素敵なものは全て妹が奪っていった。婚約者にも見捨てられた姉は、「ふざけないで!」と叫び、家族を捨てた。

あお

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 ハンナ達と別れたロザリーは、伯母が用意してくれた馬車に乗り、隣国へと向かった。

 荷物は平民が着るような普段使いのワンピースが三枚と下着やタオル、日用品のみ。荷物が少ないので小さな鞄に纏まり、家から持ち出すのに苦労しなかった。



 伯母とはこの三年、手紙で頻繁にやり取りをしている。

 姉妹逆転の婚約を快くは思っていなくても、伯爵である父にはなにも言えない親戚たちの中で、父の姉である伯母は違った。

 ロザリーに手紙を出し、ロザリーの気持ちをよく聞いてくれた。

 婚約が解消されてからの三年間、ロザリーは隣国に住む伯母と文通を重ねた。



 伯母はロザリーに様々な選択肢を示してくれた。

 子どもの頃から優秀で、学院時代は才女と名高かった伯母は学院の教授達の間でも有名で、その才を惜しんだ教授達に隣国への留学を勧められたそうだ。

 この国ではどうしても女性は家を守るものという考えが根強く、女は婚姻相手次第で一生が決まってしまう。

 しかし隣国では女性の社会進出が目覚ましく、結婚適齢期も長いし、婚姻した後、仕事をする事にも寛容だという。

 家に振り回されて未来になんの希望も持てなかったロザリーが隣国へ憧れるのは自然な流れだった。

 将来、伯爵家を継ぐための教育を受けて来たロザリーは、農作物の改良に力を入れていた。少しでも領地を豊かにするためだ。

 婚約がなくなった後、その勉強も無駄になるかと思われたが、隣国の話を聞き、ロザリーは学院での専攻に農作物の改良を選んだ。

 どれほど開かれた国でも、食が基本なのは当たり前。

 この国では領主やその側近、現場の責任者でもなければ農作物の改良などには関われないが、隣国には農作物の改良を専門とする研究機関があるという。

 ロザリーの希望は隣国へ留学し優秀な成績を修める事で、その研究機関への推薦を勝ち取る事だった。

 それが無理でも、隣国の学院の研究生など色々な道がある。

 隣国で就職し、ゆくゆくは隣国に籍を移して、実家との縁を切る。

 そのための準備をこの三年間やってきた。

「貴女なら、きっと出来るわ」

 親友に励まされ、ロザリーはわき目も振らずに頑張った。

 時々、親が面倒な縁談を持ってくるが、伯母から伝授された口撃で撃退した。

 そして努力の甲斐があり、教授たちの推薦を受けて隣国の学院への留学が決まった。




「初めまして。ロザリーお嬢様。旅の間、お世話をさせていただく、ロゼ・カインズと申します」

「ロザリー・ビッスルよ。二年後には平民になる予定だから、そんなに畏まらないで」

 伯母が迎えに寄越した馬車には、ロザリーの世話をするための侍女が乗っていた。

 侍女とメイドでは服装が違う。学園の制服を着ているいまはともかく、私服に着替えたらロザリーの方が彼女のメイドに見えるくらいだ。

 そんな事情を、ロザリーは隠すことなく打ち明けた。

 ロゼはある程度の事情を聞かされているのか、驚くことなく頷いた。

「問題ありません。必要なものはこちらでご用意させていただいております」

「必要なもの?」

「隣国まではわずか二週間ですが、その間にお嬢様には隣国でのマナーと一般常識を学んでいただきます。失礼ですが、研究と語学に励みすぎて、マナーがおろそかになっているとの報告がありました」

 留学の事で頭がいっぱいで、隣国のマナーにまで気が回っていなかった。

 考えてみれば当たり前のことだ。

 伯母は隣国の侯爵夫人。寮に入るとはいえ、後見も含め侯爵家に世話になるのに、マナーが覚束ないようでは恥ずかしい。

 真っ赤になってロザリーは俯いた。

「よろしくお願いします」

 蚊の鳴くような声で挨拶する。

 侍女だと思っていた彼女は、ロザリーの教師でもあったのだ。

 伯母の手抜かりのなさに驚くと共に、自分の至らなさが恥ずかしかった。

 いくら必死だったとはいえ、17年伯爵令嬢をやってきたのに、このていたらくはないだろう。

「お嬢様は優秀な方だと聞いております。大丈夫ですよ。二週間一緒に頑張りましょう」

 にっこりと笑うロゼの目に鬼が見え、ロザリーは顔を引きつらせるのだった。





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