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幸福の少女
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アリス――というのは偽名だが、アリスはそれ以外の名前を知らない。生まれてすぐに両親が事故で死に、そのあと親戚の家をたらい回しにされた末に劣悪な孤児院に入れられた。その孤児院では子供たちを番号で呼んでいたため、幼いアリスは自分の本当の名前を忘れてしまった。孤児院はやがて倒産し、大人たちは子供を残した状態で姿を消した。保護された子供たちがほとんどだったが、アリスは役人がやってくる前に噂を聞きつけて子供を攫いにきた男たちに誘拐されてしまった。
そしてアリスはその男たちによって娼館に売り飛ばされ、新しい名前を与えられ、仕事さえこなしていれば衣食住には困らない、皮肉な状況に置かれている。アリスにとってはこの娼館こそが一番自分に優しくしてくれる場所だった。
「アリス、お客さんだよ」
「誰?」
「アビだよ。お得意様だろ? しっかり搾り取ってやんな」
娼館を経営するシルヴァという女は、口は悪いがアリスにとっては優しい祖母のような人だった。手に持っている煙管がよく似合っている。若い頃はこの娼館で一番の娼婦だったのだと自分で言っているのを何度か聞いたことがある。それが真実かどうかはわからないが、シルヴァが元娼婦だというのは本当らしい。だからこそシルヴァは現役の娼婦たちにも優しかった。
アリスは前にアビに贈られたワンピースに着替えて部屋に向かった。暫く待っていると、部屋の扉をノックしてアビが入って来る。
「いらっしゃい。元気だった?」
「ああ、アリス。少し前にちょっと風邪をひいたけど、もう元気だよ」
アビはどこかの大会社の社長らしい。前に会社の名前を聞いたことがあるが、アリスは知らない会社だったし、そのあとその名前もすぐに忘れてしまった。アビはアリスの長い亜麻色の髪を撫でながら、アリスをゆっくりとベッドに誘導する。
アリスにはこれしかできない。そもそもこの娼館に来た段階で、読み書きも怪しかった。シルヴァの指導で読み書きはできるようになったが、客と機知に富んだ会話ができるほどの知識はない。それでもアリスを気に入って指名してくれる客は何人かいる。アビはそのうちの一人だった。
「今日はアリスにとてもいいものを用意したんだ」
「いいもの? 何かしら?」
「それはこのあとのお楽しみだよ。まずはいつものように――頼めるかな?」
アリスは頷き、ベッドに腰掛けたアビのシャツを半分だけ脱がせた。何度も教えられて、アビがどうすれば喜ぶかは熟知している。アリスはまず、アビの厚い胸板に手を当てながら鎖骨にキスをした。そこから徐々に唇をずらしていき、右の乳首を唇で軽く食む。微かにアビが吐息を漏らしたのを確認してから、そこを舌で愛撫する。
「そう……いつも上手だね、アリスは」
頭を撫でられる。親戚の家でも孤児院でもアリスは厄介者で、ここに来て初めて人に褒められるということを知った。アリスは胸板に置いた手を左乳首に伸ばし、指先でその小さな蕾を弾くようにする。
「いいよ、アリス。すごく気持ちいい」
アビは屹立したものを服越しにアリスに押し付ける。アリスは頷き、窮屈そうに押し込められたそれを解放した。
「あ……すご……っ、おっきくなってる……」
心になくても喜ぶ台詞を言えば優しくしてもらえる。それがアリスにとってのこの世界だった。硬く張り詰めたものを口で扱きながら、アビに教えられた通りに自分の性器にも手を伸ばす。アビはフェラチオをしながら自慰をする女の子が好きらしい。けれどそれを恋人には要求せずに、対価を払って娼婦に要求するだけの常識はあるらしい。
「ん、んちゅ……ぷはぁ……っ」
暫くそうして舐めていると、アビがアリスの頭を優しく撫でた。それはもう終わりにしてもいいという合図だ。つまり準備ができたということ。この後の彼の台詞はいつも同じだ。
