13 / 53
増えていく日々
愛しさが増えた日
ウィスタリア家の末娘である私と、スプルース家長男であるバーニー。二人の婚約が解消されたこと、そしてスプルース家の方は新たにアンバー家と婚約を結んだということは、学園でも多くの生徒が知る所となった。
周知された範囲の広さと情報の周る速さには理由がある。
かつての婚約者バーニー・スプルースとカレン・アンバーはいつも二人寄り添っており、その様子を見た生徒たちが人から人へ情報を求めた結果がこの、広く知れ渡った要因であるらしい。
らしい、としか言えないのは、私は相変わらずバーニーを認識できないままだから。
時おり、アンバー嬢に絡まれる。
彼女の目的としては私に謝罪をしたいとのことだが、いつも曖昧に微笑んで受け流してしまう。許せない、というより立場が難しいのだ。
華やかな家門では無いものの侯爵位を持つ以上、貴族社会への影響力がある。私が今回のことを容易に許してしまえば同じような婚約解消が起きやすくなってしまうとも限らない。
その逆に、彼女を責めたところで既に解消された事実が変わるわけでもない。
許すことも責めることも難しく、ゆえに謝られてもどうにもできないのだ。
マドリーン様が言うには、バーニーはどうやら謝罪をするアンバー嬢の隣に寄り添い、私に声を掛けているとのことだけれども。見えない聞こえない以上、私には何の反応もできない。
「ねえマドリーン様、スプルース様は私に何て言ってたの?」
「ニ、ニーナ様が知る必要はないことだわ」
「そう……きっとロクなこと言っていないのね」
マドリーン様が気まずそうに視線を逸らす。図星だったのだろう。
「アンバー嬢に付き添っているってことは、そうねえ……『彼女を許してやれ』とか、そんなこと?」
「ハァ……。ええ、その通りよ」
ため息を吐きつつ、マドリーン様が肯定する。予想通り、ロクでも無い。
「言ってしまうとね、それに加えてあなたが何の反応もしないから『冷たい』だとか『非道だ』とまで……まったく、どの口が言うのかって! 周りも皆んな呆れてるのよ」
「まあ」
婚約解消と言いつつ、スプルース側から破棄したのは明らかだ。その状況で私を責めるような態度ならば、バーニーへの風当たりは強いだろう。アンバー嬢もクラスの令嬢たちからは距離を置かれていると聞く。
学園で見掛けるカレン・アンバーはいつも一人だが、おそらく隣にはバーニーが寄り添っているはず。
学生の間ならば、周りから倦厭されていても二人の世界にこもっていれば良いだろう。
問題は卒業後。夫婦で社交をしていくとなった時、他の貴族から避けられたままではどうしようもない。
「なんて言うか、驚きだわ。スプルース様って婚約してる間は良識ある人だったから、そんなに立ち回りが下手になるなんて」
恋は盲目なのかしらね。
ポツリと口にした私を、マドリーン様が痛ましい顔で見る。
「恋は素晴らしいと言うけれど、相手も自分も、それに栄えさせるべき家門までダメにするような恋なんて決して良いものじゃないと思うわよ!」
マドリーン様はそう言って、ツンと前を向いて歩き出した。慌ててその後を追う。
「ありがとう」
隣に並んで小声で伝えると、ふいっと顔を逸らされてしまった。形の良い耳が赤く染まっていて、大層かわいい。
恵まれているなあと、しみじみ思う。
バーニーから婚約解消を告げられた時は、この世の不幸の最底辺に居るような気がした。けれど、こんなことがなければマドリーン様の隠れた優しさを知ることはなかった。
厳格だと思っていた両親が傷付いた時には守り寄り添ってくれるということも、淡白だと思っていたディーン兄さまが我がことのように怒ってくれることも、口の悪いデューク兄さまが仕事より私を優先してくれたことも、知ることはできないままだった。
捨てられてから愛を失っていくばかりの日々だと思っていたけれど、意外にも愛しいものは増えていくのだ。
そして、愛しいと思うものがまたひとつ。
「ニーナさん」
優しい声に振り向けば、イーサン・バーミリオン王弟殿が微笑んでいた。
周知された範囲の広さと情報の周る速さには理由がある。
かつての婚約者バーニー・スプルースとカレン・アンバーはいつも二人寄り添っており、その様子を見た生徒たちが人から人へ情報を求めた結果がこの、広く知れ渡った要因であるらしい。
らしい、としか言えないのは、私は相変わらずバーニーを認識できないままだから。
時おり、アンバー嬢に絡まれる。
彼女の目的としては私に謝罪をしたいとのことだが、いつも曖昧に微笑んで受け流してしまう。許せない、というより立場が難しいのだ。
華やかな家門では無いものの侯爵位を持つ以上、貴族社会への影響力がある。私が今回のことを容易に許してしまえば同じような婚約解消が起きやすくなってしまうとも限らない。
その逆に、彼女を責めたところで既に解消された事実が変わるわけでもない。
許すことも責めることも難しく、ゆえに謝られてもどうにもできないのだ。
