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新章

4-①

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「健康診断の結果は良好。精神面は彼女自身が不安を感じているようですが、総合的に見て大丈夫だと判断します。」

「長谷川海奈、彼女を送り出せるか?」
「問題ないでしょう。」

彼女を送り出したい思惑という物があるものの、安全を蔑ろにはしない。
こちらでの死など、論外な事態だ。そうなれば、マスコミにかぎつけられ異世界の存在は公になるだろう。いや、そうなる前に情報操作が行われるだろうか?

それほど、トップシークレットの事態であり、相互の理解で成り立っている細い糸のような関係が続いている。ただ違うのは…

『あちらの世界での死は、こことは異なる。』

神殿で身体が用意される事。地球から、意識のダイブ(潜水)することによって向こうにたどり着く存在となる。その身体が使えなくなり、行けなくなることはあっても、死を体験することはない。

「感覚的にゲームってのがピッタリ合いますね。」
こちらにとってはゲームオーバー、続きがなくなるだけ。その点の安全性は確かにゲームと相似がある。体調不良や時差ボケのような症状も科学で説明できた。

「向こうでは、精霊の奇跡らしいけどな。」
奇跡が実際に起こる世界では、回数がなんの意味があるのかと聞き返される。その点の見解の相違はあるものの、世界の知識や伝統を知りたいという欲求は同じだ。

侵略に至るには遠過ぎる関係性は、今のところ平和な外交に落ち着いている。最悪は寸断される事くらいか。過去、ストライキのような通信不能状態はあったものの双方の有用性はまだまだ尽きない。

「心配は、精神の死だな。」
保護、向こうの言葉では加護があっても、精神的な負担は地球にある身体に負担をかける。

「バックアップは万全でなければ」

あの世界での恩恵はもちろんあるが、興味の尽きない世界だ。私は踏み出す機会は与えられていないが、人を異世界へ送り出すこの仕事を続けていきたい。

「彼女のメンタル面のサポートを増やした方が良いか?」
「環境を変えるとストレスになるタイプのようですので、人数を増やすのは打診してからのが良いかと。」

「では、始動だ。」

カプセルの整備は済んでいる。彼女に一歩を踏み出してもらう事から始まる。

行き先は異世界。スピリッツアとも呼んでいる、ファンタジーを思い起こさせる世界。剣と魔法が発達し、精霊の加護がある。電子の世界からまた1人、世界を渡る者が現れる事になる。

「後は彼女の心、次第だ。」

それを待つには十分な余裕があった。
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