「じゃあアリスの大事なところを自分で開いて見せて」
娼館以外にまともな世界を知らないアリスにとって、そんなことは恥ずかしくもなんともない。けれどそうすれば男が喜ぶということを知っているので、アリスは恥じらう振りをしながら下着を脱ぎ、愛液で濡れ光る秘部を広げて見せる。
「相変わらず、アリスのここはピンク色でかわいいね。今日はここにとってもいいものをあげるからね。ちょっとだけ目をつぶっていてくれるかな?」
アリスは言われた通りに目を閉じた。するとアビは手のひらに収まるほどの大きさの金属の筒を鞄から取り出し、その蓋を開ける。中から現れたのはまだ生まれたばかりだと思われる小さな触手だった。アリスはそれが内腿に触れた感覚に体を震わせる。
「ん……なに、これ……」
「アリスをとっても気持ち良くしてくれるものだよ」
触手は自らの栄養源となる愛液を求め、アリスの秘部に近付いていく。そして目的の洞窟を見つけると、ぬるりとそこに入り込んだ。
「ひゃっ……! あ、ああ……っ」
「いっぱい気持ちよくなって、アリス」
アビがアリスの耳元で囁いた瞬間に、触手がアリスの膣内で蠢き出す。触手は時折震えるように動いて透明なものをアリスの中に吐き出していた。それは強い催淫作用のある液体である。
「あ、ああ……あん……っ」
「気持ちいい? とろんとした目をして……かわいいね、アリス」
アビのその言葉はアリスにとってはどこか遠くにあった。けれど喜びがないわけでもない。アリスはアビに向かって微笑みかけようとした。しかしその前に、アリスの中に入り込んだ触手が繊毛を伸ばし、アリスの内壁の襞をひとつひとつ優しく撫で始めた。それは酷使されているアリスの性器を労わるようでもあった。けれど同時に催淫作用のある液体をそこに擦り込むことにもなり、アリスは過ぎた刺激に背中を反らして喘いだ。
「いや、いやぁああ! あああぁん! そ、そんな、いじっちゃ……っ」
アリスの性器はたらたらと蜜を垂らして触手を喜ばせる。触手はそれを餌とし急速に成長し、やがてアリスの中から溢れるようにしてアリスの全身を捕らえた。
「は、あぁ……ん、きもちぃ……もっとぉ……」
アリスは陶酔しながら触手に強請る。アビはそんなアリスの痴態を眺めながら自分のものを扱いていた。
「アリスは気持ちいいことが大好きだね」
「うん……すき……だから、もっ……ひゃああっ!」
不意に、触手がアリスの秘裂を深く抉る。しかし触手は男のそれよりも柔らかく、乱暴にされることも多い娼婦のアリスはただ快感だけを受け取った。アリスの足がベッドのシーツに皺を作る。アビはそれを見て笑った。
「もうイっちゃいそう? それなら僕と一緒に……」
「あッ……イく、イっちゃ……あああっ!」
アリスが果てると同時に、アビもアリスの白い肌を白濁で汚した。しかし二人が絶頂に達した後も触手は動きを止めない。触手はアリスの体の上に出された精液を綺麗に舐め取ってから、まだ息の整わないアリスの膣内をじゅぷじゅぷと卑猥な音を立てながら擦り始めた。アリスはその激しさに、叫び声のような喘ぎをあげる。
「ふぁ、ん、ああああっ……!」
アビは責めの手を緩めない触手を見て青ざめた。一度絶頂させたらそこまでにすると決めていたのに、触手はアリスの中から出ていく気配を見せない。思わずそれを掴み、アリスの中から引き摺り出そうとするが、触手の表面は粘液に塗れていて簡単には掴めなかった。
「あ、ぁ、だめ、また……またイっちゃ……ああああ……きもひ、きもひくて……おかひくなっちゃ……ッ!」
部屋の中にはアリスの嬌声が響き渡る。アビは触手を止めようとするが、触手はそれを許さないとでも言うように、アビの全身に巻き付いた。
*
「……わかった、すぐ行く」
セグロは硬い声で電話を切った。今日のスコアを報告するために立ち寄ったカノンは、それにただならぬものを感じて顔を上げる。
「何かあったの?」
「知り合いに、娼館を経営してる奴がいてな。そいつのところに出たらしいんだよ。で、他にも救援要請してるけどなかなかヤバい状況だって」
