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現実の波

16-①

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お茶を一杯飲む間の面会は、早々に終わった。
クラークが高速に思考しているようで、会話は途絶えた。お邪魔かと思って遠慮がちに声をかけて退室した。
その後の仕事が大丈夫か心配だが、紅茶を運んでくれた人に頼んでおいたのでなんとかなるだろう。

それにしても、クラークも研究者タイプで思考に没頭するんだなと新しい発見だった。


長期ダイブが間近になり、私は会議に打ち合わせにと立て続けに出る。仕事を片付けて行く 現実とのお別れってほどじゃないけどセンチメンタルになりそうなものだけど。

長期のダイブの準備は体力アップ、メンタル管理、補助を受ける。私は疲れやすい、脳の性質で治せない。それを誤魔化すこと、対応すること、慣れること。この検査結果を受け入れるのは、私にとって諦めることに近かった。

もどかしさが日常にあるけど。自身の事を知れば納得もあった。揺れた感情は今、安定している。
自身を見つめると、異世界という誰も知り合いの居ないところへ行くのに。

(寂しいと感じないことが、後ろめたい。)

「言ってしまえば、派遣で帰って来るんだからって寂しさって湧かないんですよねー」

感じないことが、後ろめたい。そんな気持ちをカイナは吐き出してみることにした。少しナイーブになっているか心配されそうだけど。私とは違う答えをくれそうだ。

「感性は人それぞれって言う」
「迷惑そんなにかけなきゃ、なんでも良いんじゃないっすか?」

最近このツーショット。尊敬できる年上の女性と、あっさりしている若手さん。それぞれ、個性的で自立心があった。私には羨ましい長所だ。

睡眠時間の確保、夜通しの作業はやらないんじゃない、できない。それをしてしまうと次の日は使い物にならないから。体質、脳の機能は治せない。

「休養は必要で、その時間も人それぞれ。」

明確な答えだけど、欲望は果てしない。スピリッツアに行けば、もっとできるだろうか?その期待と裏切られるだろうと気持ちが相反する。その感情も受容して認めようと思った。

休むといえば、技術屋さんは強制休暇中。働き過ぎで温泉旅行へ。

「帰ってきたら一緒に行きましょ?」
「帰還組みで旅行企画してるんで、是非参加を!」

福利厚生がバッチリな会社だ。是非にと答えた。私が欠けても世界は周ってくと知っている。でも、私は自身の意思で自分の人生だろ、新しい世界に行く。

身体と世界を新たに、1人ではない。

(待っていてくれる人がいる。)

早く会いたいよと送られてきたスタンのメッセージに、『私もだよ』と答えるくらいには。
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