白紙にする約束だった婚約を破棄されました

あお

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「くそっ、分かった。なら、せめてウォルドを返せ」

 腰がくだけた状態で声もかすれたまま、アマーリエとは視線を合わせずにイソベルが虚勢をはる。

「は?」

 あまりにも不可解な事を言われ、時が止まった。








 ウォルドとはアマーリエに剣を捧げた騎士だ。

 アマーリエが生まれた年に騎士見習いとなり、アマーリエの護衛についた。

 生まれたばかりの小さなアマーリエは天使のように可愛くて、ウォルドは一生この子を守っていこうと心に誓った。

 ウォルドには才能があったのだろう。わずか三年で正騎士となり、正式なアマーリエの護衛となった。

 小さなアマーリエはウォルドがお気に入りで、よくウォルドによじ登って高い高いをねだっていた。

 王家の失策でアマーリエが王子の婚約者となった後も、ウォルドはアマーリエの騎士だった。

 ちょっとイソベルに貸し出され、イソベルを狙う暗殺者を一掃してイソベルに気に入られたため、メルルーナ公爵家が第一王子の元に派遣する一員に組み込まれてしまったが、ウォルドにとって主とはアマーリエただ一人だ。

 それを誰の目にも明らかにするために、二年前、ウォルドは王都で行われる剣技大会に出場した。

 御前試合でもあるこの剣技大会は毎年行われるが、その優勝者には望みのものが与えられる。

 ウォルドはその剣技大会で優勝して、アマーリエへ剣を捧げた。

 つまり王公認のアマーリエの騎士となった訳だ。

 しかしその事実をイソベルは知らなかった。

 二年前というともうユリアナと出会った後で、ユリアナのことしか見えていなかった。

 かくして、イソベルの中でウォルドはイソベルのものとなっていたのだ。

 メルルーナ公爵家の撤退も痛いことだが、なによりもウォルドの喪失が痛い。

 ウォルドが側にいさえすれば、側妃に命を狙われ続けていても、安心して眠ることが出来る。

 たった一日のことだが、ウォルドの不在がなによりもイソベルを不安にさせていた。

「返せとはおかしな事を。ウォルドはわたくしの騎士ですが」

「分かってる。だが俺にはウォルドが必要なんだ」

 アマーリエに負け、メルルーナ公爵家の庇護が戻って来ないのはよくわかった。

 だがウォルド個人は違う。

 あれだけ長くイソベルの側にいたのだ。イソベルが請えばウォルドは必ず戻ってくれるとイソベルは確信していた。

「ウォルド、俺のところに戻ってこい!!」

 アマーリエは恐ろしいが、イソベルはなんとか顔を上げ、アマーリエの後ろに控えているウォルドを見た。

「は?」

 ウォルドは害虫を見るような目でイソベルを一瞥した。






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