「娼館……」
「何でも馬鹿な客が持ち込んだらしい。俺は今から向かうけど、お前は……でも今日は朝からずっと動いてるから休んだほうがいいか」
カノンは首を横に振った。認めたくはないが、寄生されている恩恵で体力は人よりある。何より、ここで金がたんまり稼げると喜びそうなセグロが真剣な顔をしているところを見ると、おそらく相当深刻な状況なのだろう。それを放置して休むことはできなかった。
「行くよ」
「そうか。じゃあバイクで急行するからこれ被れ」
カノンはセグロに渡されたヘルメットを被り、セグロの趣味らしい大型のバイクの後ろに乗った。
「こいつぁ暴れ馬だからな。振り落とされるなよ?」
「わかってる」
セグロのバイクは一気に加速し、目的の場所を目指した。風の音が耳元で響く。カノンはセグロにしっかりと捕まりながらも拳を握り締めていた。触手は産卵する前の行為にも長く時間を取る。その間に助け出せればまだいい。けれど、もし何度も産卵されてしまっていたなら――もう手遅れなのだ。おそらく今向かっている娼館にいる人も――カノンはその思考を振り払うために目を閉じた。それでも、被害は最小限に留めなければならないのだ。
セグロが娼館の前にバイクを停めると、老婆が近付いてきた。老婆と言ってもその背筋はピンと伸びていて、足取りもしっかりしている。そして顔立ちも整っていて、若かりし頃の美しさを偲ばせる。この人がシルヴァだろう。セグロはシルヴァを見るとヘルメットを外す。
「とりあえず直接見た方が早いな。他に応援は?」
「アンタらが一番早かったよ。とにかくこっちへ来てくれ!」
カノンもヘルメットを外して後に続く。普段は煌びやかに夜に輝く建物なのだろう。しかし今は、悪趣味なほど派手な建物の外側までもが触手に覆われていた。
「おいおい、どうすりゃこんかことになるんだよ」
「私もわからないよ! 一時間前までは何ともなかったんだ! それなのに――」
事前に聞いていた話では、触手に囚われた女性は一人だということだった。他の娼婦やスタッフたちは、シルヴァの機転ですぐに避難して事なきを得たという。触手の増殖が異常に早い。ここまでの例はカノンも見たことがなかった。触手に身を任せていたエルマですら、一ヶ月で自室を満たすことができる程度だったのだ。
「とにかく、アリスがまだ中にいるんだ! 何とかしておくれよ、セグロ!」
シルヴァがセグロに懇願する。カノンは二人のやりとりを聞きながら、突入のための装備を整えていた。触手が異常に数を増やした理由はわからない。しかしこのまま手をこまねいている時間はない。放置すればここから無数の触手が放たれるのは時間の問題だろう。
「って言っても、この状況からどうやって入れば」
「多少建物に損害が出てもいいなら、これ使えばいいと思うけど」
カノンは服に隠していた手榴弾を二つ取り出す。セグロはそれを見て目を瞠った。
「それ……多少じゃ済まなくないか……?」
「なんなら爪にも超小型のやつ仕込んでるけど」
「建物なら気にしなくていい。とにかくアリスを――」
セグロとカノンのやりとりを聞いていたシルヴァが言う。アリスはシルヴァにとって大切な人なのだろう。しかし、この状況では――カノンはそのことは口には出さずに建物へ向かった。
「とりあえず入り口は僕たちが入れるところだけ開けて、すぐに塞ぐ。シルヴァさん、このあと他に応援の人が来たら、その人たちにはこの建物の外から攻撃するように指示してほしい」
「わかった。頼んだよ、二人とも」
カノンとセグロはそれぞれの武器を構えて扉へ向かう。まずはそこにいた触手たちを光線銃で焼き払ってから扉を開けた。
「――中は更に酷えな」
セグロが呟く。娼館の中は、もうすっかり触手に覆われてしまっていた。カノンは目を閉じて耳に意識を集中させる。
「……二階の、奥の部屋にいる」
「そうだな。確かここは二階がそれぞれの娼婦の仕事部屋になってるはずだ」
「じゃあ間違いないね。通り道を作るから、セグロは援護して」
「おう。たっぷりスコア稼いでやるぜ」
