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溶けていく日々
宵闇が溶けた日 ✴︎イラスト有
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「こちらで対処を決めるまで、とりあえず今は神聖な夜会を楽しんできなさい」
陛下はそう言って、険しい顔をしたイーサン殿下の肩にポンと手を置いた。なだめるような兄の仕草に、殿下は納得しかねるとでも言うように眉間のしわを深くする。
殿下のこういう顔は珍しい。好き勝手に噂されていた場をおさめてくれた時も、ほんの一瞬、怖いお顔をされていたけど、その時はさすが王族だから締め方が堂に入っているなと思っただけだった。
硬い横顔をじっと見ていると、その視線に気付いたイーサン殿下がハッとしたようにこちらを見た。ひとつ大きく呼吸をして俯き、眉間を揉む。
「ごめん、怖がらせた」
再び顔を上げた殿下の表情は少しバツが悪そうで、私はふるりと首を振って微笑んだ。
「怖くはないです、珍しいお顔だなと思って」
「それはどういう……?」
「どういう……凛々しい、でしょうか?」
「あ、そ、そう、かな?」
なぜか頬を赤らめた殿下に首を傾げると、私たちのやり取りを見ていた陛下が吹き出した。
「ウィスタリア嬢もどうか楽しんでくれ。イーサンがデザートの一品に君の好きなものをこっそり用意したようだから」
「陛下!」
またしても準備を暴露された殿下が批難の声を上げる。
「ウィスタリア嬢がこの夜会の功労者になってくれたお陰で、お前の越権行為を咎めずに済むよ。デザートは褒賞のひとつだとすれば」
弟の抗議をしれっと交わして陛下が片目をつぶってみせる。何も言えなくなってしまった殿下は諦めのため息をついて、ちろりと私を見た。その上目遣いはとでもあざといです、殿下。
◆
庭園に出ると、夜とはいえ夏らしい熱気が身を包む。色とりどりのランタンに照らされて浮かび上がる夜会の様子は、とても幻想的だ。
「素敵……」
咲きこぼれる花々や、着飾った人たち、テーブルに並ぶカラフルなフィンガーフードに目を奪われる。
「殿下、素晴らしい装飾ですね」
この夜会の場を作り上げるのに、どれだけ多くの人たちの手が掛かっているのだろう。そして、それを取りまとめるのに、殿下もとても苦労されたはずだ。
「良かった。君にそう言ってもらえると安心するよ。きっと、フジーロ侯爵も」
「ここのところずっと、目の下に隈を作ってましたから」
この夜会の準備に手を貸していた身内の名に、家での様子を思い出して笑みが浮かぶ。
「ニーナ様!」
背後から声を掛けられ振り向くと、ドレス姿のマドリーン様が立っていた。
殿下に挨拶をしたマドリーン様は私のドレスに目を止め、感嘆の声を上げる。
「さすが、ウィスタリアですわね。少し触っても?」
「ええ」
袖口あたりの布をさらりと撫でて、マドリーン様は再びため息をついた。
不思議な気持ちだった。今までは褒められることが何だか恥ずかしくて、受け止めきれなかった。今は謙遜は湧かない。賞賛は私を透過して、ウィスタリアの領地に向けられるものだから。誇らしさはこれを織り上げてくれた領民への愛しさに続く。
「ところでニーナ様、今日はお兄様はご一緒ではありませんのね」
ひとしきりドレスを見た後、マドリーン様が私の隣の殿下をちらりと見て訊ねる。デューク兄さまが夜会に出ることはほとんどないので、マドリーン様が指しているのはディーン兄さまのことだ。
そういえば、会場に居るはずの兄の姿をまだ見つけて居ない。
「探しに行こうか」
マドリーン様の言葉からディーン兄さまのことに思い至ったのが伝わったのか、殿下がそっと手を引いてくれる。頷いて、移動しようとしたところで特徴のある甘やかな声がした。
「豊穣の女神をイメージしましたの!」
思わずそちらを見てしまう。人垣の中心で注目を集めている、その人物。
「アンバー……」
その名を呟いた殿下が、また、怖い顔をした。
✴︎読んでくださりありがとうございます!
感謝を込めて、リクエストを頂いた「ニーナを抱えるデューク・現在バージョン」です。
成長した充電器です。
機会があればカラーも描きたい。
次回もよろしくお願いします!
