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番外編1
11.ここに来るならこれを着て来たかったんだ
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玄関扉の前で手島さんと数人のメイドがお見送りに出て来てくれていた。
「なんだか、10年前を思い出しますね」
まだ学生服の自分が決意も新たにここを出たのはもうそんなに前になるのか…。
「そのスーツ…あの時の!」
手島さんがオレの着ているスーツに気づく。
「えへへっ、もう着られてはないだろう?」
「うん…うん…がんばったね」
手島さんは涙ぐんでいた。
そう、これは10年前にここで性奴隷として調教を受けた時採寸し作っていたものだった。
長く手島さんに預かってもらって、ずっと大切に手入れもしてくれていた。
ここに来るならこれを着て来たかったんだ。
まさかサイズそのままとは思わなかったけどな。ちなみにハヤは2年後には肩幅が合わなくなったそうだ。
ハヤが徐に手島さんの手を取った。
驚く手島さんの顔。
「父さんをどうかよろしくお願いします」
ハヤは強く手島さんの手を握りしめた。
帰りの車の中、助手席のハヤはそんなに酔ってはいないのにぼーっと流れる車外の景色を見ていた。
「覚悟はしておかないととは思っていたけど、いざとなると…怖いな…」
ぼそっとハヤが呟く。
「…うん」
子どもの頃から谷垣さんへの反発もあっただろうが、ハヤにとって目標でもあり憧れでもあった。大きな背中をずっと追いかけて今まで来られた。
オレもこの10年あの人に認められようと頑張ったから、その絆は分かる。
「でもどうしてハヤは谷垣さんの遺言を撤回したんだ?
ハヤが谷垣家の遺産の分配自体に不満があるとは思えなかったけど」
「ああ…。
父さんが死んだ後にまで手島さんをあの家に縛りつけたくはなかったんだ」
あの家を相続してしまうと手島さんは思い出の強いあの家でずっと悲しみに暮れてしまうかもしれない。
谷垣さんが倒れた時の取り乱した手島さんを直に見ているハヤにはその先が予測できたんだな。
ハヤが居なくなって、あの首輪に縋っていた自分を思い出した。
それともう一つ気になることが…。
「お母さんのことは、よかったのかよ」
谷垣さんがさらっと離婚したと発言したことに驚いたが、そのことに動揺することもなかったハヤにも驚いた。
「ナツには信じられないかもしれないけど、俺は母さんには数えるほどしか会っていないんだ。
しかも、会社関係のパーティーですれ違うとかね。
ほとんど他人と同じなんだ」
そうだったんだ。
今さらながらやはり普通の家庭とは次元が違うんだなと思った。
「ずっと乳母とメイドに囲まれていたから。
…でも、なんとなく物心つくまでは誰かにずっと抱っこしてもらっていたような、そんな記憶もあるんだよ。
広い庭で俺を抱っこして笑う人。そんで遠くに父さんが椅子に座って幸せそうにこっちを見ている。
だからかな、なかなか会えない親子関係だったけど、愛されていることに疑いはしなかったな」
「そうなんだ。
確かに最初谷垣さんに会った時はとんでもねぇー親父さんだって思ったよ。
でも、方法を間違っていたけどハヤのことを大切に思っていたんだろうな…」
オレを調教してプレゼントしようと思うくらいにはな。
そんな過去を思い返しながら、深夜、きらめく街の光に照らされた首都高を走り、オレ達の家へむかった。
「なんだか、10年前を思い出しますね」
まだ学生服の自分が決意も新たにここを出たのはもうそんなに前になるのか…。
「そのスーツ…あの時の!」
手島さんがオレの着ているスーツに気づく。
「えへへっ、もう着られてはないだろう?」
「うん…うん…がんばったね」
手島さんは涙ぐんでいた。
そう、これは10年前にここで性奴隷として調教を受けた時採寸し作っていたものだった。
長く手島さんに預かってもらって、ずっと大切に手入れもしてくれていた。
ここに来るならこれを着て来たかったんだ。
まさかサイズそのままとは思わなかったけどな。ちなみにハヤは2年後には肩幅が合わなくなったそうだ。
ハヤが徐に手島さんの手を取った。
驚く手島さんの顔。
「父さんをどうかよろしくお願いします」
ハヤは強く手島さんの手を握りしめた。
帰りの車の中、助手席のハヤはそんなに酔ってはいないのにぼーっと流れる車外の景色を見ていた。
「覚悟はしておかないととは思っていたけど、いざとなると…怖いな…」
ぼそっとハヤが呟く。
「…うん」
子どもの頃から谷垣さんへの反発もあっただろうが、ハヤにとって目標でもあり憧れでもあった。大きな背中をずっと追いかけて今まで来られた。
オレもこの10年あの人に認められようと頑張ったから、その絆は分かる。
「でもどうしてハヤは谷垣さんの遺言を撤回したんだ?
ハヤが谷垣家の遺産の分配自体に不満があるとは思えなかったけど」
「ああ…。
父さんが死んだ後にまで手島さんをあの家に縛りつけたくはなかったんだ」
あの家を相続してしまうと手島さんは思い出の強いあの家でずっと悲しみに暮れてしまうかもしれない。
谷垣さんが倒れた時の取り乱した手島さんを直に見ているハヤにはその先が予測できたんだな。
ハヤが居なくなって、あの首輪に縋っていた自分を思い出した。
それともう一つ気になることが…。
「お母さんのことは、よかったのかよ」
谷垣さんがさらっと離婚したと発言したことに驚いたが、そのことに動揺することもなかったハヤにも驚いた。
「ナツには信じられないかもしれないけど、俺は母さんには数えるほどしか会っていないんだ。
しかも、会社関係のパーティーですれ違うとかね。
ほとんど他人と同じなんだ」
そうだったんだ。
今さらながらやはり普通の家庭とは次元が違うんだなと思った。
「ずっと乳母とメイドに囲まれていたから。
…でも、なんとなく物心つくまでは誰かにずっと抱っこしてもらっていたような、そんな記憶もあるんだよ。
広い庭で俺を抱っこして笑う人。そんで遠くに父さんが椅子に座って幸せそうにこっちを見ている。
だからかな、なかなか会えない親子関係だったけど、愛されていることに疑いはしなかったな」
「そうなんだ。
確かに最初谷垣さんに会った時はとんでもねぇー親父さんだって思ったよ。
でも、方法を間違っていたけどハヤのことを大切に思っていたんだろうな…」
オレを調教してプレゼントしようと思うくらいにはな。
そんな過去を思い返しながら、深夜、きらめく街の光に照らされた首都高を走り、オレ達の家へむかった。
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