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恋人編
16.覚悟
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「あらまあ私達でも知っている一大企業じゃないの。侑真とじゃ住む世界が違わないかしら」
居間のこたつでミカンを毟りながら失礼な発言をするのは母さんだ。
駅から大分時間も経ってやっと落ち着いたらしい。余所行きの言葉使いでいつもと変わらない調子で笑っている。
「失敬な。俺だって流石にそこまでの大企業じゃないけどそこそこの会社で働いてるんだけど」
「でもねぇ。私には貴方の会社がわからないのよ。いんたーねっとを専門にしているんでしょう?」
「ふふ。侑真の会社は近年急成長を遂げたやり手ですよ。我が社でも注目しています」
「あらまあそうなの?それはそれで心配だわ。侑真がやっていけているのかしら。ねえ、やっぱりこっちに戻って仕事なさいな。今ならお父さんの伝手で勤め先位何とでもなるわ。そうよ、そうしなさいよ。貴方ったら都会に行ったっ切りちっとも帰って来やしないで、いい加減お嫁さんを紹介しなさいな。鈴木さん家のお嬢さんとかどうかしら。とっても良い娘になっていたわよ」
うぐ。響也の話から結局この話になった。これだから田舎には帰りたく無かったんだ。
俺は飲んでいたお茶を喉に詰まらせ、隣に座る響也からは言い様のない空気が流れ、尊に至っては一瞬目が座っていた。
「母さん。俺、付き合ってる人いるから」
「あら、去年別れたって言ってなかった?」
「彼女とは別の人」
「そんなに早く新しい人が見つかるの?都会って進んでるわね。だったら連れて来てくれたら良いのに」
いやいや連れて来てるから。
とは喉元で止まった。我ながら情けない。
言うに言えない空気の中、何故か尊が湯呑みを見苦しくない程度に音を立てて置いた。
「おば様……僕、侑真パパとはずっと一緒に居たい……」
立てた音に似つかわしくないしおらしい姿。何なら目も潤んでいる。置いた湯呑みを両手でキュウッと握りしめる姿なんて保護欲を駆り立てる事請負で。
「尊……!ずっと一緒だ!何処にも行くもんか!尊がもう良いって言ったってずっと見守り続けるからなっ……!」
感極まって立ち上がった俺は颯爽と尊を抱き上げ抱き締めた。
「侑真パパホント?」
それにキュッと抱き締め返す尊が弱々しくて俺の眉は垂れ下がってしまう。
「勿論だ。だからそんな顔するな」
その様子には流石に母さんもそれ以上何かを言う気にはなれなかった様だ。ただ座り悪く目線を彷徨わせていた。
それからは尊のもうアピールが凄まじかった。
気に入られようとした結果何だろうがいじらしくて胸が締め付けられる思いだ。
「おば様机拭き終わったよ」
「あらありがとう。とっても綺麗になったわ」
家事を手伝い母さんの相好を崩し。
「おじ様お肩トントンします」
「お、おお。ありがとう。……うん気持ちいいよ」
肩叩きをしては父さんの相好を崩し。
「お出掛け?僕も一緒に行って良い?」
小首を傾げて上目遣いでおねだりされて両親の相好を崩し。
この時は俺は付いて行かなかったが、母さんが興奮して話すには率先してカートを押して、しきりに母さんのご飯は全部美味しいと褒めたたえてはカゴに野菜やお魚を入れて行ったらしい。好き嫌い無くて立派な子だと褒めていた。
その子食育したの俺です。俺も褒めてくれ。
父さんにしても手を握って歩いてくれるなんて久し振りだったらしく、帰って来た時には孫馬鹿なジジに成り下がっていた。
どうしよう。尊が有能過ぎて怖い。
「ねえ侑真。都会じゃ結婚しない子が増えてるんですってね」
そんな折、母さんがらしくなくしょぼんとした風に言って来た。
「ああ、まあ社内でも多いよ」
俺の言葉にカルチャーショックを受けたのか、少しの間言葉が無かった。
それでも何かを言いたいんだろうことはわかったので暫く待ってみる。
「そう……それじゃあその……同性のカップルも、都会じゃ普通ってホントかしら」
うっほ。ぶっこんで来たな。何があった。ホントどうした。
俺は言わずして俺と響也の仲が知れたのかと内心浮かれと不安で冷や汗を掻く。
「……」
何も言えずにいる俺に、母さんはハッとした後作り笑いで誤魔化した。
「あー、やっぱり何でもないわ。何でもないのよ」
背を向けた母さんの背は、昔感じていた怖さは無く、寂しいものだった。
「俺も」
だからだろう。覚悟も何も吹き飛ばして口に出たのは。
「俺も、男と付き合っている。将来は結婚か、パートナーシップを組みたい」