陛下はそう言って、険しい顔をしたイーサン殿下の肩にポンと手を置いた。なだめるような兄の仕草に、殿下は納得しかねるとでも言うように眉間のしわを深くする。
殿下のこういう顔は珍しい。好き勝手に噂されていた場をおさめてくれた時も、ほんの一瞬、怖いお顔をされていたけど、その時はさすが王族だから締め方が堂に入っているなと思っただけだった。
硬い横顔をじっと見ていると、その視線に気付いたイーサン殿下がハッとしたようにこちらを見た。ひとつ大きく呼吸をして俯き、眉間を揉む。
「ごめん、怖がらせた」
再び顔を上げた殿下の表情は少しバツが悪そうで、私はふるりと首を振って微笑んだ。
「怖くはないです、珍しいお顔だなと思って」
「それはどういう……?」
「どういう……凛々しい、でしょうか?」
「あ、そ、そう、かな?」
なぜか頬を赤らめた殿下に首を傾げると、私たちのやり取りを見ていた陛下が吹き出した。
「ウィスタリア嬢もどうか楽しんでくれ。イーサンがデザートの一品に君の好きなものをこっそり用意したようだから」
「陛下!」
またしても準備を暴露された殿下が批難の声を上げる。
「ウィスタリア嬢がこの夜会の功労者になってくれたお陰で、お前の越権行為を咎めずに済むよ。デザートは褒賞のひとつだとすれば」
弟の抗議をしれっと交わして陛下が片目をつぶってみせる。何も言えなくなってしまった殿下は諦めのため息をついて、ちろりと私を見た。その上目遣いはとでもあざといです、殿下。
◆
庭園に出ると、夜とはいえ夏らしい熱気が身を包む。色とりどりのランタンに照らされて浮かび上がる夜会の様子は、とても幻想的だ。
「素敵……」
咲きこぼれる花々や、着飾った人たち、テーブルに並ぶカラフルなフィンガーフードに目を奪われる。
「殿下、素晴らしい装飾ですね」
この夜会の場を作り上げるのに、どれだけ多くの人たちの手が掛かっているのだろう。そして、それを取りまとめるのに、殿下もとても苦労されたはずだ。
「良かった。君にそう言ってもらえると安心するよ。きっと、フジーロ侯爵も」
「ここのところずっと、目の下に隈を作ってましたから」
この夜会の準備に手を貸していた身内の名に、家での様子を思い出して笑みが浮かぶ。
「ニーナ様!」
背後から声を掛けられ振り向くと、ドレス姿のマドリーン様が立っていた。
殿下に挨拶をしたマドリーン様は私のドレスに目を止め、感嘆の声を上げる。
「さすが、ウィスタリアですわね。少し触っても?」
「ええ」
袖口あたりの布をさらりと撫でて、マドリーン様は再びため息をついた。
不思議な気持ちだった。今までは褒められることが何だか恥ずかしくて、受け止めきれなかった。今は謙遜は湧かない。賞賛は私を透過して、ウィスタリアの領地に向けられるものだから。誇らしさはこれを織り上げてくれた領民への愛しさに続く。
「ところでニーナ様、今日はお兄様はご一緒ではありませんのね」
ひとしきりドレスを見た後、マドリーン様が私の隣の殿下をちらりと見て訊ねる。デューク兄さまが夜会に出ることはほとんどないので、マドリーン様が指しているのはディーン兄さまのことだ。
そういえば、会場に居るはずの兄の姿をまだ見つけて居ない。
「探しに行こうか」
マドリーン様の言葉からディーン兄さまのことに思い至ったのが伝わったのか、殿下がそっと手を引いてくれる。頷いて、移動しようとしたところで特徴のある甘やかな声がした。
「豊穣の女神をイメージしましたの!」
思わずそちらを見てしまう。人垣の中心で注目を集めている、その人物。
「アンバー……」
その名を呟いた殿下が、また、怖い顔をした。
✴︎読んでくださりありがとうございます!
感謝を込めて、リクエストを頂いた「ニーナを抱えるデューク・現在バージョン」です。
成長した充電器です。
機会があればカラーも描きたい。
次回もよろしくお願いします!
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