Fake Dancers(フェイク ダンサーズ)

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【1章】峠との出会い②

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〈週末の金曜日の夜7時〉





[プォーーン、プォーン、プォーーン〕


〔ブボーーボボボボーーーー‥‥]




 待ち合わせ場所である近所の某ホームセンターの駐車場に、今真紅のS13型シルビアQsが甲高い音を響かせて入って来た。


 隼人は20分ほど先に着いて待っていた。涼太の車に同乗して行くために、自慢の愛車(ゼファー400)をバイト先であるガススタに停めて徒歩で来ていたこともあり、少しイラッとしながらもスマホをいじりながら待っていたのだ。

 涼太の車が見えても、しばらくあえて知らぬ振りをしていた。









 [パァパァーン]


 涼太が、気付けよとばかりにクラクションを派手に鳴らす。


「うっせーなぁ、分かってるよ!」

 隼人は涼太に聞こえないくらいの声でボソッと悪態づくと、ゆっくりシルビアの方へ進み歩いて近寄った。


「隼人!  俺のシルビアちゃんの隣は、超デリケートシートなんだから、優しく座ってくれよ」


 隼人はイラッとしながらもシルビアのドアを開け助手席へと乗り込んだ。


「はいはい、優しくね~、了解、了解、失礼しますねーっと‥‥‥‥ !? 硬(か)ってー!!」
「なっなん何だ、この硬いシートは!硬くて座り心地悪いなぁー」
「とりあえず危ねぇからシートベルトをしねぇとなっ!んっ!? ‥‥‥‥ ?  あれっ、コレどうやってベルトすんの?」


「やだねー、トーシロー(素人)くんはっ!」
「いいか、これは通常の3点式シートベルトと違って4点式のベルトなんだ。複雑に見えるけど真ん中でカチッと止めるだけの、簡単でしっかり安全なシートベルトなんだぜっ」


「あっ、出来た!なるほど簡単だ。」
「まぁ涼太の運転だと、これだけガッチリしたシートベルトじゃなきゃ危ねぇってことか」



「もう、いいんだな。いいなら出発するぜっ!」
「歯を食いしばっときなよ、舌噛むぜ!」



 [ンキャキャキャキャッ!キャキャッ]
 

 [プォーーン、プォン、プォーーーン、プォン、プォーーーー‥‥‥]


 真紅のシルビアが急発進して駐車場を後にして行った。涼太がシフトを変えアクセルを踏み込む度に、隼人の身体は硬いバケットシートの背に押し付けられる。

 これはG(重力)の力だ。仮に60kgの体重の人であれば2Gの場合には体重の倍の120kgの力が掛かることになる。これが横に掛かれば『横G』と呼ばれ、その力が同じく横に掛かることになる。実際のレース時には3~5Gは掛かっている。

 そのためにも彼らのようにチューン(改造)が施された車には、4点式ベルトのようにガッチリしたベルトと、身をしっかりと固定するバケットシートが必要不可欠となる。






「とりあえずすげー山奥に行くから、今から3時間くらいは掛かるけど、その場所に行ったら隼人ぜってーにビックリするぜっ!」


 走り初めてからまだ30分も走っていないのだが、隼人からの返事は戻って来なかった。度重なるGの影響により、隼人は早くも車酔い気味になっていた。シルビアの隣に座ったその時から既に隼人は、涼太とシルビアの中のまな板の鯉と化されていた。






                   
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