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II-a 王都に向う旅

孤児院にて

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“マサラダ”をお土産に孤児院の方に顔を出した。

ドーナツの穴がない揚げドーナツという代物だった。
別の世界から妖精の囁きによって伝わったものだ。
稀に、妖精に好かれたものが、天啓を受けたように新しいものが出来上がる。

これから、穴の空いたドーナツが出てくるのか?
それは、神にならわかるかも知れない。


「ただいま」
と孤児院の食堂に入ると、アイハンが本を読んでいた。

「セリさん!お帰りなさい。」

他の子は勉強をしている時間だろう。
シスターが読み書きを教えてくれるので、

教会の子と近所の子が集まっている。
うち(教会の子)のおやつということで、シスターが良くしてくれるだろう。

食べたがっていたのは、ルカとシーナだと知っている。
お店の売り子のように2人で話して態とらしく気を引いていた。

遠回しのおねだりだったな。あれは。
それを思い出したのかアイハンが笑っている。

「噂の“妖精のお菓子”だね。」

別の世界から来たお菓子という触れ込みで、
砂糖が使われているから妖精とついていると思っている。

「町から出るから挨拶に来た。」

「ああ、王都へ向かう商人達が大移動するんだよね。父さんにはあった?」

トムおじさんのことだ。
それについて行く形になる。

「平地まで護衛するの?帰りは・・2週間くらいかかるかな?」
帰ってくるものだと頭にあるのだろう

「もっと長い。王都まで行く。」

少し濁して答えた。
ここに、帰ってこないかもしれないのだ。

ーそして、迷惑がかかるかもしれない。

「そうなの。」こちらの逡巡には気づかず、アイハンは
あっさり会話を終えた。

ルカとシーナ、2人の顔を見て
シスターに挨拶をしたら出よう。

ーーー

大人気だな。お菓子。

子供達が一斉に帰ってきて、合唱のようにお礼を言われる。
ルカとシーナも満足そうだ。

「姉ちゃん、しばらく帰って来ねえって?」
「そうなの!?寂しい!」

砂糖がついた口で言われてもシリアスがないね。
「後ろの兄ちゃん達といくのか?」ロード達を観察しているようだ。

「冒険者!って感じだね。綺麗にしてるけど」シーナがセリに話しかける
冒険者は汚いというイメージがあるらしい。力仕事とか多いからな。

ルカは、ロードに話しかけている。
「なあ兄ちゃん!セリ姉ちゃんを守れるくらい強えの?」
直球に聞いているのに、ルカらしい物言いだなと思った。

「セリは俺が守る!俺の番だから当たり前だ」

「番?」
「人族で言う、嫁だな。」

「お嫁さんになるの!?」とシーナが大声出した。

「会ったばっかだし…」
この件に関しては、時間が欲しい。


深く突っ込まれる前に、シスターからの助け舟。

「教会に神父様がいらっしゃいますよ。
顔を見せてあげてください。」と促されたので、

「わかりました」と答えて別れた。


孤児院を出て振り返る。
もう会えない別れになるのかもしれない。

いや、冒険者ならありうることだ。
だから…

祈るような心持ちになった。



どうか
穏やかな毎日を送ってください、と。
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