背中に向かって言った思いは、母さんの背中を揺らすには十分の威力だった。
居間のこたつでミカンを毟りながら失礼な発言をするのは母さんだ。
駅から大分時間も経ってやっと落ち着いたらしい。余所行きの言葉使いでいつもと変わらない調子で笑っている。
「失敬な。俺だって流石にそこまでの大企業じゃないけどそこそこの会社で働いてるんだけど」
「でもねぇ。私には貴方の会社がわからないのよ。いんたーねっとを専門にしているんでしょう?」
「ふふ。侑真の会社は近年急成長を遂げたやり手ですよ。我が社でも注目しています」
「あらまあそうなの?それはそれで心配だわ。侑真がやっていけているのかしら。ねえ、やっぱりこっちに戻って仕事なさいな。今ならお父さんの伝手で勤め先位何とでもなるわ。そうよ、そうしなさいよ。貴方ったら都会に行ったっ切りちっとも帰って来やしないで、いい加減お嫁さんを紹介しなさいな。鈴木さん家のお嬢さんとかどうかしら。とっても良い娘になっていたわよ」
うぐ。響也の話から結局この話になった。これだから田舎には帰りたく無かったんだ。
俺は飲んでいたお茶を喉に詰まらせ、隣に座る響也からは言い様のない空気が流れ、尊に至っては一瞬目が座っていた。
「母さん。俺、付き合ってる人いるから」
「あら、去年別れたって言ってなかった?」
「彼女とは別の人」
「そんなに早く新しい人が見つかるの?都会って進んでるわね。だったら連れて来てくれたら良いのに」
いやいや連れて来てるから。
とは喉元で止まった。我ながら情けない。
言うに言えない空気の中、何故か尊が湯呑みを見苦しくない程度に音を立てて置いた。
「おば様……僕、侑真パパとはずっと一緒に居たい……」
立てた音に似つかわしくないしおらしい姿。何なら目も潤んでいる。置いた湯呑みを両手でキュウッと握りしめる姿なんて保護欲を駆り立てる事請負で。
「尊……!ずっと一緒だ!何処にも行くもんか!尊がもう良いって言ったってずっと見守り続けるからなっ……!」
感極まって立ち上がった俺は颯爽と尊を抱き上げ抱き締めた。
「侑真パパホント?」
それにキュッと抱き締め返す尊が弱々しくて俺の眉は垂れ下がってしまう。
「勿論だ。だからそんな顔するな」
その様子には流石に母さんもそれ以上何かを言う気にはなれなかった様だ。ただ座り悪く目線を彷徨わせていた。
それからは尊のもうアピールが凄まじかった。
気に入られようとした結果何だろうがいじらしくて胸が締め付けられる思いだ。
「おば様机拭き終わったよ」
「あらありがとう。とっても綺麗になったわ」
家事を手伝い母さんの相好を崩し。
「おじ様お肩トントンします」
「お、おお。ありがとう。……うん気持ちいいよ」
肩叩きをしては父さんの相好を崩し。
「お出掛け?僕も一緒に行って良い?」
小首を傾げて上目遣いでおねだりされて両親の相好を崩し。
この時は俺は付いて行かなかったが、母さんが興奮して話すには率先してカートを押して、しきりに母さんのご飯は全部美味しいと褒めたたえてはカゴに野菜やお魚を入れて行ったらしい。好き嫌い無くて立派な子だと褒めていた。
その子食育したの俺です。俺も褒めてくれ。
父さんにしても手を握って歩いてくれるなんて久し振りだったらしく、帰って来た時には孫馬鹿なジジに成り下がっていた。
どうしよう。尊が有能過ぎて怖い。
「ねえ侑真。都会じゃ結婚しない子が増えてるんですってね」
そんな折、母さんがらしくなくしょぼんとした風に言って来た。
「ああ、まあ社内でも多いよ」
俺の言葉にカルチャーショックを受けたのか、少しの間言葉が無かった。
それでも何かを言いたいんだろうことはわかったので暫く待ってみる。
「そう……それじゃあその……同性のカップルも、都会じゃ普通ってホントかしら」
うっほ。ぶっこんで来たな。何があった。ホントどうした。
俺は言わずして俺と響也の仲が知れたのかと内心浮かれと不安で冷や汗を掻く。
「……」
何も言えずにいる俺に、母さんはハッとした後作り笑いで誤魔化した。
「あー、やっぱり何でもないわ。何でもないのよ」
背を向けた母さんの背は、昔感じていた怖さは無く、寂しいものだった。
「俺も」
だからだろう。覚悟も何も吹き飛ばして口に出たのは。
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背中に向かって言った思いは、母さんの背中を揺らすには十分の威力だった。
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