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【1章】峠との出会い③
しおりを挟む〈午後10時過ぎ頃〉
〔プォン、プォン、プォン、〕
〔プォーーン、ボ、ボボボーーー‥‥‥]
隼人を乗せた涼太のシルビアが目的地へ到着した。
「おーい、隼人! 大丈夫かー、おーい」
初めてチューンドカー(改造車)の助手席に乗せられた隼人は、完全にグロッキー(ぐったり)になっていた。涼太に激しく身体を揺すられて、ようやく目を覚ます。
気づくとそこは、真っ暗な山奥に造られた駐車場だった。車40台は駐車可能なスペースとなっている。その中に今、涼太のシルビアと合わせて3台の国産スポーツカーが停まってる。
他の2台の車は、黒のSR20型180SX(ワンエイティー)と白のAE86レビンだ。
「おっ、来た来た! 涼太、待ってたぜ」
「圭介さん、ちゅーす!」
「聡さん、ちゅーす!」
今、涼太があいさつをした黒の180SXの野上 圭介(のがみ けいすけ)(24)、白のレビンの大山 聡(おおやま さとし)(20)は、ここ東海エリアにある通称『ドラゴンテール』と呼ばれるこの峠を拠点とする、『チーム・ブラックドラゴン』の二軍の所属メンバーだ。
「涼太、大丈夫なのか隣の相棒は?」
「何でも単車のテク(技術)はピカイチだって言う話じゃねえか」
「すみません、圭介さん。そのつもりで連れて来たんですが、助手席に乗せて30分も経たない内に完全にアウトになってました」
「まぁ、しょうがねえな。お前のシルビアは、ウチのメカニックの友永(ともなが)さんところの自慢の S13 Qs だからな! 足回りガチガチの峠バトル仕様だから、素人にはちょいキツイな」
「このままでは、この先の予定の逆効果になっちゃいますかね?」
「まぁ慌てずに、しばらく様子を見るよかないよな。涼太、明日は二人とも休みなんだろ?」
「はい、自分も隼人も休みっす!」
「なら今夜は、あと二時間くらいだったら付き合ってやってもいいぜ」
「ありがとうございます」
〈午後11時頃〉
「涼太、悪い。俺、完全に潰れてた!」
「隼人、お前ようやく目を覚ましやがったな~」
「ほんと情けないぜ、あれだけ単車で峠をうねるように攻めてた奴が!」
「ごめん、ごめん。どうも車の助手席は苦手なんだよな。ガキの頃から車の助手席が苦手でさ、よくゲロゲロ吐いてたんだよな」
「不思議と運転してる時は大丈夫なんだけど」
「そっかー! 運転中はOK何だよな。了解了解」
隼人は7月生まれ、涼太は5月生まれで共に夏休みを向かえる頃には二人とも18歳になっていたので、8月の夏休みを利用して地方にある自動車学校の合宿に受講した。
無事、仮免を取った後に地元の免許センターへと行き、普通自動車免許を取得した。自動二輪の中型免許を取得した際も同じ工程だった。
今回は、自動二輪の免許を持っていたために、学科免除で実技のみだったため、比較的簡単に普通自動車免許を取得することが出来た。
隼人は高校に入学した時から、知り合いでもあるガソリンスタンドにてアルバイトをしていた。免許取得後からは、店のMT式の軽トラックを運転して灯油等を運搬しているので、かなり運転慣れはしていた。
「隼人、ちょっと待っててくれよな」
「お前に紹介したい人達がいるから」
[カチャッ、バタンッ]
涼太は隼人との会話で何かに閃(ひらめ)いたように、ニコッと微笑みシルビアから出ると足早に歩いて行った。
「なんか今日のあいつ(涼太)気色悪いな。何かしら企んでやがるな」
隼人は涼太が車から出て行く姿を、ぼんやりと目で追いながら助手席でつぶやいていた。
「そうか、相棒はようやく目を覚ましたのか。それでどんな感じなんだ」
「何かガキの頃から助手席はダメなようで酔っちゃうそうなんですが、でも運転する場合に限っては車酔いは全く無いようです」
「もしよろしければ、圭介さんの走りを実際に見せてやって貰えませんか?」
「なるほど‥‥車好きの中にも極稀(ごくまれ)にいるタイプだな」
「走りを見せてやってもいいが、隣に乗せればまた酔いが発生するだろうから、いったん聡のレビンを運転させて俺と一緒にBコースを責めさせようか」
「聡さんはいいんですか!?」
「素人にレビン貸しちゃっても」
「俺は別に構わない。元々こいつ(AE86レビン)は、初心者にはベストな車だからな!」
「とりあえず隣で、テク(運転)をじっくり見させて貰うよ」
「それは名案だな。涼太は俺の180SXの隣で一緒に勉強だな!」
「圭介さん、あざーす!」
「それじゃあ、早速ですが隼人を呼んで来ます」
その後これが切っ掛けとなり、隼人は峠の走り屋の世界に魅了されることになった。
結果的に今回の涼太たちの作戦が見事成功したと言える。現にこの夜を境に隼人は、どっぷりとこの世界に浸かることになってしまったのだった。
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