8 / 110
8
しおりを挟む
「セリ様は規格外ですね。」
「そうか、すくすく育っていると報告を受けているが。」
「ええ。ご成長が速く、庭で水魔法を使ってらっしゃいますよ。」
「当主の血か。属性が水なのは知っているが。使っているのは水だけか?」
他の属性だと危険かもしれない。魔力属性によっては危険であるため魔道具によって制御をする。貴族の家ではよくある事で、その対処方法も簡単になっている。魔力が強くなるため貴族の家では自慢になるらしい。
「はい。水魔法で草木に水を与えています。危険性はありません。」
それを赤ん坊がわかって使っている可能性はないが、今問題がないのであれば良い。
「そうか。あの子の母親はわかったか?」
「それが、王都の方ではないようなのです。」
「アレの行動範囲は限定的だ。引きこもり、交流もほぼない男がどこで女性と出会ったか?」
子供をもうけ、育てたのは母親の方だとして赤ん坊が消えた今、どこにいるのか。
最悪、誘拐した子じゃないかと恐れている。あの男なら、孤児院から攫ってきたと聞いても信じるぞ。
計算が得意なくせに、世間とズレすぎて犯罪スレスレな男だ。まだ捕まっていないのは、目立たないからだろうとさえ思う。
「あの子がアイツの娘だとして、当主として育てるべきか。後継は必要だ。だが…」
「正統性を持ち出す親類と言う輩が、たくさん出るでしょうね。」
今でも、私が権限を持つのを不服とする者はいる。軍部に明るくないことから追い返せてはいるが。
社交界での利は、あちらにある。碌な社交ができない現状のせいだが…今は戦力の強化の方に力を注がなければ
魔物に対処できないかもしれん。
「戦力の補強は、なんとかできている。当主不在のままどこまで行けるのか。」
父も母もいない赤児から、居場所さえ奪い取るのか。その立場に立たせて良いものか。
別の道だってある。
「ひきつづき、調べてくれ。」
当主の行方は、途絶えたままだった。小規模な魔物の対処であれば、なんとかやっていける。しかし、もっと規模が大きかったら?他の家とに共同戦線になる。その時に必要な決定権も準備も、当主ではないからとできない?そんな馬鹿な状況は回避しなければ。この辺境の民の命がかかっているのだ。
そんな頃、赤ん坊のセリは…
(コック、離乳食もまずいので、水抗議!)
「なんだあ?魔法を向けるんじゃねー!」
意思疎通できないため、水魔法を当て抗議の意思を伝えている。
赤ん坊のワガママ、癇癪として片付けられてしまうこともあるが。
「くそっおとなしく食ってろ!」
(出されたものは食べた。)
コックの苛々しながらの調理は、丁寧とは言いがたい。
心配事があるかららしい。原因は女房と幼い息子の事。女房の実家の食堂を手伝う予定が長引いている。
(そんなに心配なら帰れば良いのに。義理でいるらしいが、私に不味いもの出さないで!)