カノンが前衛、セグロが後衛の形で進んでいく。階段を駆け上がると、既に床も壁も天井もわからないほどに触手で覆われた廊下の先から女の声が聞こえてくる。
「あッ……あ、ああああんんん! うまれ、うまれりゅ……また、イッ、ひゃぁああああんっ!」
叫び声のような嬌声に、カノンは一瞬眉を顰めた。しかしそのまま声の方へ向かっていく。前方に向かってくる触手を光線銃で撃ち抜き、後方から来るものはセグロが処理していく。
(強い人がサポートしてくれると楽だけど……問題はここから)
娼館中に溢れ返った触手も最終的には殲滅しなければならないが、そもそも新たな触手が産まれるのを阻止しなければ埒があかなくなる。カノンが既に半分壊れたドアを蹴破って奥の部屋に入ると、そこには凄惨な光景が広がっていた。
「これは……ひでえな。こっちの男は客みてえだが……こりゃあもうダメだな」
セグロが言う。彼の足元には男の死体が転がっていた。無数の触手に風穴を開けられた無惨な姿だ。生命反応を確かめる必要もないだろう。
カノンは男を一瞥してから、部屋の中心で喘ぐ女に目を向けた。シルヴァがアリスと呼んでいた少女だろう。おそらく元は可愛らしい服だったものは、ただの布きれと化して、一部が体に張り付いている状態になっている。そして顕になった秘部からは絶えず青紫色の触手が生まれていた。
「あっ、あ、らめ、また……ッ、ああああっ……! ああ、もっと……もっと、ちょうらい……」
アリスは二人が部屋に入ってきたことにも気付いていないようだった。その目は虚ろで、天を仰いではいるが何も映していない。カノンはアリスが産んだばかりの小さな触手のひとつを掴んで奥歯を噛み締めた。
「おい、リアム! 早く助けてやらねえと!」
セグロがそう言いながら、アリスの周りの触手を光線銃で攻撃する。しかしカノンは鞄の蓋を閉めながら首を横に振った。触手を産んだアリスの秘部や尻、そして嬌声をあげる口にまで赤紫色の産卵管が挿入されていく。広がりきってしまった性器はだらだらと涎を垂らしながら、三本の産卵管を咥え込んでいた。どくん、どくん、と産卵管の中を卵が通っていく様子もわかる。セグロは必死でそれを撃ち落としていくが、すぐに新しい産卵管が現れ、完全にいたちごっこになっていた。
「おいリアム! 手を貸してくれ! お前が協力してくれたらもうちょっとマシに……!」
カノンはセグロの言葉には応えず、ただ目を伏せるだけだった。アリスは相変わらず甲高い声をあげている。しかしカノンは気付いていた――アリスがもう、手遅れであることに。
「あは、あはは……ひょくひゅしゃ……もっと、もっと……うまへてぇ……!」
カノンは光線銃を構え、標的をまっすぐに見据える。そして左手で右手を支えながら、慎重に引き金を引いた。――触手ではなく、アリスの胸を目掛けて。
触手が関心を示すのは生きているものだけだ。例えば機械などに対しては、攻撃さえしてこなければ手出ししてくることはほとんどない。もちろん指令を与えれば死者に対して行動を起こすこともできるが、ここの触手たちには司令塔は存在しない。だから、これ以上新たな触手が生まれないようにするためには、アリスを殺せばそれで事足りる。カノンはアリスの体をそっと地面に横たえて、その瞼を閉じさせた。
セグロが慌ててアリスに駆け寄って生命反応を確かめる。けれど絶命していることはセグロもわかっていただろう。カノンの光線銃は、アリスの左胸を正確に撃ち抜いていた。
「リアム……お前」
「その子はもう手遅れの状態だった。だから、こうするのが一番早かった」
「そういうことを言ってんじゃねぇんだよ俺は! シルヴァはアリスを助けてくれって言ってたんだぞ⁉︎」
「……ここにいたら今度はこっちが巻き込まれる。話なら後にして」
カノンは冷たく言い放ち、セグロの横を通り過ぎて出口へと向かった。アリスが死んだことで、この娼館には生きている人間がいなくなった。あとは触手が逃げないように包囲しながら建物ごと燃やしてしまえば、ここの触手たちの殲滅は完了する。カノンはそのまま無言で娼館を出て、セグロも続いて外に出たことを確認すると、入り口を封鎖した。