マドリーン様が言うには、バーニーはどうやら謝罪をするアンバー嬢の隣に寄り添い、私に声を掛けているとのことだけれども。見えない聞こえない以上、私には何の反応もできない。
「ねえマドリーン様、スプルース様は私に何て言ってたの?」
「ニ、ニーナ様が知る必要はないことだわ」
「そう……きっとロクなこと言っていないのね」
マドリーン様が気まずそうに視線を逸らす。図星だったのだろう。
「アンバー嬢に付き添っているってことは、そうねえ……『彼女を許してやれ』とか、そんなこと?」
「ハァ……。ええ、その通りよ」
ため息を吐きつつ、マドリーン様が肯定する。予想通り、ロクでも無い。
「言ってしまうとね、それに加えてあなたが何の反応もしないから『冷たい』だとか『非道だ』とまで……まったく、どの口が言うのかって! 周りも皆んな呆れてるのよ」
「まあ」
婚約解消と言いつつ、スプルース側から破棄したのは明らかだ。その状況で私を責めるような態度ならば、バーニーへの風当たりは強いだろう。アンバー嬢もクラスの令嬢たちからは距離を置かれていると聞く。
学園で見掛けるカレン・アンバーはいつも一人だが、おそらく隣にはバーニーが寄り添っているはず。
学生の間ならば、周りから倦厭されていても二人の世界にこもっていれば良いだろう。
問題は卒業後。夫婦で社交をしていくとなった時、他の貴族から避けられたままではどうしようもない。
「なんて言うか、驚きだわ。スプルース様って婚約してる間は良識ある人だったから、そんなに立ち回りが下手になるなんて」
恋は盲目なのかしらね。
ポツリと口にした私を、マドリーン様が痛ましい顔で見る。
「恋は素晴らしいと言うけれど、相手も自分も、それに栄えさせるべき家門までダメにするような恋なんて決して良いものじゃないと思うわよ!」
マドリーン様はそう言って、ツンと前を向いて歩き出した。慌ててその後を追う。
「ありがとう」
隣に並んで小声で伝えると、ふいっと顔を逸らされてしまった。形の良い耳が赤く染まっていて、大層かわいい。
恵まれているなあと、しみじみ思う。
バーニーから婚約解消を告げられた時は、この世の不幸の最底辺に居るような気がした。けれど、こんなことがなければマドリーン様の隠れた優しさを知ることはなかった。
厳格だと思っていた両親が傷付いた時には守り寄り添ってくれるということも、淡白だと思っていたディーン兄さまが我がことのように怒ってくれることも、口の悪いデューク兄さまが仕事より私を優先してくれたことも、知ることはできないままだった。
捨てられてから愛を失っていくばかりの日々だと思っていたけれど、意外にも愛しいものは増えていくのだ。
そして、愛しいと思うものがまたひとつ。
「ニーナさん」
優しい声に振り向けば、イーサン・バーミリオン王弟殿が微笑んでいた。
あなたにおすすめの小説
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです
藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。
理由は単純。
愛などなくても、仕事に支障はないからだという。
──そうですか。
それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。
王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。
夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。
離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。
気づいたときにはもう遅い。
積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。
一方で私は、王妃のもとへ。
今さら引き止められても、遅いのです。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
幼馴染最優先の婚約者に愛想が尽きたので、笑って家出しました ― 笑顔で去っただけなのに、なぜ泣いているのですか
ラムネ
恋愛
侯爵令嬢リオナは、婚約者アルベルトが「幼馴染が可哀想だから」と約束を破り続ける日々に耐えていた。領地再建の帳簿も契約も、実はリオナが陰で支えていたのに、彼は「君は強いから」と当然のように扱う。決定的な侮辱の夜、リオナは怒らず泣かず、完璧な笑顔で婚約指輪だけを返して屋敷を去った――引継ぎは、何一つ残さずに。
翌日から止まる交易、崩れる資金繰り、露出する不正。追いすがるアルベルトを置き去りに、リオナは王立監査院の臨時任官で辺境へ。冷徹と噂される監察騎士レオンハルトと共に、数字と契約で不正を断ち、交易路を再生していく。
笑顔で去っただけなのに、泣くのは捨てた側だった。
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!