そうも伝えられないので、私もイラつく。
赤ん坊に『堪える』という字はないようだった。
「あのガキ!」
周囲に愚痴るようになった。慣れないから、赤ん坊の世話は思った通りに行かないと宥められる。
自身の息子もそうだっただろうか?もう歩いているはずだと想像する。
女房に任せっきりだった。更に苛々したが…庭で。
「赤ん坊が果物を食ってた。庭師の爺さんの手で。あのおいしそうな顔、オレの料理では見ていない。」
オレは、息子に自分の料理を食わせたいんだとわかった。それからも悩んだが。
執事に暇を願い出て、結局オレは屋敷を離れた。
『逃げ帰る気か?恩を忘れて』と言われると思ったが当主代理は労って、去る俺に金もくれた。
気持ちは複雑のままだが、女房の実家へ帰れる安堵と、息子に人見知りされた。家族の時間を過ごすと
あの赤ん坊を思い出さずにはいられなかった。
「そうか、すくすく育っていると報告を受けているが。」
「ええ。ご成長が速く、庭で水魔法を使ってらっしゃいますよ。」
「当主の血か。属性が水なのは知っているが。使っているのは水だけか?」
他の属性だと危険かもしれない。魔力属性によっては危険であるため魔道具によって制御をする。貴族の家ではよくある事で、その対処方法も簡単になっている。魔力が強くなるため貴族の家では自慢になるらしい。
「はい。水魔法で草木に水を与えています。危険性はありません。」
それを赤ん坊がわかって使っている可能性はないが、今問題がないのであれば良い。
「そうか。あの子の母親はわかったか?」
「それが、王都の方ではないようなのです。」
「アレの行動範囲は限定的だ。引きこもり、交流もほぼない男がどこで女性と出会ったか?」
子供をもうけ、育てたのは母親の方だとして赤ん坊が消えた今、どこにいるのか。
最悪、誘拐した子じゃないかと恐れている。あの男なら、孤児院から攫ってきたと聞いても信じるぞ。
計算が得意なくせに、世間とズレすぎて犯罪スレスレな男だ。まだ捕まっていないのは、目立たないからだろうとさえ思う。
「あの子がアイツの娘だとして、当主として育てるべきか。後継は必要だ。だが…」
「正統性を持ち出す親類と言う輩が、たくさん出るでしょうね。」
今でも、私が権限を持つのを不服とする者はいる。軍部に明るくないことから追い返せてはいるが。
社交界での利は、あちらにある。碌な社交ができない現状のせいだが…今は戦力の強化の方に力を注がなければ
魔物に対処できないかもしれん。
「戦力の補強は、なんとかできている。当主不在のままどこまで行けるのか。」
父も母もいない赤児から、居場所さえ奪い取るのか。その立場に立たせて良いものか。
別の道だってある。
「ひきつづき、調べてくれ。」
当主の行方は、途絶えたままだった。小規模な魔物の対処であれば、なんとかやっていける。しかし、もっと規模が大きかったら?他の家とに共同戦線になる。その時に必要な決定権も準備も、当主ではないからとできない?そんな馬鹿な状況は回避しなければ。この辺境の民の命がかかっているのだ。
そんな頃、赤ん坊のセリは…
(コック、離乳食もまずいので、水抗議!)
「なんだあ?魔法を向けるんじゃねー!」
意思疎通できないため、水魔法を当て抗議の意思を伝えている。
赤ん坊のワガママ、癇癪として片付けられてしまうこともあるが。
「くそっおとなしく食ってろ!」
(出されたものは食べた。)
コックの苛々しながらの調理は、丁寧とは言いがたい。
心配事があるかららしい。原因は女房と幼い息子の事。女房の実家の食堂を手伝う予定が長引いている。
(そんなに心配なら帰れば良いのに。義理でいるらしいが、私に不味いもの出さないで!)
そうも伝えられないので、私もイラつく。
赤ん坊に『堪える』という字はないようだった。
「あのガキ!」
周囲に愚痴るようになった。慣れないから、赤ん坊の世話は思った通りに行かないと宥められる。
自身の息子もそうだっただろうか?もう歩いているはずだと想像する。
女房に任せっきりだった。更に苛々したが…庭で。
「赤ん坊が果物を食ってた。庭師の爺さんの手で。あのおいしそうな顔、オレの料理では見ていない。」
オレは、息子に自分の料理を食わせたいんだとわかった。それからも悩んだが。
執事に暇を願い出て、結局オレは屋敷を離れた。
『逃げ帰る気か?恩を忘れて』と言われると思ったが当主代理は労って、去る俺に金もくれた。
気持ちは複雑のままだが、女房の実家へ帰れる安堵と、息子に人見知りされた。家族の時間を過ごすと
あの赤ん坊を思い出さずにはいられなかった。
125
あなたにおすすめの小説
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。
鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。
さらに、偽聖女と決めつけられる始末。
しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!?
他サイトにも重複掲載中です。
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する
タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。
社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。
孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。
そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。
追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる