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結社崩壊編Ⅰ
リゲル①
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僕の名はリゲル。
星々の庭園内で最も頭脳明晰な隊員だ。
お義母様の下から離れはや5年。
僕は今、最も信頼を寄せる仲間達と共にエゲレスで悪魔を追っている。
帝国列強の中で最強と謳われる国だけあって街は反映し見事なものだ。
だが、その反面、闇の部分も相当根深いものとなっている。
工場から伸びる煙突からは瘴気が吹き出し空気は酷く濁っており、労働者はまるで奴隷のように低賃金・長時間労働を強制されている。
「けほっ……」
「リゲル、大丈夫でござるか? お主はやはり寺で待機していたほうが……」
僕はどうやらこの瘴気の中では長く活動ができないようだ。
呼吸をするだけでゼーゼーと雑音が出て息苦しい。
カペラの話では瘴気の正体は石炭を燃やした後の煙やすすがモンドンの霧に混じって地表に滞留するスモッグというものらしい。
ふっ、あの無能なカペラが僕も知り得ないことを話した時は驚いたものだ。
でもね、頭脳派の僕には後方支援がお似合いだって思われることは僕にとっては耐え難い屈辱なんだ。
だから、僕は今回の潜入任務に着いてきた。
「リゲル見て。あの方がこの国の王チューニ5世よ」
明治44年6月22日、僕達はウェストミンスター寺院で行われている戴冠式に潜入中だ。
その目的は当然、この国で悪魔と最も深い繋がりがあるドケチ・シサンカーに近付くため……。
「どこもかしこもお金持ちばかり。誰がドケチなんだろ?」
「拙者も分からぬ」
ふふっ、やはりプロキオンとベガには見分けられないようだ。
僕も誰がドケチかは知らないけれど見当は付いている。
ここは格好良く僕の頭脳明晰さを見せつけるとしよう。
「ふふっ、ドケチは異常なほどの目立ちたがり屋だと調べが付いている。恐らくは……」
僕は戴冠式で国王より目立っている格好の男を指差した。
みんながその者を見て呟く。
「1人だけ異様に目立つ男が居るわね?」
「この厳かな雰囲気に似合わぬ金ピカだらけの男がドケチでござるか?」
「凄く悪そうな顔をしてますです。あいつがわたくし達を日本から連れ去り牧場に追いやった張本人……」
「恐らくそうね。リゲル、他に確証が持てる特徴はある?」
えっ、他に確証って……僕には単なる金持ちにしか見えないが。
駄目だ、シリウスは僕の意見を必要としている。
期待を裏切る訳にはいかない。
僕は目を凝らして金ピカの男を見る。
その時だった。
プーン
耳元で虫の羽音が気になって集中できない。
「くっ、虫が……」
「虫?」
「!!! 流石ね、リゲル」
えっ、何が流石なんだろう?
「わたくしも理解できましたです」
アンセルまで!?
「奴が身に着けているブローチの形、アレは蝿を表しているのよ。きっと悪魔ベルゼブブに違いないわ」
「ベルゼブブ? 何でござるか、それは?」
「蝿の王……私が調査任務に出ていた時に出会った本に記してあったのよ。報告書にも書いたはず。貴女達、しっかりと目を通していないでしょ? リゲルはちゃんと覚えていた。そのおかげでドケチの背後に居る悪魔も何となく分かったかもしれないのよ」
ええっ……ちょっと待って!
僕はドケチの身に着けているアクセサリーなんて見てもいなかったし、たまたま耳元で五月蝿い虫の羽音が気になっただけで……。
「流石でござるな」
「こんなにも早く悪魔との繋がりが判明するなんて凄い観察眼ですます、リゲルさん!」
そ、そんなに褒めないでくれ!
それは僕の承認欲求に効く!
「わちも見直したぁ。リゲル凄い!」
「リゲル、ありがとう。瘴気に侵され身体が辛いというのに……」
僕はみんなの期待を裏切る訳にはいかない。
くっ、こうなったら儘よ!
「ふふっ、僕でなければ見逃してたね」
「ええ、本当に……」
「悪魔ベルゼブブ……ドケチの近辺を洗えば見つけられるでござるか?」
「ここにはドケチの顔を確認するために来たのよ。一度、牧場に戻り作戦を立てましょう」
僕達はウェストミンスター寺院を後にし牧場へ戻った。
ここはモンドンと違い空気が澄んでいる。
「おかえりなさいまし」
「カペラぁ、今戻ったよ。おーよちよち」
ベガが出迎えてくれたカペラに頬ずりしたり頭を撫でたり首元を擦ったりする。
ベガにとってカペラの扱いって……もしかして、ペットか何かだと思っていないか心配だ。
微動だにしないカペラはベガの異様な愛情表現に慣れているのか……いや、怪力の持ち主のベガだ。
下手に動き骨を折られるわけにはいかない?
つまり、怖くて動けない……ふふっ、最弱のカペラらしいじゃないか。
僕は自慢の医務室へ向かい、そこのベッドで横になる。
この医務室には僕のすべての頭脳が集積されていた。
え、なぜ過去形なのかって?
