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第3章『冒険者の街アーバン』
孤軍奮闘
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『しっかりしてくれ、こんな状況でぼーっとしててもしょうがないだろ?』
「そう……ですね」
そう言って振り向いたターニャの顔は血の気が引いて蒼白になっていた。泣くのを必死に我慢しているような顔だ、まるで鏡に映った自分を見たような気になる。……もし俺が人間だったら、今はこんな表情をしていたのかな?
『俺がここに残ってできるだけ食い止める。……だから頼む、2人はアーシャを連れて街に戻ってくれ』
「何言ってるの!そんな事できるわけ――」
『全員で残っても全滅だ、現実を見ろ!』
「だからといってネラ、あなたはどうなるんですか?こんな数、とても相手にできるとは思えません」
……この状況で1つだけ良かった点は、アーシャを眠らせたままにしておいた事だろう。自惚れかもしれないけど、今のターニャみたいに俺がここに残る事を躊躇する筈だから。
「それに仲間を置いて逃げるだなんて、そんな後ろめたい事はできません!」
俺を仲間だと思ってくれていた事は嬉しい、だけどこれ以上問答していても話が進まない。
『俺は1人の方が戦いやすいんだ、さっき使った結界や薬もある。だからアーシャを連れてダンジョンから出てくれ!』
突然、森に1匹の大きな猿が湧いた……ように見えた。
さっきまで動かずにじっとこちらを見ていた蜘蛛の群れは一斉に猿に飛び掛かる。猿は押し倒され、夥しい蜘蛛に覆われて見えなくなってしまった。
……動くなら今しかないだろう。
『早く行け!』
「ターニャ行くよ!」
「でもっ!」
動こうとしないターニャの腕をソフィーが強引に引っ張り、ダンジョンから連れ出した。
その動きに刺激されたのか、蜘蛛が波のようにザーッと駆け寄ってくる。俺は蜘蛛が外に出られないように結界を張りダンジョンの出口を塞ぎ、少し前に進みでた。
SPを補充し続ける為に[共生]を使って限界まで体を大きくしてみると、一口で蜘蛛を食べられる程大きくなれた。蜘蛛は俺の周囲を何重にも囲み、ジリジリと近付いてくる。
ババッ!
まるで示し合わせたかのように一斉に飛び掛かる蜘蛛。その悍ましい光景に頭の中が真っ白になるが、気を取り直して背中からありったけの薬をブレンドした毒液を分泌して体を振り回した。
飛び散った毒液を被った蜘蛛はジタバタともがいて地面に落ちていくが、その後ろからも途切れずに蜘蛛がどんどん飛び付いてくる。
地面に落ちて動かなくなった蜘蛛を片っ端から食べているが、結界の維持と毒液の分泌であっという間にSPが減っていく。
このままでは結界が維持できなくなり、そうなれば蜘蛛が外に出てしまうかもしれない。せっかく俺が残った意味がなくなってしまう。俺は意を決して毒液の分泌を止めた。
ぐうっ!覚悟はしていたが、身体中を蜘蛛に齧られる感覚に気が狂いそうだ。だけどアーシャの事を考えていれば、この苦しみも耐えられる。
……どれだけ時間が経っただろうか、いくら蜘蛛を倒しても森から溢れてくるのだ。終わりの見えない、変わらない光景が時間の感覚を狂わせた。
アーシャはもう街に着いたかな?ダンジョンの中からではアーシャの居場所が分からない、いつも感じていた繋がりが途切れてしまっている。不安から外に出て確かめたいが、蜘蛛のせいでそういうわけにもいかない。
戦闘の中で最適化されてルーティンワークのような動きになった頃、余裕ができた俺はなんだか冷静になっていた。
客観的に自分の行動を見つめ直すと、なんだか違和感がある。蜘蛛を食べていたり異世界に転生した事はおかしいが、その事についてではない。
……なんで俺はここに残ったんだ?ありったけのMPを注ぎ込んで結界を張っていれば、逃げ切れたかもしれないのに。
そこまで考えが及ばなかったと言われればそこまでだが、なんだろう?選択肢を歪められ――。
「そう……ですね」
そう言って振り向いたターニャの顔は血の気が引いて蒼白になっていた。泣くのを必死に我慢しているような顔だ、まるで鏡に映った自分を見たような気になる。……もし俺が人間だったら、今はこんな表情をしていたのかな?
