贄の乙女は鬼となった兄の愛に溺れる

深山瀬怜

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9・月禍

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 珠を取り出すだけならそんなことをする必要はないのに、巽は優しく深凪の全身を愛撫する。しかしそれは深凪にとってはかえって毒のようでもあった。休む時間は与えてもらえるが、休んだところで体の中に珠がある限りはずっと熾火おきびのような快楽が続く。

「は……あ、んっ……」

 深凪は甘く声をあげながら、巽に身体を預けている。もうすでに何時間こうして愛されているのかもわからない。巽の愛撫によって蕩けきった深凪は、ただ快楽を享受することしかできなくなっていた。

「あ……や、だ」

 巽の指が秘裂をなぞる。そこはすっかり濡れそぼっていて、まだ求めるようにひくついていた。

「あと三つか……ここまでよく頑張ったね」
「ん……」

 巽は深凪の額に軽く口付ける。そして、ゆっくりと指を挿入した。

「あ……っ」

 待ちわびた刺激に深凪の体は歓喜した。巽の指を締め付けるように膣内が収縮し、奥へと誘うようにうねる。

「……腹立たしいな」
「え……?」

 巽が不意に小さく呟いた。深凪はぼんやりとした意識の中で聞き返す。

「いや……他の人間がお前をこんな体にしたというのが気に入らないのだ。だから、早くこの玉から解放してやりたい」

 巽は優しく深凪の頭を撫でる。しかしそれは決して優しさだけではなく、確かな独占欲も含まれていた。

「あ……っ!」

 巽が指を動かすと、ぐちゅりと水音が響く。膣内に埋まった指は二本に増やされ、バラバラに動き始めた。

「あ……あ、んっ……」

 深凪は甘い声を上げる。巽の愛撫によってすっかり蕩けきった身体は快楽を素直に享受した。

「ん……っ、あ……っ」

 巽は深凪を追い詰めるように膣内の弱い部分を執拗に責め立てる。その激しい動きに、深凪はあっという間に絶頂へと昇らされた。

「んっ……あ、あああっ!」

 身体を弓なりに反らし、深凪は大きく喘ぐ。それと同時に膣内から愛液と赤い珠がひとつ溢れ出た。

「はあっ……はあ……」

 荒い呼吸を繰り返しながら深凪はぐったりと横たわる。だが休む暇もなく巽によって抱き起こされた。

「まだ終わらないよ。ここまで来たら、今日のうちに全部出してしまおう」

 休みをもらえている分、儀式よりはましだと言えたが、それでも深凪は息も絶え絶えの状態だった。訴えるように巽の腕を掴むと、巽はゆっくりと深凪の髪を撫でた。

「少し急ぎすぎてしまったか……。でも早く他の人間の痕跡を深凪から消したかったんだ」
「お兄様は鬼になったのでしょう……なら、私は贄であった方が都合がいいのでは……?」
「深凪、お前はもう鬼に捧げられた贄などではないのだ。お前は俺のもの。だから他の人間などに入れられたものが俺にとって都合がいいだなんて、そんなことはありえない」

