知らない人に「お前とは婚約破棄をする」と言われました。私の婚約者は貴方じゃありません。

あお

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「え?! 公爵令嬢? 君はヴェラー伯爵家の長女じゃないのか?!」

 この男は馬鹿ですか。馬鹿でしたね。

 ここはまず、名前を名乗るところでしょう。学園でどんな教育を受けてきたのですか。

 ルイスもむっとして厳しい目を向けている。

「君に質問を許した覚えはないよ。まず名乗りなさい」

 ルイスに威圧され、男は汗をかきながら、小さくなった。

「失礼しました。僕は、オスカー・ヘルマン。ヘルマン子爵家の三男です」

 ヘルマン子爵家ですか。林檎が特産品なんですよね。
 ほかに目立った功績はありませんが、ヴェラー伯爵家とは領地が近かったはずです。

「三年前からヴェラー伯爵家の長女エリスと婚約しています」

 は!?
 ヴェラー伯爵家の長女エリスってなんですか。架空のお人形さんですか。

 私は、アウリーデ公爵家のエリスですよ。ヴェラー伯爵家にも養子縁組の件は通達済みです。
 養子縁組をする時、ヴェラー伯爵がごねたので、お祖父様がお母様を蔑ろにして愛人を作っていた件で脅し、一喝していましたから。

 私が、扇をパシパシ叩き、じろりと睨みつけると。

「そのはずです」

 とヘルマンは小さく付け加えた。

「なるほど。ヘルマン子爵家はヴェラー伯爵家の長女と婚約を結んだんですね。正式な婚約証明書はありますか」

 貴族の子どもにとって婚約というのは、ある日突然親から言い渡されるもの。
 もちろんお披露目の前に、婚約証明書にサインはするが、婚約の当事者が未成年の場合、サインは婚約という契約を結ぶ家長がする。

 契約書でもあるので、そこには誰と誰が婚約するのか、婚約の条件はなにか、を記載し、両家と役所が保管する。

 気軽に持ち出すものではないので、いま持ってはいないだろうが、家に帰ればあるはずだ。それが正式な婚約だというなら。

 いまは持っていない、という当たり前のことを、ヘルマンはしどろもどろに言った。

「正式な婚約であれば、ヘルマン子爵家にも婚約証明書が保管されているはずです」

 仕方ないので、ルイスが教えてあげた。

「君がヴェラー伯爵にどう聞いているのかは知りませんが、エリスは七年前にアウリーデ公爵家に籍を移しています。ヴェラー伯爵家に籍のない娘と正式な婚約を結ぶ事は出来ないはずですが」

 ルイスの皮肉にヘルマンが慌てた。皮肉を言われたことには気づいていないようだ。愚鈍な男。

「え、そうなんですか。父にヴェラー伯爵家の長女と婚約したって聞いているんですが」

 うん。それは可能よね。

「正式なもののはずです」

 と自信なさげに付け加えるヘルマン。

 色々あって自信がなくなってしまったのだろうけれど、貴方のお父様は間違っていないと思うわ。なぜなら。

「三年前なら、ヴェラー伯爵家の長女はそちらにいるユリア・ヴェラーになるね。正式な婚約なら、証明書に名前の記述があるはずだ」

 そういうこと。ヴェラー伯爵家長女エリス、なんていうからおかしなことになるのであって、私が籍を移した後も、ヴェラー伯爵家には長女がいる。

 大事なことなので、もう一度言う。

 ヴェラー伯爵家には長女がいる。ユリアという名前の、いままさに貴方がエスコートしている相手がそうよ。






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