白紙にする約束だった婚約を破棄されました

あお

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 なに一人で抜け駆けしようとしてるんだこいつ、と公爵が思ったかはしらない。

 公爵はすぐさま却下した。

「ダメだ」

「まぁ、聞いてください。俺が魔導士見習いの資格を持っていることはご存じでしょう。そろそろ正式に魔導士として登録しろと煩いのです」

 アマーリエの兄イリーマスにも魔法の素質があった。

 イリーマスは学園生時代に隣国の魔法学園に短期留学し、卒業資格を得ている。その時の担任の勧めで魔導士見習いの資格も取って、帰国してからも魔法についての論文を魔法協会に送っていた。

 魔導士になろうとしていたわけではないが、父親に似て勤勉なのだ。

「それこそダメだ。魔導士になったら王家に目を付けられるだろう」

 だが魔導士になるときいて公爵は反対する。

 やっと王家と縁が切れたところだ。これ以上大事な家族を王家の生贄になどしたくない。

 だがそこはイリーマスも分かっている。彼自身、妹を犠牲にした王家のために働くなどごめんだったし、抜け道は考えてある。

「そこは上手くやります。魔導士になっても協会の専属の場合、公表されませんし、引き抜きもかかりませんから」

 魔法大国の隣国にとっても魔導士は国の顔であり、貴重な人材だ。魔導士に不利益をもたらすような国には貸出しない。

 だが国にとっても魔導士となれるような人材は貴重だ。魔法学園への留学者を囲い込む動きがある。

 国でエリートになれるのだから、それを望む者はそれでいいが、望まない者にとっては国への士官など魔法を研究する上で邪魔なだけだ。

 そういった場合に備えて、魔導士・魔法使いを束ねる魔法協会はいろいろな抜け道を用意していた。

 その一つが、魔導士名簿の公開だ。
 公開してあるのだから、そこに全ての魔導士が載っていると思われがちだが、名簿に載せるかどうかは各魔導士の任意制。

 主に、故郷に錦を飾りたい人専用の名簿である。

 各国はそれを見て魔導士の雇用を決める。

 そもそも、魔導士見習いになるには試験があるが、魔導士になるには試験はない。それまでの研究成果が認められて魔法協会に席を与えられれば魔導士となるのだが、時期もまちまちだし、いちいち公表もしないというのは世間に知られていない。

「それでもダメだ。お前、仕事はどうする気だ」

 イリーマスは後継者として領政にも参加している。隣国に行くためのその仕事に穴を明けるわけにはいかない。しかも昨今は公爵のお供として議会にも顔をだしているのでなおさらだ。

「そこは転移魔法で」

 イリーマスには転移魔法がある。

 それは公爵も知っているが、いままでは秘密にしていたため、よほどの事がなければ使わなかった。それを堂々と使うというのだろうか。

「そんな魔法の事が知られたら王家がうるさいどころじゃないぞ」

「大丈夫です。魔導士登録は偽名で行いますから」

 つまりこうだ。
 イリーマスとしては、今まで通りこの国で領政に関わる仕事をする。
 だが偽名で隣国で魔導士もする。魔導士は研究に身を捧げるので表に出る事は滅多にないし、いままでも仕事の傍ら趣味として魔導の研究をしてきた。やる事は変わらない。距離の問題は転移魔法で解決する、と。

「そんな事が出来るのか」

 公爵は多忙すぎる息子の身体も心配だし、偽名で魔法協会に登録できるのか、という疑問もある。

「内緒ですが、魔法協会の保証人が五人いればいけます。師匠と同期と兄姉弟子と同期の師匠に保証人をお願いしてありますので」

 魔法を使えるが、表にしたくないという人は意外といるのだ。

 例えば某国の国王は、凄腕の魔法使いだがそれを公表していない。政敵が警戒するからだ。ちなみにこの国の王ではない。

 これは極端な例だが、数は多くないが偽名で登録する魔導士は特に王侯貴族に多かった。

 ああ言えばこう言う。我が息子ながら呆れてしまう。

 さて、どうしたものかと公爵は考え込んだ。




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