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竜人編

あの男

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村の外から走ってきた竜人は、何かから逃げているようにも見えた。

「あいつが来た! みんな逃げろー!! ぐわぁ!! 」

その竜人は、突如として表情が歪み、その場に倒れこんだ。背中には、真っ赤に塗られた矢が刺さっていた。

そして、その例の人間が姿を現した。

「帰ってきたぞ。狩りにな」

人の身長ほどもある大きな剣をたずさえ、のそりのそりと村に入ってきた。

「く! 性懲りもなく現れよったか!! 」

先程の石窟から出てきた村長一同は、一斉にその男に剣を向けた。扇状に広がるフォーメーションである。

「別に、今日はお前らを殺そうってんじゃねぇんだ。一つ頼みごとをな」

竜人たちとしては要件も聞きたくもないが、この人間に勝てないのは過去に知っている。村長は人々を守るためなら何でもしないといけないのだ。

「く......何の用だ」

すると男は大剣を持ったまま両腕を広げ、高らかに宣言した。

「この村の質の良い女を差し出せ! オークションにかければ、鱗なんかよりも高く売れるらしいからな! 」

確かに、鱗を奪われるよりかは平和的に、血を流さずに終わるかも知れないが、それの提案には誰しも反対だった。

しかし、大声で反論するものは一人としていなかった。

「......」

「返事をしねぇとわからねぇぞおい。いいのか? いいんだな!? 」

喋りながら男は村を歩き回り、手っ取り早く女を見つけた。それは村長の娘、メリーであった。

「中々良い顔してるじゃねぇか。こいつを貰っていくぜ」

男はメリーの首を腕で絞めながら連れた。左手にメリー。右手に大剣という状況に、誰しもが動けずにいた。

「いや......やめて! 助けて! お父さん!! 」

「......ぐ! 」

村長は涙を流しながらそれを見ていたが、やはり血の繋がった娘を見殺しにするような真似はできなかった。

村長は、剣を振りかぶりながら村を出ていこうとする男の背中に向かっていった。

「うわぁあああああ!! 」

しかし、男にはバレバレだった。
村長のいる方向へ正確に剣を振り、邪魔者を排除しようとした。命中すれば確実に命を落とすだろう。
だが、ある人物はそれを許さなかった。

「......」

男の大剣は、ユラシアの無敵インビンシブルによって防がれた。

「なっ! なにもんだお前! 」

「......神に選ばれた男だ」
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