外には既にシルヴァが呼んだ救援部隊が到着していて、これから娼館ごと焼き払う準備はできているという。彼らが動き始めたのを確認すると、カノンはようやく詰めていた息を吐き出した。
そしてアリスはその男たちによって娼館に売り飛ばされ、新しい名前を与えられ、仕事さえこなしていれば衣食住には困らない、皮肉な状況に置かれている。アリスにとってはこの娼館こそが一番自分に優しくしてくれる場所だった。
「アリス、お客さんだよ」
「誰?」
「アビだよ。お得意様だろ? しっかり搾り取ってやんな」
娼館を経営するシルヴァという女は、口は悪いがアリスにとっては優しい祖母のような人だった。手に持っている煙管がよく似合っている。若い頃はこの娼館で一番の娼婦だったのだと自分で言っているのを何度か聞いたことがある。それが真実かどうかはわからないが、シルヴァが元娼婦だというのは本当らしい。だからこそシルヴァは現役の娼婦たちにも優しかった。
アリスは前にアビに贈られたワンピースに着替えて部屋に向かった。暫く待っていると、部屋の扉をノックしてアビが入って来る。
「いらっしゃい。元気だった?」
「ああ、アリス。少し前にちょっと風邪をひいたけど、もう元気だよ」
アビはどこかの大会社の社長らしい。前に会社の名前を聞いたことがあるが、アリスは知らない会社だったし、そのあとその名前もすぐに忘れてしまった。アビはアリスの長い亜麻色の髪を撫でながら、アリスをゆっくりとベッドに誘導する。
アリスにはこれしかできない。そもそもこの娼館に来た段階で、読み書きも怪しかった。シルヴァの指導で読み書きはできるようになったが、客と機知に富んだ会話ができるほどの知識はない。それでもアリスを気に入って指名してくれる客は何人かいる。アビはそのうちの一人だった。
「今日はアリスにとてもいいものを用意したんだ」
「いいもの? 何かしら?」
「それはこのあとのお楽しみだよ。まずはいつものように――頼めるかな?」
アリスは頷き、ベッドに腰掛けたアビのシャツを半分だけ脱がせた。何度も教えられて、アビがどうすれば喜ぶかは熟知している。アリスはまず、アビの厚い胸板に手を当てながら鎖骨にキスをした。そこから徐々に唇をずらしていき、右の乳首を唇で軽く食む。微かにアビが吐息を漏らしたのを確認してから、そこを舌で愛撫する。
「そう……いつも上手だね、アリスは」
頭を撫でられる。親戚の家でも孤児院でもアリスは厄介者で、ここに来て初めて人に褒められるということを知った。アリスは胸板に置いた手を左乳首に伸ばし、指先でその小さな蕾を弾くようにする。
「いいよ、アリス。すごく気持ちいい」
アビは屹立したものを服越しにアリスに押し付ける。アリスは頷き、窮屈そうに押し込められたそれを解放した。
「あ……すご……っ、おっきくなってる……」
心になくても喜ぶ台詞を言えば優しくしてもらえる。それがアリスにとってのこの世界だった。硬く張り詰めたものを口で扱きながら、アビに教えられた通りに自分の性器にも手を伸ばす。アビはフェラチオをしながら自慰をする女の子が好きらしい。けれどそれを恋人には要求せずに、対価を払って娼婦に要求するだけの常識はあるらしい。
「ん、んちゅ……ぷはぁ……っ」
暫くそうして舐めていると、アビがアリスの頭を優しく撫でた。それはもう終わりにしてもいいという合図だ。つまり準備ができたということ。この後の彼の台詞はいつも同じだ。
「じゃあアリスの大事なところを自分で開いて見せて」
娼館以外にまともな世界を知らないアリスにとって、そんなことは恥ずかしくもなんともない。けれどそうすれば男が喜ぶということを知っているので、アリスは恥じらう振りをしながら下着を脱ぎ、愛液で濡れ光る秘部を広げて見せる。
「相変わらず、アリスのここはピンク色でかわいいね。今日はここにとってもいいものをあげるからね。ちょっとだけ目をつぶっていてくれるかな?」
