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働かざること山の如し

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今回の依頼分をIさんに届けて、食堂に移動した。彼女は今日午前で仕事が終わりだそうで、「何でも答えますよ!」と言ってくれた。

食堂に着くとIさんの同僚のITさんから挨拶を受けた。

「ミカ。今日はもう上がるんでしょ?書類どうする?机のところに置いておいた方がいい?・・・それと初めましてIの同僚のITと言います。Iとは別部署ですけど。」
「あ、はい。Kと申します。」

私は名刺を渡し、ITさんからも名刺を頂いた。名刺には「形而●●生物(生命?)●●研究科」といった感じの部署が書いてあった。うろ覚えだが、ずいぶん哲学的な感じがするが、なにを研究する部署か全くわからないな、と思ったのは覚えている。

「うんうん。机に置いといて。明日見とく。」
「はいはい。んじゃ乙乙~」

ITさんは手をひらひらしながら軽い調子で返事を返し、食堂を去っていった。Iさんは「あ、彼女に説明してもらった方が良かったかな。いや、ま、いっか仕事だろうし。」と呟いたあと、前回の話の続きをしてくれた。

「人類があの姿になるか、ならないか、でいうと、ならない可能性もあるんですが・・・現状ああなる可能性が高いことになってます。そのあたりが時間に関わることで、さっきのITの方が説明に向いてるんですけどね。最初の事故個体の登場により、あれに繋がる知見がもたらされたので不確定だった道筋が大きくその方向に傾いた、という感じですね。」

そして彼女はあの姿になるまでの流れでわかっていることをつらつらと語りだした。「いくつもの理由が重なってあんな感じになるので、話が結構前後しますし、わりとややこしいですよ。」と付け加えた。

最初の話は、いつ起きるかはわからないがSARSのような感染症が世界規模で大蔓延するということだった。

それは現在のパンデミックのことだろう。問題はパンデミック終息後に、全く別系統のウイルスによるパンデミックが不定期的に起きることになったことだった。

パンデミックをコントロールできれば特定の国家や企業に大きな利益が発生すると気付いてしまったためだった。つまり原因ウイルスとワクチンを同時に開発して行われる、世界中を巻き込んだマッチポンプである。

ウイルスは経済戦争における武力としてばら撒かれ、ワクチンが外交カードとして取引される状況だ。

2つ目は対立するイデオロギーの衝突についてだった。

―この内容については複雑だったので、今私がわかることを加えて補足したが、結果として正しい表現ではなくなったかもしれない。―

産業革命とともに資本家・労働者という階級ができ、後に資本主義と言われる思想(体制?)となった。

資本主義では経済は活発になるものの、富の偏在が貧しい人たちを生むため、富を共有するという思想が生まれ、富を共同体で管理する共産主義と国が管理する社会主義という思想が生まれた。

この二つのイデオロギーはそれぞれに長所と短所があり、資本主義では経済は活発になるものの資本家の搾取で貧富の差が生まれ、共産主義は平等の名のもとに貧富の差はないものの人々は平等に怠けて経済発展が遅れた。

それぞれのイデオロギーを標榜する国家間の競争は直接的な武力行使を伴わない冷戦とよばれる緊張状態を経て、経済規模で資本主義国家が優性になり、共産・社会主義国家は経済において資本主義を取り入れざるを得なくなった。

一方で資本主義は貧富の差を是正するため社会保障を充実させ、結果として資本主義は共産主義化し、共産主義は資本主義化することになった。

資本・共産のイデオロギーの差が縮まるとともに新たなイデオロギーともいえる国家体制が生まれた。

構造上独裁化しやすかった共産・社会主義国家は民主主義を謳う独裁政権国家となり、民主的に政権運営を行っていた資本主義国家は個人の自由を尊重する自由主義国家となり、それぞれの陣営での経済と情報を武器とした衝突が激化する。

おそらく今がこの状態になるのだろう。

民主自由主義国家の運営は、極力多くの人が賛同する選択ができるという長所はあるものの、選択したことの良し悪しは国民の平均的な能力に左右されるという短所を内包していた。

つまり全員で選んだものが最良とは限らないということであり、また優秀な人間が国家運営を行いにくいという欠点があった。

独裁政権国家は、優秀な人材がトップに立つことで非常時の統制のとれた運営と長期視点での国家運営が可能だったことから、急速な経済発展と民主国家の切り崩しに成功し、独裁政権国家が優勢となった。

かつて資本主義国家が優勢な時期が続いたように十数年間の独裁政権国家優性の状態が続く中で、発展途上中の民主自由主義国家で人工知能を国家運営の中枢に据えるという試みが行われ、長期視点に加え優秀なシステムによる国家運営が可能になり、著しく経済発展をとげ管理型民主国家が生まれた。

先に発展した経済規模の大きな独裁国家による妨害はあるものの、あらゆる面で合理的な対応が可能で人工知能による演算速度の速さを活かした運営で、独裁国家の経済内に泡のように発生し撤退する管理型民主国家の企業群は周囲の独裁政権国家から外貨を獲得し続けた。

一方独裁政権国家側は長らく人間による独裁を続けたために、自身を下ろし人工知能を上に据えるという判断が難しく、後手に回りつづけ結果として管理型民主国家が優性となった。

Iさんはそこで「ここで時間は少し遡るんですよぉ。と、その前に飲み物入れなおしてきます。Kさんはいります?」

一度話しを区切り飲み物を取りに行こうとしたが、話してもらっている手前「私が取りに行きます」と提案したが、何やらこだわりがあるらしく結局Iさんが取りに行くことになった。

3つめの話しはアンドロイドの開発だった。

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