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番外編1
12.一緒に来てほしいところがあるんだ
しおりを挟む「おはよう」
完全空調管理されたマンションの一室、優しい、低音ボイスが耳をくすぐる。
「朝ごはん出来てるよ」
大きい体には少し小さく見えるエプロンを付けたハヤがベットでまだ眠りこけているオレの横に座る。
そんなハヤをぎゅっと抱きしめると、側に居る喜びをかみしめた。
オレ好みの焼き加減のトーストが用意されているダイニングテーブルに着くと、入れたてのコーヒーの香り。
料理などはハヤ担当、洗濯掃除はオレが担当となったけど、潔癖症のハヤはいつの間にか家中をピカピカにしてしまうからほとんどする事ねぇーんだけどな。
「今日、どうする?」とオレ。
せっかくの休みだ、この家でゆっくりするのもよし、どこかへ出かけるもよし。
「実はちょっと一緒に来てほしいところがあるんだ」
朝食も終え、オレはパーカーにジーンズと久しぶりにラフな格好をした。
ハヤはというと、シャツにノーネクタイ、カジュアルな厚手のジャケット。シンプルだけど秋らしくていい。
そしてどこに出かけるも言わずにそのままマンションを徒歩で出た。
街路樹も落葉して肌寒くなってきた景色を見ながら、だんだん親しみのある地域へと差し掛かる。
あーこの橋、この下の川原でよく遊んだなぁ。初めてハヤと話したのもここだっけか。
そして少し入り組んだ住宅街の一角にある門。オレ達が通った小学校だ。
懐かしいなぁ…。近くなのに、もうずいぶん実家にも帰ってない。
そうそう、この道を真っすぐ行って右に曲がって坂を昇ったら……ん!
「オレの実家じゃん!!」
「うん、ナツのお父さんお母さんに連絡しておいた。
今日家に行きますって。そしたらぜひ遊びに来てって…」
「ええーーー!!」
オレのリアクションが先か、ハヤがインターホンを押すのが先か、それとも音が鳴ったと同時ぐらいに勢いよく玄関が開くのが早かったか、もうすでに待ち構えられていた。
「いらっしゃーい!!」
元気よく飛び出してきたのは姪や甥っこ達。
そこからどやどやと姉さん夫婦と親父とかーちゃん。
ハヤはご無沙汰してますなんて挨拶して、姪や甥っ子達に腕を引っ張られて家に入っていく。
「オイオイ、どういうことだよ」
「え?隼人くん、このところ何度もうちに来てるわよ。
ほら、もううちの子たちなんて懐いちゃって、大好きなお兄ちゃんが来るって朝から大騒ぎよ」
ええー、知らなかった。
あんなに忙しく仕事していたのに…。
オレなんて、もう確か3年ぶりぐらい…かな…。
実家は仕事を引退した親父とかーちゃん、それと共働きの姉さん夫婦、そして姉さんの子供が4人の3世帯。
大学から実家を出ているオレは、まー帰っても部屋も居場所もない感じだったから、定期連絡ぐらいしかしてなかった。
リビングで子供4人に囲まれて遊ぶハヤはとても楽しそうだ。
あいつ、もしかして…
『男同士で婚姻はできない。
でも、気持ちとして、これからは一生一緒に生きて行きたい。
ナツのご両親には申し訳ないと思う。
孫の顔を見せてあげられないし、一生息子は独身だと確約してしまうことになる。
俺もナツの遺伝子が絶えてしまうのは辛い。
でも…、それでも死ぬまで俺だけのナツでいてほしいんだ……』
気にしていたんだな。
ひとしきりハヤとオレとで姪と甥っ子たちと遊んだあと、ハヤがオレ両親にお話がありますと言い、応接間へ通された。
「まだあそぼーよー」という甥っ子に姉さんが「大事な話があるの!」と諭し襖を閉めると応接間は急に別世界のように静まり返った。
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