理論上俺の異世界転生、うまくいくはずだった

munmun

文字の大きさ
2 / 3

第一章ーー第3話 『理論上の尋問突破と、現実的な朝食(モンスター)の調理、そして俺たちの胃袋という名のブラックホール』

しおりを挟む
暗闇だった。
 そこは、光という概念がストライキを起こしたかのような、完全なる漆黒の空間。
 湿気と、古い藁(わら)の匂いと、埃っぽさが充満する閉鎖空間。
 そう、俺たちが押し込められた村の「倉」である。

 異世界転移二日目の夜――正確には未明。
 俺たちの現状は、控えめに言っても最悪だった。
 ステータス異常:『空腹』『疲労』『不眠』『閉所恐怖』。
 そして何より――。

 ぐゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――キュルルルルル――ゴゴゴゴゴ……。

 静寂なる倉の中に、地獄の底から響く亡者の叫びのような、あるいは地殻変動の前触れのような重低音が木霊(こだま)した。

「……うるさい」

 暗闇の向こう側、おそらく数メートル離れた位置から、鷹宮 恒一朗の絶対零度に近い冷徹な声が飛んでくる。

「相馬。お前、さっきから何回鳴らせば気が済むんだ? 俺の【戦術演算】が『騒音公害レベル:中』って判定を出してるぞ」

「……なあ、鷹宮」

 俺――相馬 恒一は、チクチクする藁の束の上で寝返りを打ちながら、哲学的な問いを投げかけた。

「理論上、この音は俺の意志では制御不可能な生理現象だ。胃袋という名のブラックホールが、質量を求めて悲鳴を上げているんだよ。これは俺の魂の叫びであり、生命維持装置(ライフサポート)のアラートだ。むしろ、この音が止まることこそが『死』を意味すると思わないか?」

「思わない。ただの騒音だ。あと、そのアラートがうるさすぎて俺の生命維持(睡眠)が脅かされている」

「ひどいよねー。友達の空腹よりも自分の睡眠を優先するなんて。友情の危機だよねー」

「お前との友情より、今は静寂が欲しい」

 俺の隣では、真壁 恒一がスマホの画面を顔の下で光らせていた。
 下から青白い光に照らされたその顔は、怪談話の語り部か、あるいは呪われた日本人形のようにホラーだ。

「……なあ、これ録音してるからな」

「え、何? 俺の腹の音?」

「そう。『【ASMR】異世界の倉で男子高校生が空腹に悶える音~立体音響~』ってタイトルで保存した。これ、マニアにはたまらない需要があるかもしれない」

「異世界にそんなマニアックな需要はないし、あったとしてもスパチャは投げられないぞ」

「わからんぞ? 異世界の貴族とかが『オホホ、下民の飢える音は風流ですわね』とか言って金貨を投げてくれるかも」

「性格が悪すぎる貴族しかいないのか、この世界は」

 倉の隅、一番風通しが悪そうな場所で体育座りをしている**霧島 恒一(ひとえ)**さんが、暗闇の中で眼鏡をキランと光らせた。光源がないはずなのに光る、それが彼女の眼鏡の神秘だ。

「……補足します。相馬くんの腹の音の周波数は、可聴域ギリギリの低周波を含んでいます。長時間聞き続けると、精神不安定、自律神経の乱れ、および吐き気を催す可能性があります。音響兵器としての運用が理論上可能です」