アリスは言われた通りに目を閉じた。するとアビは手のひらに収まるほどの大きさの金属の筒を鞄から取り出し、その蓋を開ける。中から現れたのはまだ生まれたばかりだと思われる小さな触手だった。アリスはそれが内腿に触れた感覚に体を震わせる。
「ん……なに、これ……」
「アリスをとっても気持ち良くしてくれるものだよ」
触手は自らの栄養源となる愛液を求め、アリスの秘部に近付いていく。そして目的の洞窟を見つけると、ぬるりとそこに入り込んだ。
「ひゃっ……! あ、ああ……っ」
「いっぱい気持ちよくなって、アリス」
アビがアリスの耳元で囁いた瞬間に、触手がアリスの膣内で蠢き出す。触手は時折震えるように動いて透明なものをアリスの中に吐き出していた。それは強い催淫作用のある液体である。
「あ、ああ……あん……っ」
「気持ちいい? とろんとした目をして……かわいいね、アリス」
アビのその言葉はアリスにとってはどこか遠くにあった。けれど喜びがないわけでもない。アリスはアビに向かって微笑みかけようとした。しかしその前に、アリスの中に入り込んだ触手が繊毛を伸ばし、アリスの内壁の襞をひとつひとつ優しく撫で始めた。それは酷使されているアリスの性器を労わるようでもあった。けれど同時に催淫作用のある液体をそこに擦り込むことにもなり、アリスは過ぎた刺激に背中を反らして喘いだ。
「いや、いやぁああ! あああぁん! そ、そんな、いじっちゃ……っ」
アリスの性器はたらたらと蜜を垂らして触手を喜ばせる。触手はそれを餌とし急速に成長し、やがてアリスの中から溢れるようにしてアリスの全身を捕らえた。
「は、あぁ……ん、きもちぃ……もっとぉ……」
アリスは陶酔しながら触手に強請る。アビはそんなアリスの痴態を眺めながら自分のものを扱いていた。
「アリスは気持ちいいことが大好きだね」
「うん……すき……だから、もっ……ひゃああっ!」
不意に、触手がアリスの秘裂を深く抉る。しかし触手は男のそれよりも柔らかく、乱暴にされることも多い娼婦のアリスはただ快感だけを受け取った。アリスの足がベッドのシーツに皺を作る。アビはそれを見て笑った。
「もうイっちゃいそう? それなら僕と一緒に……」
「あッ……イく、イっちゃ……あああっ!」
アリスが果てると同時に、アビもアリスの白い肌を白濁で汚した。しかし二人が絶頂に達した後も触手は動きを止めない。触手はアリスの体の上に出された精液を綺麗に舐め取ってから、まだ息の整わないアリスの膣内をじゅぷじゅぷと卑猥な音を立てながら擦り始めた。アリスはその激しさに、叫び声のような喘ぎをあげる。
「ふぁ、ん、ああああっ……!」
アビは責めの手を緩めない触手を見て青ざめた。一度絶頂させたらそこまでにすると決めていたのに、触手はアリスの中から出ていく気配を見せない。思わずそれを掴み、アリスの中から引き摺り出そうとするが、触手の表面は粘液に塗れていて簡単には掴めなかった。
「あ、ぁ、だめ、また……またイっちゃ……ああああ……きもひ、きもひくて……おかひくなっちゃ……ッ!」
部屋の中にはアリスの嬌声が響き渡る。アビは触手を止めようとするが、触手はそれを許さないとでも言うように、アビの全身に巻き付いた。
*
「……わかった、すぐ行く」
セグロは硬い声で電話を切った。今日のスコアを報告するために立ち寄ったカノンは、それにただならぬものを感じて顔を上げる。
「何かあったの?」
「知り合いに、娼館を経営してる奴がいてな。そいつのところに出たらしいんだよ。で、他にも救援要請してるけどなかなかヤバい状況だって」
「娼館……」
「何でも馬鹿な客が持ち込んだらしい。俺は今から向かうけど、お前は……でも今日は朝からずっと動いてるから休んだほうがいいか」
カノンは首を横に振った。認めたくはないが、寄生されている恩恵で体力は人よりある。何より、ここで金がたんまり稼げると喜びそうなセグロが真剣な顔をしているところを見ると、おそらく相当深刻な状況なのだろう。それを放置して休むことはできなかった。
