シュガーグライダーズ

もっちり羊

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【第一章】チューニング

シュガー・グライド《彼岸花》

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 ガギンッ! 
 結果的に死は訪れなかった。逃避し、別れを告げたはずの世界から届いたのは痛みや終わりではなく、無機質な金属の激しい接触音のみであった。
「女ァ……」
 トカゲの声が耳に届く。ゆっくりとまぶたを開くと、そこには振り下ろされた巨大なナイフを片手で制止させるQの姿があった。それは普通ならば物理的にあり得ない光景であり、圧倒的質量差やQの手元に発生する光の不自然な屈折を見れば、それが未知のエネルギーによって起こされた現象であることは容易に想像することができた。
 トカゲはナイフへと体重をかけ、Qへの圧力を更に強めていく。
「何をしている。これは貴様らのやり口ではないだろう」
「制限振動数超過、振絶無断展開、多振動領域直接干渉」とQ。「これだけ理由があれば十分だと思うけれど」
「気でも狂ったか」
「もしそうならお互い様ね」
 Qはそう言うと、トカゲを抑えている方とは別の手に青白いエネルギーを球体の形で集約させ、トカゲの腹へと叩き込む。
「ぐわあああああああ!」
 トカゲはエネルギーに押し込まれて5メートルほど吹き飛び、背中から地面へと大きな音を立てて落下する。Qは両手を振るい、エネルギーを一度払う。そしてそのまま吹き飛んだトカゲの方へと歩いて行った。
 私は足をもつれさせ、転びそうになりながらもQとは逆方向へと必死で逃げる。
 これ以上こんなところには居たくない。私は食物連鎖の最下層にいるような気分になった。そしてここは食物連鎖のトップによる狩り場なのだ。
 ある程度の距離を走ると目に見えない壁にぶつかった。その先の景色はすべて薄く紫がかっている。恐らくあのトカゲによる何らかのトリックなのだろう。
 私は振り返る。トカゲとQが命のやり取りをしているのが見える。状況は圧倒的にQの有利に見えた。
 私は紫空間との境目に背中をつけてへたり込む。
「なんなんだ、これ」私は呟いた。
 私は何らかの気配を感じ、もう一度紫空間を見る。するとそこでは今朝の小動物が何も知らないという顔でボケッと四つ足で立っていた。
「あー!」可愛さの余り私は叫ぶ。「おチビ、探したんだよ~?」
 私は紫空間の前で低く四つん這いになり、小動物と目線を合わせた。
 小動物はキョロキョロと周りを見回したり、ボケッとしたりしている。よく見ると小刻みにぷるぷると震えているように見えた。
「おチビ~どした~?」私は猫撫で声で小動物へと指を向ける。
 するとその小動物は空間との境目を気にせず、両手を伸ばして私の指を一度ガシッと掴んだのである。
「うわっ!」私は指を引っ込める。
 小動物はあちらの空間で興奮し、くるくると走り回る。その回転のさなか、彼の長い尻尾が所々また境目を乗り越えているように見えた。
 小動物はやがてピタリ止まり、こちらを見る。
「駄目だよ、こっちは危ないから来ちゃ駄目。Qと校長先生が殺し合いしてるの。碌なことにならないからね」
 私はそう言い聞かせたが、小動物はやがて凧みたいに手足を拡げ、境目などものともせず、物凄い勢いで私の顔に飛び付いてきたのである。
「ぐあっ」突然の出来事に私は半分失神のような状態になった。「だめだって~、6なことにならない~……9と校長先生が~……」
 小動物が私の顔から離れると、私の目の前に燃え盛る《666》のビジョンが現れた。
「6なことに……9が……」私はうわごとを言いながら、指先で《666》のビジョンをはじき、《999》へと回転させる。
「お?」
 何かがカチリとハマる感覚がした。
 三つの9がキラキラと煌めくと、それぞれが私の右腕、左腕、おへそへと飛び込み、そこでそれらはQのそれのような青白いエネルギーを発生させ始めた。
「うわあああああああ!」
 青白いエネルギーが私の制服を融かし、代わりの衣装として結晶する。その衣装は赤を基調としており、脇やヘソなど性的に露出度が高く、可愛らしい。何となく日曜の朝を思わせるような格好だった。
 やがて私の右手に真っ黒の大鎌が発生する。覚えなど無いはずなのに、私はそれを器用にくるくると体の周りで回し、そして手前で力強く構える。
「軌道を逸する赤い花
 しばしの離別に祝福を
 刈り取るかたち、シュガー・リコリス!」
 私は謎の口上を口にした。
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