「俺の腹、兵器認定された!? ジュネーブ条約に違反しちゃう!?」

「事実です。鷹宮くんのストレス値が限界突破しています。現在、彼の殺意はおよそ85%」

「高っ! ほぼ殺す気じゃん!」

 鷹宮が深いため息をついた。

「わかったら黙って寝ろ。体力温存だ。明日の朝には尋問があるんだぞ。頭をクリアにしておかないと、変なボロが出て処刑ルートだ」

「寝られないよねー。俺、枕が変わると寝られない繊細なタイプだし、そもそも枕がないし、床が硬いし、腹が減ったし、喉乾いたし、未来が暗いし」

「文句の多い死体だな! もう気絶しろ!」

「気絶か……理論上、脳への血流を一時的に遮断すれば……」

「自分で絞めろ!」

 こうして、長く、寒く、そして騒がしい夜は、俺の腹の独奏会(ソロリサイタル)と共に更けていった。

 ◇

 翌朝。
 ガギッ、ギギギ……という重々しい金属音と共に、倉の扉が開かれた。
 一気に射し込む強烈な朝日。
 暗闇に慣れきった網膜が悲鳴を上げる。

「ぐわぁっ! 目が、目がぁぁぁ!」

「バルスかお前は」

 俺たちは吸血鬼のように顔を覆いながら、よろよろと外へ出た。
 新鮮な空気。土の匂い。
 そして、俺たちを取り囲む、冷ややかな視線。

「……出てこい、不審者ども」

 昨日の無愛想な衛兵(名前はまだない、というか一生ない気がする)が、槍の切っ先を突きつけてきた。
 広場には、村長と数人の村人が待ち構えていた。
 村人たちのひそひそ話が聞こえてくる。

「おい見ろよ、あの変な服」「髪型が変だ」「顔がアホそう(俺のことか?)」「魔物じゃないのか」「いや、ただの遭難者だろ」

 アウェイだ。完全なるアウェイだ。

「……生存確認。全員、意識はあるな」

 鷹宮がふらつきながら立ち上がる。目の下のクマが濃い。完全に寝不足だ。犯人は俺の腹だ。申し訳ないとは1ミリくらいしか思っていないが。

「さて、詳しい話を聞こうか」

 村長が杖をつきながら、厳しい目で俺たちを見据えた。
 白い髭を蓄えたその顔は、いかにも「異世界の長老」という威厳がある。だが、その目は疑心暗鬼に満ちていた。

「お前たちは何者だ。どこの国から来た。目的は何だ。正直に答えれば命までは取らん」

 メインクエスト発生:『尋問を突破せよ』。
 難易度:S(失敗即奴隷、または処刑)。

 鷹宮が小声で俺の耳元に囁く。

「相馬、いいか、余計なこと言うなよ。絶対にだぞ。昨日の設定を守れ。『記憶喪失の迷子』だ。それ一点張りでいく」

「任せてよ。俺、小学校の学芸会で『木の役』を完璧に演じた演技派だからねー」

「不安要素しかない!」

 俺は一歩前に出た。
 そして、昨晩【無限思考】でシミュレーションした「最も好感度が高いと思われる笑顔(営業スマイル)」を村長に向けた。

「おはようございます、村長さん! いやー、昨日はよく眠れました! 藁(わら)って意外と保温性が高くて暖かいんですね! 驚きの発見でした! ところで朝ご飯の予定とか――」

 ゴッ。

 鈍い音が響いた。
 鷹宮の鋭利な肘が、俺の脇腹(レバー)に深く、正確に突き刺さったのだ。

「ぐふっ!」

「申し訳ありません、村長殿。連れがまだ寝ぼけております」

 鷹宮が即座にフォロー(という名の隠蔽工作)に入る。彼は俺の横腹を押さえつけながら、深々と頭を下げた。

「私たちは、気がついたらあの森に倒れておりまして……自分の名前以外の記憶が曖昧なのです。故郷の場所も、なぜこの服を着ているのかも思い出せず……混乱しているのです」

