ただΩというだけで。

さほり

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終章

10.

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「ケーキが柔らかいなんて、知らなかったもんな。初めてだからしょうがないよな。大丈夫、形が崩れてもほら、ちゃんと美味いから」

  津田は律の腕をとり、細い手首についたクリームをペロリと舐めた。拳についたクリームを指先で集め、律の口にも入れてやる。すると、味わうを置いて、仁王のような顔になっていた柔らかな頬がぽわんと緩んだ。律はクリームにまみれた自分の手をぐるりと回して熱く見つめ、せっせと舐め始めた。

  そして、小さな拳があらかた肌色に戻ったところで、律はそっとその手を津田に差し出して開いた。そこには、律の手の温度で少し顔の崩れた、砂糖菓子のうさぎが握られていた。

「…… ユキさんに、あげようと思ったんだね」

  立ったままそれを見ていた乾が、上から声をかける。律はまだ濡れた瞳のまま、小さく頷いた。

「ありがと」

  津田はそのうさぎを受け取ると、小さな魔王の温かい身体を抱きしめた。

「着替えてこないとなぁ…… 」

  津田は律を膝に乗せ、フリースの上着を脱がせた。ベタベタは下に着ているシャツの袖にまで染み込んでいる。
  見上げると、乾のシャツのあちこちにクリームが付き、白い泡のようなものがこめかみと黒髪にも飛んでいるのが見えた。

「とりあえずこのへんサッと掃除してさ、いっそのこと三人で風呂入っちゃうかぁ」

  津田の提案に、律と乾は一瞬目を丸くした。

「はいゆ!おふよはいゆ!」
「いいですね」

  目を輝かせた二人が同時にそう応えたので、津田は ふはっと吹き出した。


「二歳なぁ、ほんと暫くこんな感じだと思うから、覚悟しとけよな」

  壁紙に散ったクリームの後始末をしながら、津田は乾に忠告した。

「めんどくさいのは承知の上だって言ったじゃないですか」
「…… お前がめんどくさいと思ってんのは俺だろ」
「はは、バレましたか」

  乾は軽く笑うと、柔らかな眼差しで津田を見つめた。

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