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ひとつになる日々
兄たちの心がひとつになった日 ✴︎イラスト有
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「おや? グリン伯爵ではないですか。どうしました? 汗がすごいですよ」
白々しく響く兄の言葉に、グリン伯爵は目に見えて焦りを増した。
「いや、これは……。その、先程のことは、どうか」
「顔色も随分と悪い。先程お会いした時はあんなに威勢が良かったではないですか」
「侯爵、そんな。いや、なぜおっしゃってくださらないのですか、人が悪い……」
「何をです? ああ、家格は上でも、伯爵であるあなたに侯爵令息の私が無礼をするものではないとおっしゃっていたことですか?」
ディーン兄さまがグリン伯爵を淡々と追い込むのを聞いて、私は殿下と顔を見合わせる。
私たちが入場するまでの間にどんなやり取りがあったのか、大体察することができてしまった。兄の瞳の変化には気が付かなかったのだろうか。
「グリン伯爵」
伯爵を見る兄の目は、どこまでも冷たく冴えている。
「私は先程もあなたに『よくもウィスタリアの人間に話し掛けられますね』と、そう言った筈だが。ご子息が妹に何をしたか……。まさか謝罪をしたから水に流せるとでも?」
「いえ、それは、ですから我が家の示す誠意として息子は廃嫡にしたとお伝えしたく、お声掛けを。あ、彼奴は本当に、誰に似たのだか……は、はは」
「ああそうでしたね。父にそう話すも、完全に無いものと扱われて私のところへ来られたんですよね?」
「知らなかったのです……! 代替わりされていたのならおっしゃってくだされば……」
ごにょごにょと口ごもるグリン伯爵の言い訳よりも、ディーン兄さまの発言が気になった。完全に無いものとされた……?
「殿下」
「ニーナさん」
「まさかデューク兄さま、お父様にまで……」
「人聞きの悪いこと言うんじゃないよ」
自分が下の兄に掛けられていた制限魔法を父も掛けられているのでは、という疑惑を殿下と話したところで、背後から憮然とした声がした。
「デューク兄さま!」
呼びかけに応えるように、デューク兄さまがひらひらと手を振る。とても軽薄だ。
「どこに居たんですか」
「風呂と食堂。めちゃくちゃ働いたからさー、体ほぐして飯食って魔力回復して……あ、おまえもちゃんと飲んだ? ニーナに出すように手配しといたんだけど。魔力回復の薬草茶」
「え」
確かにお茶は出されて、飲んだ。ちょっと苦めの、香り強めの。
「あれ魔力回復薬だったんですか!?」
「そー」
通りで、魔力総量が増えたにしても消耗が少ないと思ったのだ。消費していないのではなく、勝手に回復をさせられていた。
「どうしていつも言わないんですか……!」
「うーん、面白いから?」
しれっと答えつつ、デューク兄さまの目線はもうこちらを向いていない。私の頭上を越えて、ディーン兄さまへ。私たちがずっと見てきた青色でなく、薄い紫へと変わった瞳に注がれる。
デューク兄さまの目がふと安心したように細められた。継承を終えた兄が、新たなフジーロ侯爵として初めて出る夜会。一年で最も重要と言っていいその夜会が何事もなく始められるように、無茶をしたのだ。
「あ、そうだ。おまえね、さっき人聞きの悪いこと言ってたけど、父上のは魔法じゃないからな。アレはあの人の特技だ」
「特技」
「話す価値無いって判断したら、相手のこと完全に無視できるから、あの人」
さすが、社交嫌いの父にはそれ相応のスキルが備わっている。
「でも、兄貴は父上ほど温く無いよねえ」
グリン伯爵とディーン兄さまのやり取りを眺めていたデューク兄さまが、意地悪く口の端を釣り上げた。
「親が子を切り捨てて、保身ですか」
聞こえてくるディーン兄さまの声が一段低くなったのがわかる。グリン伯爵の貼り付けた笑顔がこわばった。
「ひ、人聞きの悪いことを」
「精霊の加護を失ったアンバーに入るご子息は苦労しそうだ。同情はしませんが」
「それは……」
「精霊の裁きは免れても、ウィスタリアはスプルースを許しませんよ」
兄は冷たく言い切った。
「今後、我が領の騎士団ではスプルースの武器は使いません」
「しっ、しかし、それではそちらも困るでしょう?」
「いいえ? 既に算段はついていますからご心配には及びませんよ。それでは」
「そん、な」
言いたいことを言うだけ言って、硬直する伯爵に構わず踵を返して歩き出したディーン兄さまだったが、ふと思い出したように足を止める。
「そうだ、先程ご子息のことを『誰に似たのだか』とおっしゃっていましたね?」
「え……?」
「よく似ていますよ、あなたと。浅慮なところがそっくりです」
今度こそ、グリン伯爵が絶句する。それを見ていたデューク兄さまが、小さく口笛を吹いた。
✴︎読んでくださりありがとうございます!