「ほう、記憶喪失か」

 村長が疑わしそうに目を細める。

「都合の良い病だな。だが、その割には顔色が良すぎる。特にそこのアホ面の男、肌ツヤがいいぞ」

「俺のことだよねー! アホ面ってひどくない!? これは生まれつきの愛嬌顔だよねー!」

「事実だ。黙れ」

 村長は次に、霧島さんを見た。

「娘、お前もか?」

 霧島さんは表情を崩さず、しかしどこか虚ろな目を演出して答えた。

「……はい。断片的ですが、一般常識や言語知識は残っています。ですが、個人の経歴に関するメモリが物理破損……いえ、思い出せません。アクセス権限がありません」

「メモリ? アクセス? 何を言っておる?」

「あー、頭の中の引き出しのことです! 難しい言葉を使いたがる年頃なんです!」

 真壁が横から口を挟む。

「俺は覚えてますよ。俺たちは『記録係』です」

「記録係?」

「ええ。世界のありのままを切り取る旅をしていて――このスマホという魔道具で――」

 グシャッ。

 鷹宮が真壁の足(新品のローファー)を全力で踏み抜いた。

「痛っ! なんだよ! キャラ設定くらい自由にさせろよ! 俺のクリエイティビティを殺す気か!」

「お前の自由が俺たちの命取りなんだよ! 黙ってろ!」

 村長が深いため息をついた。
 呆れている。完全に呆れている。

「……やれやれ。嘘をつくなら、もう少し口裏を合わせてから来い。演劇一座の三文芝居でも、もう少しマシだぞ」

 バレてる。
 完全にバレてるよねー。
 俺たちの演技力、異世界じゃ通用しない説。

 村長が衛兵に目配せをした。

「怪しいが、悪人には見えん。悪人にしては間抜けすぎる。ただの『世間知らずのバカ』の集団だ」

「バカ認定! 否定できないのが一番辛い!」

「とりあえず、村の畑仕事でも手伝わせるか。働かざる者食うべからずだ。素性はどうあれ、労働力にはなるじゃろう」

 労働。
 その言葉を聞いた瞬間、俺の脳内メーカーが「拒否」「怠惰」「睡眠」の文字で埋め尽くされた。

「えー、労働ですか? 俺、座って宇宙の真理について考える仕事(ニート)しかしたくないんですけど」

「お前ができるのは『座って腹を鳴らす仕事』だけだろ! 文句言わずに働け!」

 その時だった。

 コケコッコーーーーーッ!!!!!!

 村の外、森の奥から、大気を震わせるような絶叫が響いた。
 ニワトリの鳴き声だ。
 ただし、音量がジェット機の離陸音並みだ。鼓膜がビリビリと震える。

「な、なんだ今の声!?」

 村人たちがざわめき出す。
 見張り台にいた衛兵が、顔色を変えて鐘を鳴らした。

「カンカンカンカン! 敵襲! 敵襲! 村長! 『アレ』です! 《グレート・コッカトリス》が出ました!」

「なんじゃと!? またか! この前追い払ったばかりじゃぞ!」

 俺たちは顔を見合わせた。

「……グレート・コッカトリス?」

 俺が首を傾げると、霧島さんが即座に反応した。眼鏡がサーチモードの光を放つ。

「鑑定。対象:魔獣《グレート・コッカトリス》。推定ランクB。体長4メートル強。石化の邪眼は持ちませんが、鋼鉄をも砕く強靭な脚力と、槍を通さない羽毛、そして凶悪なクチバシを持つ、巨大なニワトリ型の魔獣です」

「巨大なニワトリ……体長4メートル……」

 その言葉が、俺の脳内でリフレインする。
 巨大な。ニワトリ。
 つまり。

「……巨大な、唐揚げ?」

 俺の口から、滝のようなヨダレが出た。
 思考が加速する。
 4メートルのニワトリ。単純計算で、フライドチキン何個分だ? 一万個? いや、もっとか?
 モモ肉一本で、俺の身長よりデカいのか?

「相馬、お前ブレないな! 今、完全に『食材』として見たろ!」

 鷹宮が呆れるが、俺の【無限思考】はすでに「いかにして食べるか」にシフトしていた。
 恐怖? ない。あるのは食欲のみ。

「村長! そのニワトリ、倒したら食べていいですか!?」

「は? 何を言って……今はそれどころでは! 全員避難だ! 畑が荒らされる! 家が壊される!」

 ズドォォォォォン!

