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7 報告 2

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 いつもの学校の終業後、校舎会議室の一室に何名ものいかにも玄人らしき男達が集まっている。その中心にいるのはこの高校の制服を着ている光生だ。光生はαであって身長も体格も標準以上。精悍な美丈夫と周囲に評価される表情にはどこかまだ幼ささえも読み取れるかと言えるほどに若さが際立っている。が、今はその顔には若いはつらつとした表情というより、一見すると近寄り難い剣呑としたものを隠そうともせずに机に腰掛けながら報告書を手にしていた。

"不明3名の捜索継続"

 光生の目はそこで止まっている。周囲の者が順次受け持ちの報告を上げていく中、光生は聞いているのか居ないのか、ペラペラと束になった報告書を捲っていた手をそこで止めた。

「光生様…?」

 本日の進行役は貝原らしい。報告者の話を聞いているのかいないのか、光生は調査に対する質問も確認事項も発せずに動かなくなった。

「報告はこれだけか?」

「……はい。こちらで分かる範囲では外部の者と言えば、この3名…身元不明で現在も捜索中。けれど…」

 そう、、学園には至る所に監視カメラと外部に出る門には守衛数名が常在し、出入りする者達には身元チェックが厳しく行われている。それはここがβを主とした性別の生徒で構成されている学校だが、それなりの地位のある家からはαの子息が、またその伴侶となるΩの生徒も通学して来るいわゆるエスカレーター式のお坊っちゃまお嬢様学校であり、彼らの安全を守る為には最低限必要な設備が揃っているからだ。
 が、この設備があってもこの3人だけは身元が分からなかった。正門から入ってきたところまでは監視カメラで映っているのにもかかわらずその後の足取りが掴めないのだ。入校時の記帳にはデリバリーとあった。デリバリー?物も持たずに?それも3人で?何をデリバリーすると言うんだ?学園中に問い合わせてもデリバリーなど頼んだ者はいないと言う。それもそうだろう。中等部から大学部までを含むこの広大な敷地内には、必要と思われる全てのものが揃っているほど設備は充実している。その中には校内にいる者ならば誰でも利用できるカフェから購買部、フードコートに少し洒落たレストランまで街中を移してきた位の店数は揃ってるんだ。なぜ、わざわざ外部からデリバリーなど頼む必要がある?そして、警備が手薄になるあの日を。最早狙ってやったと言っても過言でないほど全ての物が揃ってた。羽織を狙える全てのものが……

「貝原この3人の捜索は継続を。他、継続監視の方はどうだ?」

 継続監視…発覚から内々で進めてきた、家族、親族、学校関係者、関連企業管理者に対する監視……
 ポーカーフェイスが得意な貝原も流石に少し眉を動かす。普通ならば家族を疑わない様な心理が働きそうなものなのに光生は一切そんな素振りを示さない。最初から躊躇なく監視対象に家族も含めた…

「はい。どの対象も不審な動きはなく、余りにも変わらずに過ごしていると言いますか。」

「そうか……」

 ならば、自分のした事について余程外部へ漏れない自信があると言うことか……

「貝原……」

「はい。」

「外の対象を全て切って、学内と一族のみに、いや、家族だけにしろ。」

 この学園が手薄になることを知っている人物。それならば校内の者、そしてそれを自在にコントロールできるのはこの学園を牛耳っている両親のうちのどちらか………………

「光生様……!」

 親戚筋の者とも考えられるが、校内について詳しくなければ今回の隙はつけなかった。これだけでも家族の誰かが関与していると十分考えられる。

「……勿論、現状維持のまま他の妻達の監視もだ…」

「……それは、ありえませんでしょう?」

 幼い頃から光生をよく知っている貝原だから、光生と妻達の仲がどれほど良いかよく知っている。

「誰を疑っているか隠す為の目眩しにはなるだろう?」

 ニッと笑って貝原を見つめ返す光生の瞳は全く笑ってはいなかった。生まれながらにして人の上に立つ能力に優れているαの光生にこれ以上この場で意見を言う者は現れはしない。光生は十分にそれを理解している。後は主人の為に動く彼らが持ってくる答えを確認するだけで良い……

 バタン、光生が車に乗り込めばドアが外から閉められた。

「ふぅ……」

 普段ならば車での通学はしない。多少のリスクはあってもΩの妻達と普通の高校生として高校に通う。それでも妻達に気が付かれない距離に護衛はいつも付き従っているのだが…

「光生様、このまま帰られますか?」

 ドライバーをする貝原が声をかける。

「…いや、羽織のところへ…」

 松花は抑制剤を飲んだか?今日は遅くなると伝えてある。発情期も終盤だからそうキツくも無いだろう………松花、許せ。

 光生は皮張りのバックシートに深く体を静めて長い溜息を吐く。

 一目だけ………
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