感謝を込めて、リクエスト頂いていた、紫目で魔法を使うディーンのイラストです。
次回もよろしくお願いします!
白々しく響く兄の言葉に、グリン伯爵は目に見えて焦りを増した。
「いや、これは……。その、先程のことは、どうか」
「顔色も随分と悪い。先程お会いした時はあんなに威勢が良かったではないですか」
「侯爵、そんな。いや、なぜおっしゃってくださらないのですか、人が悪い……」
「何をです? ああ、家格は上でも、伯爵であるあなたに侯爵令息の私が無礼をするものではないとおっしゃっていたことですか?」
ディーン兄さまがグリン伯爵を淡々と追い込むのを聞いて、私は殿下と顔を見合わせる。
私たちが入場するまでの間にどんなやり取りがあったのか、大体察することができてしまった。兄の瞳の変化には気が付かなかったのだろうか。
「グリン伯爵」
伯爵を見る兄の目は、どこまでも冷たく冴えている。
「私は先程もあなたに『よくもウィスタリアの人間に話し掛けられますね』と、そう言った筈だが。ご子息が妹に何をしたか……。まさか謝罪をしたから水に流せるとでも?」
「いえ、それは、ですから我が家の示す誠意として息子は廃嫡にしたとお伝えしたく、お声掛けを。あ、彼奴は本当に、誰に似たのだか……は、はは」
「ああそうでしたね。父にそう話すも、完全に無いものと扱われて私のところへ来られたんですよね?」
「知らなかったのです……! 代替わりされていたのならおっしゃってくだされば……」
ごにょごにょと口ごもるグリン伯爵の言い訳よりも、ディーン兄さまの発言が気になった。完全に無いものとされた……?
「殿下」
「ニーナさん」
「まさかデューク兄さま、お父様にまで……」
「人聞きの悪いこと言うんじゃないよ」
自分が下の兄に掛けられていた制限魔法を父も掛けられているのでは、という疑惑を殿下と話したところで、背後から憮然とした声がした。
「デューク兄さま!」
呼びかけに応えるように、デューク兄さまがひらひらと手を振る。とても軽薄だ。
「どこに居たんですか」
「風呂と食堂。めちゃくちゃ働いたからさー、体ほぐして飯食って魔力回復して……あ、おまえもちゃんと飲んだ? ニーナに出すように手配しといたんだけど。魔力回復の薬草茶」
「え」
確かにお茶は出されて、飲んだ。ちょっと苦めの、香り強めの。
「あれ魔力回復薬だったんですか!?」
「そー」
通りで、魔力総量が増えたにしても消耗が少ないと思ったのだ。消費していないのではなく、勝手に回復をさせられていた。
「どうしていつも言わないんですか……!」
「うーん、面白いから?」
しれっと答えつつ、デューク兄さまの目線はもうこちらを向いていない。私の頭上を越えて、ディーン兄さまへ。私たちがずっと見てきた青色でなく、薄い紫へと変わった瞳に注がれる。
デューク兄さまの目がふと安心したように細められた。継承を終えた兄が、新たなフジーロ侯爵として初めて出る夜会。一年で最も重要と言っていいその夜会が何事もなく始められるように、無茶をしたのだ。
「あ、そうだ。おまえね、さっき人聞きの悪いこと言ってたけど、父上のは魔法じゃないからな。アレはあの人の特技だ」
「特技」
「話す価値無いって判断したら、相手のこと完全に無視できるから、あの人」
さすが、社交嫌いの父にはそれ相応のスキルが備わっている。
「でも、兄貴は父上ほど温く無いよねえ」
グリン伯爵とディーン兄さまのやり取りを眺めていたデューク兄さまが、意地悪く口の端を釣り上げた。
「親が子を切り捨てて、保身ですか」
聞こえてくるディーン兄さまの声が一段低くなったのがわかる。グリン伯爵の貼り付けた笑顔がこわばった。
「ひ、人聞きの悪いことを」
「精霊の加護を失ったアンバーに入るご子息は苦労しそうだ。同情はしませんが」
「それは……」
「精霊の裁きは免れても、ウィスタリアはスプルースを許しませんよ」
兄は冷たく言い切った。
「今後、我が領の騎士団ではスプルースの武器は使いません」
「しっ、しかし、それではそちらも困るでしょう?」
「いいえ? 既に算段はついていますからご心配には及びませんよ。それでは」
「そん、な」
言いたいことを言うだけ言って、硬直する伯爵に構わず踵を返して歩き出したディーン兄さまだったが、ふと思い出したように足を止める。
「そうだ、先程ご子息のことを『誰に似たのだか』とおっしゃっていましたね?」
「え……?」
「よく似ていますよ、あなたと。浅慮なところがそっくりです」
今度こそ、グリン伯爵が絶句する。それを見ていたデューク兄さまが、小さく口笛を吹いた。
✴︎読んでくださりありがとうございます!
感謝を込めて、リクエスト頂いていた、紫目で魔法を使うディーンのイラストです。
次回もよろしくお願いします!
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