 あくまで優しい口調だが、巽の言葉には確かに激しい何かが隠れていた。その言葉に深凪の体は囚われる。しかしどこかで深凪もそれを望んでいたのだった。

「お兄様……あと二つ、取り出してください……お兄様の手で」
「ああ、元からそのつもりだよ」

 深凪は巽に身を委ね、再び快楽の海へと沈んでいく。

「あ……っ」

 巽の指が膣内の弱い部分に触れる。その刺激だけで深凪の身体は反応してしまった。

「あ、んっ……」

 そのまま指の腹で優しく撫でられると、深凪は甘い吐息を漏らした。巽はそんな深凪を愛おしげに見つめながら愛撫を続ける。

「ん……っ、おにい、さま……っ」

 巽は深凪に口付けると、指の動きを速めた。同時にもう片方の手で乳首を摘む。二ヶ所同時に与えられる刺激に深凪は大きく身体をしならせ身悶えた。

「あ……っ! ん……あ、あっ……!」

 巽の激しい愛撫によって赤い珠が愛液と共に溢れ出る。ことりと音を立てて落ちた赤い珠は巽の手によりすぐに握りつぶされた。

「あとひとつだよ」

 巽はそう言いながらさらに激しく指を出し入れする。ぐちゅぐちゅという水音がいやらしく響いた。

「あ……っ! ん、あっ……!」

 深凪は快楽に身を捩らせながらも、巽の首に腕を回して抱きついた。巽はそんな深凪の額に軽く口付けると、膣内の弱い部分をぐっと押し上げた。

「あ……っ!」

 その刺激でまたひとつ赤い珠が零れ、深凪の秘部から頭を出す。最後のひとつとなったそれを、巽はゆっくりと引き抜いた。

「あ……っ」

ずるりと引き出される感覚に深凪は小さく喘ぐ。そして、巽は最後の赤い珠を手のひらにのせると、それを握りつぶした。

「これで全部だ」

 巽は深凪の身体を優しく横たえる。度重なる絶頂で体は疲れ果てていたが、儀式から続いていた苦しく暴力的な快楽はなくなっていた。意識がだんだん薄れていく。
 最後に見たのは、再び鬼の角を生やし、深凪を見下ろす兄の姿だった。

***

「あの玉は入れておいた方が都合が良かったんじゃないか?」

 巽が眠っている深凪を見下ろしていると、背後に女が現れた。その額には角が一本生えている。この村に封じられていた鬼の仲間で、しかし封印されずに村人に紛れていた鬼だ。褐色の肌に銀の髪。それを頭頂部でざっくりひとつにまとめて白拍子の衣装を纏う。異様ではあるが美しい鬼だ。

「都合がいいだと?」
「あれは贄と鬼の結びつきを強める。あれがあれば贄の乙女はお前から決して離れられなくなっていたというのに」
「……そんな、偽りの愛など必要ない。まして他人が入れたものなど」
「なるほどなるほど。とにかく自分だけのものにしたいと」

 巽は女を睨んだが、指摘は間違っていなかった。深凪に別の人間が触れたというだけで、その甘い声を聞い、快楽に揺れる肢体を見た人がいるというだけで目の前が真紅に染まるほどの怒りを覚えてしまうのだ。

「まああんたには感謝してるんだ。私はあの忌々しい祠がぶっ壊される日をずっと待っていたんだ。ま、予想より随分と弱くなってたがな」
「祠の封印が同時に鬼の力を奪っていたのだろう。あれを施したのは誰なのかわからないが……」
「ああ、あれはな……かつてたまたまこの村を訪れた高僧さ。凄まじい力でな。私はさっさと逃げたが、逃げられなかった奴がいたというだけさ」
「その高僧があんな儀式を提案したのか?」

 巽が尋ねると、女はくつくつと笑った。

「まさか。あれはその僧のあとにやってきた偽物がばら撒いた話だ。滑稽だよなぁ。それを百年近く信じてきたって言うんだからさ」

 鬼からすればそうなのかもしれない。しかし巽は女の胸倉を掴んで言った。

「その滑稽さのせいで深凪はあんな目に遭ったんだ!」
「それは我ら鬼の責任ではない。そうさね……確かに我らが村を襲わなければ良かったということにはなるが、だが、そういうことをするから我らは鬼なのだ」

 女の名前は月禍ゲッカというらしい。それは巽に取り憑いた鬼からの知識だ。そして巽に取り憑いた鬼の名は耀鬼ヨウキという。耀鬼は封印により多くの力を失っていた。しかしこれから巽に取り憑きつつも力を蓄えていくのだろう。

「鬼には目的も何もないということか」
「そうさ。我らはただ悪辣なだけ」
「……俺には、村の人間の方がよほど悪辣に見えたが」
「それは人によるというものだろう。さて、私はそろそろ隠れるとしよう。耀鬼の意識が完全に戻るのはもう少し先のようだ」

 月禍はそのまま窓から外に出る。そして去り際に巽に言った。

「もしかしたら封印が解けたことを察して誰かが来るかもしれぬ。気をつけるがいい」

 そして月禍は月へ向かって飛ぶ。その姿が一瞬月を覆いつくし、名前の通りにその光を翳らせるのを巽は腕組みしながら眺めていた。
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