「行くよ」
「そうか。じゃあバイクで急行するからこれ被れ」
カノンはセグロに渡されたヘルメットを被り、セグロの趣味らしい大型のバイクの後ろに乗った。
「こいつぁ暴れ馬だからな。振り落とされるなよ?」
「わかってる」
セグロのバイクは一気に加速し、目的の場所を目指した。風の音が耳元で響く。カノンはセグロにしっかりと捕まりながらも拳を握り締めていた。触手は産卵する前の行為にも長く時間を取る。その間に助け出せればまだいい。けれど、もし何度も産卵されてしまっていたなら――もう手遅れなのだ。おそらく今向かっている娼館にいる人も――カノンはその思考を振り払うために目を閉じた。それでも、被害は最小限に留めなければならないのだ。
セグロが娼館の前にバイクを停めると、老婆が近付いてきた。老婆と言ってもその背筋はピンと伸びていて、足取りもしっかりしている。そして顔立ちも整っていて、若かりし頃の美しさを偲ばせる。この人がシルヴァだろう。セグロはシルヴァを見るとヘルメットを外す。
「とりあえず直接見た方が早いな。他に応援は?」
「アンタらが一番早かったよ。とにかくこっちへ来てくれ!」
カノンもヘルメットを外して後に続く。普段は煌びやかに夜に輝く建物なのだろう。しかし今は、悪趣味なほど派手な建物の外側までもが触手に覆われていた。
「おいおい、どうすりゃこんかことになるんだよ」
「私もわからないよ! 一時間前までは何ともなかったんだ! それなのに――」
事前に聞いていた話では、触手に囚われた女性は一人だということだった。他の娼婦やスタッフたちは、シルヴァの機転ですぐに避難して事なきを得たという。触手の増殖が異常に早い。ここまでの例はカノンも見たことがなかった。触手に身を任せていたエルマですら、一ヶ月で自室を満たすことができる程度だったのだ。
「とにかく、アリスがまだ中にいるんだ! 何とかしておくれよ、セグロ!」
シルヴァがセグロに懇願する。カノンは二人のやりとりを聞きながら、突入のための装備を整えていた。触手が異常に数を増やした理由はわからない。しかしこのまま手をこまねいている時間はない。放置すればここから無数の触手が放たれるのは時間の問題だろう。
「って言っても、この状況からどうやって入れば」
「多少建物に損害が出てもいいなら、これ使えばいいと思うけど」
カノンは服に隠していた手榴弾を二つ取り出す。セグロはそれを見て目を瞠った。
「それ……多少じゃ済まなくないか……?」
「なんなら爪にも超小型のやつ仕込んでるけど」
「建物なら気にしなくていい。とにかくアリスを――」
セグロとカノンのやりとりを聞いていたシルヴァが言う。アリスはシルヴァにとって大切な人なのだろう。しかし、この状況では――カノンはそのことは口には出さずに建物へ向かった。
「とりあえず入り口は僕たちが入れるところだけ開けて、すぐに塞ぐ。シルヴァさん、このあと他に応援の人が来たら、その人たちにはこの建物の外から攻撃するように指示してほしい」
「わかった。頼んだよ、二人とも」
カノンとセグロはそれぞれの武器を構えて扉へ向かう。まずはそこにいた触手たちを光線銃で焼き払ってから扉を開けた。
「――中は更に酷えな」
セグロが呟く。娼館の中は、もうすっかり触手に覆われてしまっていた。カノンは目を閉じて耳に意識を集中させる。
「……二階の、奥の部屋にいる」
「そうだな。確かここは二階がそれぞれの娼婦の仕事部屋になってるはずだ」
「じゃあ間違いないね。通り道を作るから、セグロは援護して」
「おう。たっぷりスコア稼いでやるぜ」
カノンが前衛、セグロが後衛の形で進んでいく。階段を駆け上がると、既に床も壁も天井もわからないほどに触手で覆われた廊下の先から女の声が聞こえてくる。
「あッ……あ、ああああんんん! うまれ、うまれりゅ……また、イッ、ひゃぁああああんっ!」
叫び声のような嬌声に、カノンは一瞬眉を顰めた。しかしそのまま声の方へ向かっていく。前方に向かってくる触手を光線銃で撃ち抜き、後方から来るものはセグロが処理していく。
