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正気を失っていた婚約者
5 亡命者達
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ビータの案内で連れて来られた場所は、マグゼラ領北部の森林の中だった。
「メルヴィー様をお連れしたぞぉ!!」
ビータの呼び掛けで人が出て来る出て来る。何人居るんだ!?
およそ50人前後が集まった辺りでようやく誰も出て来なくなった。
皆一様にボロボロの服を着て窶れている。中には怪我をしている者もいるようだ。
その中から、ぐったりした子供を抱えた女性が飛び出してきて、戸惑っている我々の前で跪いて首を垂れた。
「どうかリタを……子供を助けて下さい!!」
その様子を見ていたメルヴィーが、「彼女達をここから一番近い村へ」と指示した。
警備隊の一人に誘導されて親子が去っていくのを見送った後、付いて行きたそうにしていた面々を動かないように他の警備隊が押し留めた。
「皆さんはまだ動かないように」
その様子は冷静で、固唾を飲んでいる私達の視線を一身に受けながらも、状況を見極めようとしているようだった。
「我が領土には、カーヴァン侯爵領からの亡命者を数多く受け入れて来ました。ですがそれは一人か二人ずつバラバラだったから然程問題にならなかっただけのこと。これだけの人数を手続きも無く受け入れることは出来ません」
「そんな!! もう限界なんです。お助け下さらなければ我等は……」
非情なようだが、メルヴィーの言い分は理解出来た。
領主にとって領民は財産なのだ、それが勝手に移動して来たのだからとホイホイ受け入れていけば、領主同士の諍いの原因になる。
ましてや彼女はリリエンデール公爵領という、大領地の中の一つの街の領主に過ぎない。彼女にはカーヴァン侯爵領からのトラブルを水際で止める役目もあるのだ。
「今回は彼女達2人と、その家族だけを受け入れます。残りは申し訳ないけれどビータさん以外は一度自分の村へ戻って下さい。後日リリエンデール公爵と会談し、対応を検討します」
「俺達はもう限界なんだ! マグゼラの領主は良い領主だって聞いてたのになんて酷い女だ!」
「そうだそうだ!! 俺達を見殺しにするなんて!」
「落ち着け! 取り敢えずリタを助けてくれるというのだから一旦戻ろう」
集団の中の1人が騒ぎ始めたことで、残りの面々も便乗してざわつき始めた。
ビータが宥めようとしているが、一向に収まる様子が無い。
このままでは暴動になる。
「いい加減に……」
「静まりなさい!! 」
私が止めようとするより力強く、メルヴィーの声が鐘の音のように響いて、村人達は静まり返った。
自分を庇い立つ我々の間を抜けて、村人の前に立ったメルヴィーが、感情の伺えない表情で朗々と話し始めた。
「私はマグゼラの領主として領民を守る義務があります。これ以上騒ぐのなら親子共々強制送還することになりますよ」
彼女に気圧されたように村人達は一歩下がり、ビータと、親子の父親らしき痩せた男を残して、見届け役の警備隊数名と共に村人は森の奥へ消えていった。
ビータだけは交渉役として領館へ連れて帰る事になり、その日の視察を終えた。
その数日後、リリエンデール公爵との会談を待つ事無く、カーヴァン侯爵領は暴動により荒れ狂い、領主夫妻の首がカーヴァン領主館の壁に晒される結果となったという知らせが届いた。
「メルヴィー様をお連れしたぞぉ!!」
ビータの呼び掛けで人が出て来る出て来る。何人居るんだ!?
およそ50人前後が集まった辺りでようやく誰も出て来なくなった。
皆一様にボロボロの服を着て窶れている。中には怪我をしている者もいるようだ。
その中から、ぐったりした子供を抱えた女性が飛び出してきて、戸惑っている我々の前で跪いて首を垂れた。
「どうかリタを……子供を助けて下さい!!」
その様子を見ていたメルヴィーが、「彼女達をここから一番近い村へ」と指示した。
警備隊の一人に誘導されて親子が去っていくのを見送った後、付いて行きたそうにしていた面々を動かないように他の警備隊が押し留めた。
「皆さんはまだ動かないように」
その様子は冷静で、固唾を飲んでいる私達の視線を一身に受けながらも、状況を見極めようとしているようだった。
「我が領土には、カーヴァン侯爵領からの亡命者を数多く受け入れて来ました。ですがそれは一人か二人ずつバラバラだったから然程問題にならなかっただけのこと。これだけの人数を手続きも無く受け入れることは出来ません」
「そんな!! もう限界なんです。お助け下さらなければ我等は……」
非情なようだが、メルヴィーの言い分は理解出来た。
領主にとって領民は財産なのだ、それが勝手に移動して来たのだからとホイホイ受け入れていけば、領主同士の諍いの原因になる。
ましてや彼女はリリエンデール公爵領という、大領地の中の一つの街の領主に過ぎない。彼女にはカーヴァン侯爵領からのトラブルを水際で止める役目もあるのだ。
「今回は彼女達2人と、その家族だけを受け入れます。残りは申し訳ないけれどビータさん以外は一度自分の村へ戻って下さい。後日リリエンデール公爵と会談し、対応を検討します」
「俺達はもう限界なんだ! マグゼラの領主は良い領主だって聞いてたのになんて酷い女だ!」
「そうだそうだ!! 俺達を見殺しにするなんて!」
「落ち着け! 取り敢えずリタを助けてくれるというのだから一旦戻ろう」
集団の中の1人が騒ぎ始めたことで、残りの面々も便乗してざわつき始めた。
ビータが宥めようとしているが、一向に収まる様子が無い。
このままでは暴動になる。
「いい加減に……」
「静まりなさい!! 」
私が止めようとするより力強く、メルヴィーの声が鐘の音のように響いて、村人達は静まり返った。
自分を庇い立つ我々の間を抜けて、村人の前に立ったメルヴィーが、感情の伺えない表情で朗々と話し始めた。
「私はマグゼラの領主として領民を守る義務があります。これ以上騒ぐのなら親子共々強制送還することになりますよ」
彼女に気圧されたように村人達は一歩下がり、ビータと、親子の父親らしき痩せた男を残して、見届け役の警備隊数名と共に村人は森の奥へ消えていった。
ビータだけは交渉役として領館へ連れて帰る事になり、その日の視察を終えた。
その数日後、リリエンデール公爵との会談を待つ事無く、カーヴァン侯爵領は暴動により荒れ狂い、領主夫妻の首がカーヴァン領主館の壁に晒される結果となったという知らせが届いた。
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