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【2章】チーム・ブラックドラゴン②
しおりを挟む〈某ガソリンスタンド〉
「おらーーーい、おらーーい、おらーい、はいストッープ! OKでーす」
「レギュラー満タンですね」
「はいっ、レギュラー入りまーーーす!」
店内には店員の威勢の良い元気な声が響き渡っている。
ここは一度に、普通自動車8台が同時に給油出来るスペースを持つくらいしかない、小規模なガソリンスタンドだ。
看板には、『光永石油』と名が掲げられている。
この場所が、鳴海 隼人の働いているガソリンスタンドだ。
隼人は、ここのガソリンスタンドの店主 光永 誠(みつなが まこと)(45)に、幼い頃から世話になっていた。
「誠さん、今から回りの配達行って来ます」
「了解! 隼人、気をつけて行って来いよ」
「わかりました」
隼人は、光永にしっかり報告を済ましてから、配達に行く準備を進めて行く。
隼人の向かった先の駐車場には、店の配達車である軽トラックが停められていた。
2022年式のスズキのスーパーキャリーX660 ジムキャリー仕様を、更にカスタムしたシルバーボディの軽トラだ。
サイドのアオリ板には『光永石油』としっかりと店名が入っている。
隼人は店の軽トラックに積まれた荷を、入念に確認してから運転席へと乗り込むと、しっかりシートベルトを着用して軽トラを発進させて行った。
この光永石油は、某大手石油会社の代理店だ。光永 誠の祖父の代から継いでいて誠で三代目となる。
正社員は誠を含め3名で、アルバイトを6名採用して交代で回している。
この御時世においてセルフにせず、アンチセルフスタイル(定員サービス型)にしているのは、誠ならではのこだわりがあるからだった。
ちなみにここで働く正社員とは、誠の他に隼人と誠の息子である誠治(せいじ)(23)となっている。
誠治は主に遅番(15時~23時)の担当を勤めているため、隼人とは入れ違いで勤務している。
隼人が光永 誠の元で働く切っ掛けは、ごく自然な流れで訪れていた。隼人は物心ついた頃から母と二人で過ごしており、父親のことは知らずに育っていた。
父の名前は、鳴海 涼介(なるみ りょうすけ)。鳴海家から、20年程前に忽然(こつぜん)と姿をくらませたのだった。
涼介が姿をくらませる前まで深く親交があったのが、今隼人がお世話になっている光永 誠なのだ。
その縁もあり隼人は、幼少期の頃から誠にとても可愛いがられていた。
高校生になると趣味のバイクの費用を稼ぐために、誠の光永石油でアルバイトを始めた。
そして今回、高校を卒業すると即正社員として働かせて貰ったのだ。
ガソリンスタンド内に設けられた関係者専用の駐車場には、銀色にキラキラと大粒のメタリックの輝きを放つ『ダイヤモンドシルバー』の、1993年式 マツダ RX-7 GTR 通称FCと呼ばれる車が停められている。
フロントには、レーシングチーム『RE雨宮』製のフルバンパーを身に纏(まと)い、長く伸びたフロントノーズが特徴的だ。
この車FC(RX-7)は、光永 誠が自身の人脈を駆使して隼人に用意した特注品だ。
レーシング仕様だった車を公道仕様に組み替えた、とびっきりの一級品だ。
ある時、隼人が誠に峠の魅力に取り憑(つ)かれてしまったことをうちあけると、誠はとても嬉しくなり隼人の思いに応えたのだ。
その際ほんの触り程度だが、隼人の父親の涼介が若い頃プロのレーシングドライバーだったことを話した。
その時の話を聞く隼人の瞳は、とても真っ直ぐに輝いていたことを、誠は今でも忘れていない。
隼人が配達に出てから1時間が経過した頃、轟(とどろ)く重低音を響かせながら1台の車が、光永石油の店内へと入って来た。
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