み出した。
「知ってる。けど私が接触するわけにはいかないの」
私に肩を掴まれぐらぐらと揺らされながらもQは答える。実に涼やかな表情であった。冷ややかな印象を与えないのが底知れず冷ややかに感じられた。
「なんで!?」
「私が接触すれば戦争が繰り返されてしまう」
「は!? 知らないって! そういうのはいいから私の命を優先してよ!」
「抹殺……」
背後から地鳴りのように変貌した校長の声。
全神経を劈くような強烈な殺気。
私は瞬時に校長の方を振り返る。
見ると、巨大なトカゲ男と化した校長はゆっくりと虚空に手を翳し、どういうトリックか、無から同じく巨大なハンターナイフを精製したではないか。
「『振絶』展開」
そう言ってトカゲは一度ナイフを空気中でブンと振るう。すると、遠くの景色の色味が薄く紫がかって見えるようになった。
彼はそのままナイフを大きく振りかぶる。鋭利な視線は真っ直ぐにこちらを見据えていた。
「抹殺だ」
彼の大きな口が動いた。蛇のような舌が彼の口内で踊っていた。
「やだっ……やだやだやだっ!!」
身長差によりほぼ垂直に迫り来るナイフ。私は手をかけているQの肩を起点とし、強く地面を蹴り、なんとか横っ飛びしてそれを寸前で回避する。
体を打ち付けながらも芝生からグラウンドの砂地へと転がる。砂が絡みガサガサになった髪を振り乱して、私はつい先程まで自分の居た場所を確認する。
トカゲのナイフはQのすぐ隣の地面を深く深く抉っていた。インパクトにより細切れになった芝生付きの大地が空気中へと弾け飛ぶ。それはまるで地球の血飛沫のようにも見えた。
しかし不思議だ。それらはQを避けるようにして飛び散っている。まるでQが透明な箱に入れられ、事態から隔離されているようだ。そしてQ自身はまったくと言っていいほど動じていない。
Qは知っているのだ。別ルール、別の常識、そういったもの。そして何も知らない私だけがこのようにして抹殺されていくのである。
自然の摂理。社会常識。これが秩序なのだろう。
トカゲの大きな目玉がギョロリと動き、すぐにこちらを捉える。
間違いなく殺される。
呼吸が限りなく早くなっていく。汗が無尽蔵に染み出し、身につけているもの全てをどしゃ降りの後みたいにぐっしょりと濡らした。
トカゲの口元から白い息の塊がふうと漏れ出す。きっと非常に高熱なのだ。
「小娘……」
トカゲは深く埋まったナイフを引き抜き、ゆらりゆらりとこちらへ近付いてくる。
「やだ……やだって……」
口内に湧き上がる死臭を感じながら、私はずりずりと後ずさる。不条理に耐えきれず涙が滲み、歯がガタガタと震えた。汗と砂でもう制服に白い部分は残されていない。
Qはあんなにも真っ白なのに。
すっかり腰を抜かした私はそう言って背後のQへと縋り付く。危機感と不安感で全身からじっとりと気味の悪い汗が滲み出した。
「知ってる。けど私が接触するわけにはいかないの」
私に肩を掴まれぐらぐらと揺らされながらもQは答える。実に涼やかな表情であった。冷ややかな印象を与えないのが底知れず冷ややかに感じられた。
「なんで!?」
「私が接触すれば戦争が繰り返されてしまう」
「は!? 知らないって! そういうのはいいから私の命を優先してよ!」
「抹殺……」
背後から地鳴りのように変貌した校長の声。
全神経を劈くような強烈な殺気。
私は瞬時に校長の方を振り返る。
見ると、巨大なトカゲ男と化した校長はゆっくりと虚空に手を翳し、どういうトリックか、無から同じく巨大なハンターナイフを精製したではないか。
「『振絶』展開」
そう言ってトカゲは一度ナイフを空気中でブンと振るう。すると、遠くの景色の色味が薄く紫がかって見えるようになった。
彼はそのままナイフを大きく振りかぶる。鋭利な視線は真っ直ぐにこちらを見据えていた。
「抹殺だ」
彼の大きな口が動いた。蛇のような舌が彼の口内で踊っていた。
「やだっ……やだやだやだっ!!」
身長差によりほぼ垂直に迫り来るナイフ。私は手をかけているQの肩を起点とし、強く地面を蹴り、なんとか横っ飛びしてそれを寸前で回避する。
体を打ち付けながらも芝生からグラウンドの砂地へと転がる。砂が絡みガサガサになった髪を振り乱して、私はつい先程まで自分の居た場所を確認する。
トカゲのナイフはQのすぐ隣の地面を深く深く抉っていた。インパクトにより細切れになった芝生付きの大地が空気中へと弾け飛ぶ。それはまるで地球の血飛沫のようにも見えた。
しかし不思議だ。それらはQを避けるようにして飛び散っている。まるでQが透明な箱に入れられ、事態から隔離されているようだ。そしてQ自身はまったくと言っていいほど動じていない。
Qは知っているのだ。別ルール、別の常識、そういったもの。そして何も知らない私だけがこのようにして抹殺されていくのである。
自然の摂理。社会常識。これが秩序なのだろう。
トカゲの大きな目玉がギョロリと動き、すぐにこちらを捉える。
間違いなく殺される。
呼吸が限りなく早くなっていく。汗が無尽蔵に染み出し、身につけているもの全てをどしゃ降りの後みたいにぐっしょりと濡らした。
トカゲの口元から白い息の塊がふうと漏れ出す。きっと非常に高熱なのだ。
「小娘……」
トカゲは深く埋まったナイフを引き抜き、ゆらりゆらりとこちらへ近付いてくる。
「やだ……やだって……」
口内に湧き上がる死臭を感じながら、私はずりずりと後ずさる。不条理に耐えきれず涙が滲み、歯がガタガタと震えた。汗と砂でもう制服に白い部分は残されていない。
Qはあんなにも真っ白なのに。
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