 村の入り口の柵が、紙細工のように吹き飛んだ。
 土煙の中から、巨大な影が侵入してくる。

 デカい。
 マジでデカい。俺の家の二階建てより高い。
 真っ赤なトサカが王冠のように輝き、凶悪な鉤爪のついた足が地面をえぐる。
 その瞳は、爬虫類のように冷たく、そして貪欲だ。

「コケーッ!」

 一鳴きで、近くの物置小屋の屋根が吹き飛んだ。ソニックブームだ。

「うわ、マジでデカい! 怪獣映画かよ! 特撮セットじゃないよな!?」

 真壁がスマホを構える。手は震えているが、しっかりと録画ボタンを押している。

「これ、特ダネだ! 『【衝撃映像】巨大ニワトリ、村を襲撃! 人類終了のお知らせ』で再生数ミリオン確定!」

「撮ってる場合か! 逃げるぞ!」

 鷹宮が俺の腕を引く。
 だが、俺は動かなかった。
 足が竦んでいるのではない。釘付けなのだ。あの、プリプリとした太ももに。

「……逃げない」

「は? 死ぬぞ! あんなの勝てるわけないだろ!」

「逃げたら、朝飯が逃げる」

「お前の命より朝飯が大事なのか! 優先順位がバグってる!」

「理論上、空腹死と戦死なら、戦死の方が尊い。それに、ここで逃げたら一生『世間知らずのバカ』扱いだ。名誉挽回(と肉)のチャンスだよねー!」

「お前……!」

 鷹宮が葛藤する顔をした。
 逃げたいという本能と、俺を見捨てられないという良心(あるいは俺が死んだら困るという打算)が戦っている。
 そして、クソッと吐き捨てる。

「わかったよ! やればいいんだろ! どうせ逃げても足の遅いお前から食われる! ただし勝算はあるのか!」

「ない!」

「即答かよ!」

 俺は一歩前に出た。
 【無限思考】、フルドライブ。
 ターゲット:グレート・コッカトリス。
 目的:解体、調理、実食。

「霧島さん、弱点は!」

「解析完了。全身の筋肉密度が高く、通常攻撃は通りません。唯一、首の下にある『肉垂(にくすい)』と呼ばれる赤い部分。そこだけ皮膚が薄く、動脈が通っています。そこが急所です」

「難易度高いな! あんな高いところ、どうやって狙うんだ!」

「しかも、動きが速く、的が小さい。命中率は鷹宮くんの腕でも5%未満です」

「詰んだ!」

「いや、詰んでない」

 俺はニカっと笑った。

「動きが速いなら、止めればいい。的が小さいなら、隙を作ればいい。真壁、お前の出番だ」

「俺? 俺は戦力外だぞ。カメラマンだぞ」

「昨日保存した『うさぎ』のデータ、まだあるか?」

「あるけど……ニワトリにうさぎが効くか? 種族違うぞ」

「効く。鳥は動く小動物が好きだ。食欲を刺激しろ! あいつは今、腹が減ってる。俺たちと一緒だ!」

「なるほど! お前と同じ思考回路ってことだな! 『食いしん坊』には『飯テロ』が効く!」

「失礼な! でも正解!」

 コッカトリスがこちらに気づいた。
 巨大な瞳が、俺たちを「エサ」としてロックオンする。
 殺気ではない。食欲の圧だ。

「来るぞ! 鷹宮、指示を!」

「チッ……やるしかねえか! 【戦術演算】起動! ルート構築! 相馬、お前が囮だ!」

「やっぱり!? なんで俺だけリスクが高いの!? リーダー(仮)だよねー!?」

「お前が一番『美味そう』に見えるからだ! 動きがトロくて、油断してて、高カロリーそうだ!」

「悪口のオンパレード! でも行く!」

 背中を蹴飛ばされた。
 俺は、巨大なニワトリの前に飛び出した。
 風圧がすごい。生臭い息がかかる。

「やあ、ニワトリさん! こっちだよー! 高タンパク低脂肪、ストレスフリー育ちの相馬くんだよー! 噛みごたえあるよー!」

「コケッ?」

 コッカトリスが首を傾げる。
 「なんだこの弱そうな生き物は?」と思っているのがわかる。
 そして、獲物を見つけた猛禽類の目で、襲いかかってきた。

「速っ!」

 クチバシが槍のように突き出される。
 俺は【無限思考】で計算された「無様だけどギリギリ当たらない回避ルート(通称:ゴキブリムーブ)」で地面を転がり回った。

「うわあああ! 土の味がする! 死ぬ! いや死なない!」

 俺が泥だらけになりながら逃げ回ることで、コッカトリスの注意が完全に下に向いた。
 今だ。

「真壁、展開しろ!」

「おう! 保存データ、フル展開! ――再生(プレイ)!」

 真壁が両手を掲げる。
 コッカトリスの目の前、顔の高さの空中に、大量の「うさぎの群れ」の幻影が出現した。
 ぴょんぴょん跳ねる、数千匹のうさぎたち。
 音と匂い付きの、最高のご馳走の幻影。