(強い人がサポートしてくれると楽だけど……問題はここから)
娼館中に溢れ返った触手も最終的には殲滅しなければならないが、そもそも新たな触手が産まれるのを阻止しなければ埒があかなくなる。カノンが既に半分壊れたドアを蹴破って奥の部屋に入ると、そこには凄惨な光景が広がっていた。
「これは……ひでえな。こっちの男は客みてえだが……こりゃあもうダメだな」
セグロが言う。彼の足元には男の死体が転がっていた。無数の触手に風穴を開けられた無惨な姿だ。生命反応を確かめる必要もないだろう。
カノンは男を一瞥してから、部屋の中心で喘ぐ女に目を向けた。シルヴァがアリスと呼んでいた少女だろう。おそらく元は可愛らしい服だったものは、ただの布きれと化して、一部が体に張り付いている状態になっている。そして顕になった秘部からは絶えず青紫色の触手が生まれていた。
「あっ、あ、らめ、また……ッ、ああああっ……! ああ、もっと……もっと、ちょうらい……」
アリスは二人が部屋に入ってきたことにも気付いていないようだった。その目は虚ろで、天を仰いではいるが何も映していない。カノンはアリスが産んだばかりの小さな触手のひとつを掴んで奥歯を噛み締めた。
「おい、リアム! 早く助けてやらねえと!」
セグロがそう言いながら、アリスの周りの触手を光線銃で攻撃する。しかしカノンは鞄の蓋を閉めながら首を横に振った。触手を産んだアリスの秘部や尻、そして嬌声をあげる口にまで赤紫色の産卵管が挿入されていく。広がりきってしまった性器はだらだらと涎を垂らしながら、三本の産卵管を咥え込んでいた。どくん、どくん、と産卵管の中を卵が通っていく様子もわかる。セグロは必死でそれを撃ち落としていくが、すぐに新しい産卵管が現れ、完全にいたちごっこになっていた。
「おいリアム! 手を貸してくれ! お前が協力してくれたらもうちょっとマシに……!」
カノンはセグロの言葉には応えず、ただ目を伏せるだけだった。アリスは相変わらず甲高い声をあげている。しかしカノンは気付いていた――アリスがもう、手遅れであることに。
「あは、あはは……ひょくひゅしゃ……もっと、もっと……うまへてぇ……!」
カノンは光線銃を構え、標的をまっすぐに見据える。そして左手で右手を支えながら、慎重に引き金を引いた。――触手ではなく、アリスの胸を目掛けて。
触手が関心を示すのは生きているものだけだ。例えば機械などに対しては、攻撃さえしてこなければ手出ししてくることはほとんどない。もちろん指令を与えれば死者に対して行動を起こすこともできるが、ここの触手たちには司令塔は存在しない。だから、これ以上新たな触手が生まれないようにするためには、アリスを殺せばそれで事足りる。カノンはアリスの体をそっと地面に横たえて、その瞼を閉じさせた。
セグロが慌ててアリスに駆け寄って生命反応を確かめる。けれど絶命していることはセグロもわかっていただろう。カノンの光線銃は、アリスの左胸を正確に撃ち抜いていた。
「リアム……お前」
「その子はもう手遅れの状態だった。だから、こうするのが一番早かった」
「そういうことを言ってんじゃねぇんだよ俺は! シルヴァはアリスを助けてくれって言ってたんだぞ⁉︎」
「……ここにいたら今度はこっちが巻き込まれる。話なら後にして」
カノンは冷たく言い放ち、セグロの横を通り過ぎて出口へと向かった。アリスが死んだことで、この娼館には生きている人間がいなくなった。あとは触手が逃げないように包囲しながら建物ごと燃やしてしまえば、ここの触手たちの殲滅は完了する。カノンはそのまま無言で娼館を出て、セグロも続いて外に出たことを確認すると、入り口を封鎖した。
外には既にシルヴァが呼んだ救援部隊が到着していて、これから娼館ごと焼き払う準備はできているという。彼らが動き始めたのを確認すると、カノンはようやく詰めていた息を吐き出した。
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