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「アリーと出会って、俺は確信したのだ!!目を覚ませ!ヨピール!!」

 毎夜毎夜…耐え難い苦痛に漏れるうめきを噛み殺して、ただ耐えていただけの日々に、有都は見事なまでにアッサリと、バッサリと苦痛の糸を断ち切ってくれた。あの晴れやかな、清々しいまでの心境を何と言ったら良いのかラウードには言葉が見つからない。苦しみ狂い死ぬだけだったラウードの運命に安らぎを求めても良いと有都はしっかりと教えてくれたのだ……

「兄上!世迷言を!!スキル持ちならば、己の運命を受け入れるが良い!!」

 先程とは比べものにならない数の兵士や騎士達が一気にラウードへと雪崩れ込んでいく…!オロンガル皇帝の周りを守護していたであろう騎士隊も加わって有都の方へも兵や騎士達が足を向け始める。

「ラウード!!」

 圧倒的にラウードの方が兵の数が厚い。有都もこのままこの場所に留まるのでは捕まえて欲しいと言っている様なものだ。けれど、有都はその場を動けなかった。逃げろと言ったラウードの言葉に従えば自分は逃げ切れるかもしれない。けれど、ラウードは…有都のスキルがどれほど保つのか、どこまで届くのか分からないのに、ラウードが助かるか分からないこの状況で一人で逃げる事なんてとてもじゃないけどできそうに無い。


 こっちに来るな!命令遂行の意思の消去!それと、攻撃意欲の消去!ラウードの所にも!


 必死に考えつく事を消去しつつラウードの無事を有都は確認するのだった。

 有都に消去スキルをかけられた騎士や兵士は一瞬混乱し、足を止める。有都の所へ兵士達の手が来なければ、なんとかラウードの助太刀が出来る。   

 が、なんと帝国軍側の兵士の多い事か。何処かに隠れてもいたのだろうか、次々と木々の間から新しい兵士がラウード目掛けて突き進んでくる。


 ラウード!死んじゃう!!


 一瞬、兵士達になだれ込まれてラウードの姿が見えなくなる。目の前からラウードが消えてしまうという、死と喪失の恐怖に有都の心は潰れてしまいそうだった。

「やだ!ラウード!!」


 大切な人なのに!!好きになった人なのに!!ラウード!!


 ラウードの傷と疲労の消去を最大限心で叫びながら、有都ははっきりと自分の心を自覚した。

「好き……なんだ…ラウードの、事?」


 そうか…そうだったんだ……


 兵士の山を思い切り跳ね飛ばして、ラウードが姿を現した事に有都は心から安堵した。

「そうか……」


 苦痛と不安、恐怖と罪悪感の消去……


「好きって…こう言う事なんだ……」

 自分の身より、相手の事をどうしても考えてしまう…

「そっか………」


 一生知る事も無かったかもしれない感情だ…


「じゃあ、絶対…助かって貰わなきゃ…!」


 命をかけても…!絶対助ける………!


 けれど、後から後から兵士は尽きず…有都の決意も他所にいつまでも終わりが見えない。


 動けなかった兵士達も徐々に動き出し、フラフラと本陣の方に戻って行く。彼らがまた命令されれば記憶にあった様に襲ってくる皇帝の手駒となるだろう。


 キリがない…!


 兵士達の意志を消去しても、一時動きを止めても頭の中の記憶が残っている限りまた同じ事の繰り返し……


 運動能力を奪う…?


 機能的なものを奪ってしまえば誰もが身動きできなくなってしまうが、その後大量の要介助者が出る。その後に回復させたとしてもまた兵士として同じ事の繰り返しだ。


 どれも解決方法にならないし……!


 ここで兵が止まってもラウードの苦しみはきっと一生続く…


 ズキン……ズキン……


 有都の胸が疼く…一心不乱に剣を振り兵を薙ぎ倒してオロンガル皇帝の元に行こうとしているラウードが、いつまでも抜け出す事のない背負った苦悩の中で、踠き苦しんでいるラウードの心にしか見えなくて、有都の胸が締め付けられる様に疼く…

 笑ってて貰いたい…出来たら、険しい顔つきで危険な剣を振り回すのではなくて、安全な場所で屈託のない整った笑顔で、思い切り大笑いして死ぬまで過ごしてもらいたい。
 この危機を乗り越えたとしても、きっとラウードにはそんな日は来ないのかもしれないと思うと、有都の胸がますます締め付けられて行く……

「繰り返すのを…止めなきゃ……」

 スキル持ちに対する蔑みも、今まで虐げられてきた者の憎しみも、辛くて、苦しい記憶達を………全部……

 覚悟を決める前に、有都の足が勝手に動く…人の心の動きを止める事ができないように、吸い寄せられる様に有都は兵士達の渦の中に滑り込んでいく。ラウードの所まで誰にも有都の邪魔をすることがない様に働きかけながら…

 中に入れば入るほど、騎士や兵士、スキル持ちの人々が入り乱れていて。それでも有都は自分が干渉されない様に、ラウードの所へと飛び込んで行った。

















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