「コケ!? コココ!?」

 コッカトリスが混乱する。
 足元の俺(一匹)と、目の前のうさぎ(大量)。
 質より量。奴の鳥頭(バードブレイン)が処理落ちを起こした。
 動きが止まる。首が上を向く。

「今だ! 霧島さん!」

「はい。計算通りです」

 霧島さんが、落ちていた手頃な石を拾い上げた。野球ボールくらいの石だ。
 彼女の腕力は女子高生平均以下。ダメージは期待できない。
 だが、彼女には【解析】がある。

「投擲(スローイング)。角度修正32度、風速補正マイナス2。コッカトリスの予測挙動データ入力完了。……必中」

 ヒュン!
 力のないフォームから放たれた石は、しかし吸い込まれるようにコッカトリスの「目」に当たった。

「コケーーーッ!!!」

 視界を奪われ、コッカトリスがのけぞる。
 痛みと驚きで、首が大きく上に反り返った。
 その瞬間、首の下にある赤い「肉垂」が、無防備に露出する。

「鷹宮! トドメだ! 美味しいところ持ってけ!」

「人使いが荒いんだよ! 計算外の労働だ!」

 鷹宮が衛兵から奪い取った鉄の槍を構え、走り出した。
 瓦礫を足場にしてジャンプする。
 普段は文系もやしっ子だが、今の彼の視界には「勝利への確定ルート」という名の光るラインが見えているはずだ。

「うおおおおッ! これで……今夜は焼き鳥だァァァッ!」

「動機が不純! でも同意!」

 鷹宮の槍が、正確無比に急所を貫いた。
 ズドン!
 肉を裂き、骨を断つ感触。

「コ、コゲェェ……ッ!」

 コッカトリスが断末魔を上げる。
 巨体が揺れ、膝をつき、そしてゆっくりと――倒れた。
 ズズズズズ……ドォォォォン!
 地響きと共に、もうもうと土煙が舞う。

 静寂。

 俺は泥まみれで起き上がった。

「……やったか?」

「フラグを立てるな」

 霧島さんが近づき、動かなくなった巨体の目を指で開いて確認した。

「……瞳孔散大。生体反応消失。完全沈黙。私たちの勝利です」

 村人たちからの歓声が、爆発するように上がった。

「す、すげえ! あのコッカトリスを倒したぞ!」
「あいつら、何者だ!?」
「英雄だ! 救世主だ!」

 村長が震える声で近づいてくる。

「お、お前たち……まさか、これほどの腕前とは……。見くびっておった。迷子など嘘じゃったな。高名な魔獣ハンターか何かか?」

 俺は泥だらけの顔で、ニカっと笑った。

「いいってことですよ、村長さん! 困った時はお互い様だよねー! 僕たち、通りすがりの高校生なんで!」

「コウコウセイ……なんと偉大な響きじゃ……。何でも礼をしよう。金か? それとも名誉か? 村一番の美女を紹介しようか?」

 俺と鷹宮と真壁は、顔を見合わせた。
 そして、全員の腹が、示し合わせたように同時に鳴った。

 ぐゥゥゥゥ――キュルルル――。

「「「肉をください」」」

 ハモった。
 完璧な三部合唱(ユニゾン)だった。

 ◇

 数時間後。
 俺たちは広場で、山盛りの唐揚げ(っぽいもの)を囲んでいた。
 村人たちが総出で解体し、大鍋で揚げてくれたのだ。
 部位はモモ肉、ムネ肉、手羽先、なんでもござれ。