『俺がここに残ってできるだけ食い止める。……だから頼む、2人はアーシャを連れて街に戻ってくれ』
「何言ってるの!そんな事できるわけ――」
『全員で残っても全滅だ、現実を見ろ!』
「だからといってネラ、あなたはどうなるんですか?こんな数、とても相手にできるとは思えません」
……この状況で1つだけ良かった点は、アーシャを眠らせたままにしておいた事だろう。自惚れかもしれないけど、今のターニャみたいに俺がここに残る事を躊躇する筈だから。
「それに仲間を置いて逃げるだなんて、そんな後ろめたい事はできません!」
俺を仲間だと思ってくれていた事は嬉しい、だけどこれ以上問答していても話が進まない。
『俺は1人の方が戦いやすいんだ、さっき使った結界や薬もある。だからアーシャを連れてダンジョンから出てくれ!』
突然、森に1匹の大きな猿が湧いた……ように見えた。
さっきまで動かずにじっとこちらを見ていた蜘蛛の群れは一斉に猿に飛び掛かる。猿は押し倒され、夥しい蜘蛛に覆われて見えなくなってしまった。
……動くなら今しかないだろう。
『早く行け!』
「ターニャ行くよ!」
「でもっ!」
動こうとしないターニャの腕をソフィーが強引に引っ張り、ダンジョンから連れ出した。
その動きに刺激されたのか、蜘蛛が波のようにザーッと駆け寄ってくる。俺は蜘蛛が外に出られないように結界を張りダンジョンの出口を塞ぎ、少し前に進みでた。
SPを補充し続ける為に[共生]を使って限界まで体を大きくしてみると、一口で蜘蛛を食べられる程大きくなれた。蜘蛛は俺の周囲を何重にも囲み、ジリジリと近付いてくる。
ババッ!
まるで示し合わせたかのように一斉に飛び掛かる蜘蛛。その悍ましい光景に頭の中が真っ白になるが、気を取り直して背中からありったけの薬をブレンドした毒液を分泌して体を振り回した。
飛び散った毒液を被った蜘蛛はジタバタともがいて地面に落ちていくが、その後ろからも途切れずに蜘蛛がどんどん飛び付いてくる。
地面に落ちて動かなくなった蜘蛛を片っ端から食べているが、結界の維持と毒液の分泌であっという間にSPが減っていく。
このままでは結界が維持できなくなり、そうなれば蜘蛛が外に出てしまうかもしれない。せっかく俺が残った意味がなくなってしまう。俺は意を決して毒液の分泌を止めた。
ぐうっ!覚悟はしていたが、身体中を蜘蛛に齧られる感覚に気が狂いそうだ。だけどアーシャの事を考えていれば、この苦しみも耐えられる。
……どれだけ時間が経っただろうか、いくら蜘蛛を倒しても森から溢れてくるのだ。終わりの見えない、変わらない光景が時間の感覚を狂わせた。
アーシャはもう街に着いたかな?ダンジョンの中からではアーシャの居場所が分からない、いつも感じていた繋がりが途切れてしまっている。不安から外に出て確かめたいが、蜘蛛のせいでそういうわけにもいかない。
戦闘の中で最適化されてルーティンワークのような動きになった頃、余裕ができた俺はなんだか冷静になっていた。
客観的に自分の行動を見つめ直すと、なんだか違和感がある。蜘蛛を食べていたり異世界に転生した事はおかしいが、その事についてではない。
……なんで俺はここに残ったんだ?ありったけのMPを注ぎ込んで結界を張っていれば、逃げ切れたかもしれないのに。
そこまで考えが及ばなかったと言われればそこまでだが、なんだろう?選択肢を歪められ――。
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おもしろかった
書籍にすれば、アニメ化間違なし
ありがとうございます♪笑
お気に入りに登録しました~
ありがとうございます!
面白くて一気読みしちゃいました…。更新、楽しみにしてます(^^♪
ありがとうございます!一時更新を停止しておりますが、エタるつもりではないので、これからもご愛読いただければ嬉しいです。