「……うめぇ」

 俺は泣きながら肉を頬張った。
 熱々の肉汁が口の中に溢れる。

「なんだこれ。弾力が違う。噛めば噛むほど野性の味がする。これぞ命の味だよねー。生きててよかったー!」

「味付けが塩だけなのに、なんでこんなに美味いんだ……」

 鷹宮も涙目だ。

「労働の後の飯が美味いって、こういうことか……」

「俺たち、労働っていうか、命のやり取りしたけどな。対価としては妥当すぎる」

 真壁は片手で骨付き肉を持ち、もう片手で自撮りをしていた。

「『巨大チキン実食! 味は意外とあっさり!? コラーゲンたっぷり!』……よし、サムネ確保。電波繋がったら絶対バズる」

「お前、いつかモンスターに食われても『消化液なう』とか配信しそうだな」

 霧島さんも、無言でもぐもぐと食べている。
 リスみたいに頬を膨らませて、幸せそうだ。眼鏡が曇っている。

「……タンパク質、脂質、炭水化物。栄養バランスは偏っていますが、ドーパミンの分泌量が異常値を記録しています。幸福度は計測不能レベルです」

「霧島さん、それ『美味しい』ってことですよね。素直に言いましょうよ」

 村長が、俺たちの食べっぷりを呆れた顔で見ている。

「まったく、変な連中じゃ……。底なしの胃袋を持っておる。だが、村を救ってくれたのは事実。しばらくここに置いてやろう」

「マジですか! やったー! 住居確保! 衣食住コンプリート!」

「ただし!」

 村長が釘を刺す。

「ニートではないぞ。コッカトリスの解体はまだ終わっておらん。羽むしりと、余った肉の塩漬け作業を手伝え」

「え、羽むしり? あのでかいやつの?」

 俺は、広場の端に積まれた、山のような羽毛を見た。
 数万枚。いや、数十万枚あるかもしれない。

「……理論上、手作業だと一週間はかかるよねー?」

「計算する前に手を動かせ、バカ」

 鷹宮に頭を叩かれながら、俺は笑った。
 まあ、いいか。
 とりあえず腹は膨れた。寝床も確保した。
 そして何より、この肉は最高に美味い。

 俺たちの異世界サバイバル。
 壁はまだまだ高い。
 言葉の壁。文化の壁。そしてこれから待ち受けるであろう、さらなる理不尽なトラブルの壁。

 でも、まあ。

「おかわり!」

 俺が皿を差し出すと、鷹宮も真壁も、そして霧島さんまでもが皿を差し出した。

 理論上、食欲があるうちは、俺たちは無敵だ。
 たぶん。きっと。

 ……さて、明日は何が食えるかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

水神飛鳥の異世界茶会記 ~戦闘力ゼロの茶道家が、神業の【陶芸】と至高の【和菓子】で、野蛮な異世界を「癒やし」で侵略するようです~

月神世一
ファンタジー
「剣を下ろし、靴を脱いでください。……茶が入りましたよ」 ​ 猫を助けて死んだ茶道家・水神飛鳥(23歳)。 彼が転生したのは、魔法と闘気が支配する弱肉強食のファンタジー世界だった。 ​チート能力? 攻撃魔法? いいえ、彼が手にしたのは「茶道具一式」と「陶芸セット」が出せるスキルだけ。 ​「私がすべき事は、戦うことではありません。一服の茶を出し、心を整えることです」 ​ゴブリン相手に正座で茶を勧め、 戦場のど真ん中に「結界(茶室)」を展開して空気を変え、 牢屋にぶち込まれれば、そこを「隠れ家カフェ」にリフォームして看守を餌付けする。 ​そんな彼の振る舞う、異世界には存在しない「極上の甘味(カステラ・羊羹)」と、魔法よりも美しい「茶器」に、武闘派の獣人女王も、強欲な大商人も、次第に心を(胃袋を)掴まれていき……? ​「野暮な振る舞いは許しません」 ​これは、ブレない茶道家が、殺伐とした異世界を「おもてなし」で平和に変えていく、一期一会の物語。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...