いつの間にか助手であるカペラの研究器具がこの医務室の半分以上を占めているためだ。
ふふっ、僕だって仲間と無駄な争いはしたくない。
それが星々の庭園で最弱のカペラであろうともだ。
カペラは僕の助手となって、みんなの健康を損なわないよう見守ることに注力している。
それには僕も同意しているし、何よりこの研究器具はお義母様から譲り受けたものだという。
お義母様のものはみんなのもの、カペラのものは僕のもの。
つまり、この研究器具も僕のものであることに変わりはない。
そして、カペラが今作っているのは僕の血液を利用した何か……ふふっ、何が出来上がるのか実に楽しみだ。
僕の血液から作った以上は僕のものになるのは確実だろうしね。
暫く休んだ後、今後の計画について食堂に集まった。
星々の庭園内で最も頭脳明晰な隊員だ。
お義母様の下から離れはや5年。
僕は今、最も信頼を寄せる仲間達と共にエゲレスで悪魔を追っている。
帝国列強の中で最強と謳われる国だけあって街は反映し見事なものだ。
だが、その反面、闇の部分も相当根深いものとなっている。
工場から伸びる煙突からは瘴気が吹き出し空気は酷く濁っており、労働者はまるで奴隷のように低賃金・長時間労働を強制されている。
「けほっ……」
「リゲル、大丈夫でござるか? お主はやはり寺で待機していたほうが……」
僕はどうやらこの瘴気の中では長く活動ができないようだ。
呼吸をするだけでゼーゼーと雑音が出て息苦しい。
カペラの話では瘴気の正体は石炭を燃やした後の煙やすすがモンドンの霧に混じって地表に滞留するスモッグというものらしい。
ふっ、あの無能なカペラが僕も知り得ないことを話した時は驚いたものだ。
でもね、頭脳派の僕には後方支援がお似合いだって思われることは僕にとっては耐え難い屈辱なんだ。
だから、僕は今回の潜入任務に着いてきた。
「リゲル見て。あの方がこの国の王チューニ5世よ」
明治44年6月22日、僕達はウェストミンスター寺院で行われている戴冠式に潜入中だ。
その目的は当然、この国で悪魔と最も深い繋がりがあるドケチ・シサンカーに近付くため……。
「どこもかしこもお金持ちばかり。誰がドケチなんだろ?」
「拙者も分からぬ」
ふふっ、やはりプロキオンとベガには見分けられないようだ。
僕も誰がドケチかは知らないけれど見当は付いている。
ここは格好良く僕の頭脳明晰さを見せつけるとしよう。
「ふふっ、ドケチは異常なほどの目立ちたがり屋だと調べが付いている。恐らくは……」
僕は戴冠式で国王より目立っている格好の男を指差した。
みんながその者を見て呟く。
「1人だけ異様に目立つ男が居るわね?」
「この厳かな雰囲気に似合わぬ金ピカだらけの男がドケチでござるか?」
「凄く悪そうな顔をしてますです。あいつがわたくし達を日本から連れ去り牧場に追いやった張本人……」
「恐らくそうね。リゲル、他に確証が持てる特徴はある?」
えっ、他に確証って……僕には単なる金持ちにしか見えないが。
駄目だ、シリウスは僕の意見を必要としている。
期待を裏切る訳にはいかない。
僕は目を凝らして金ピカの男を見る。
その時だった。
プーン
耳元で虫の羽音が気になって集中できない。
「くっ、虫が……」
「虫?」
「!!! 流石ね、リゲル」
えっ、何が流石なんだろう?
「わたくしも理解できましたです」
アンセルまで!?
「奴が身に着けているブローチの形、アレは蝿を表しているのよ。きっと悪魔ベルゼブブに違いないわ」
「ベルゼブブ? 何でござるか、それは?」
「蝿の王……私が調査任務に出ていた時に出会った本に記してあったのよ。報告書にも書いたはず。貴女達、しっかりと目を通していないでしょ? リゲルはちゃんと覚えていた。そのおかげでドケチの背後に居る悪魔も何となく分かったかもしれないのよ」
ええっ……ちょっと待って!
僕はドケチの身に着けているアクセサリーなんて見てもいなかったし、たまたま耳元で五月蝿い虫の羽音が気になっただけで……。
「流石でござるな」
「こんなにも早く悪魔との繋がりが判明するなんて凄い観察眼ですます、リゲルさん!」
そ、そんなに褒めないでくれ!
それは僕の承認欲求に効く!
「わちも見直したぁ。リゲル凄い!」
「リゲル、ありがとう。瘴気に侵され身体が辛いというのに……」
僕はみんなの期待を裏切る訳にはいかない。
くっ、こうなったら儘よ!
「ふふっ、僕でなければ見逃してたね」
「ええ、本当に……」
「悪魔ベルゼブブ……ドケチの近辺を洗えば見つけられるでござるか?」
「ここにはドケチの顔を確認するために来たのよ。一度、牧場に戻り作戦を立てましょう」
僕達はウェストミンスター寺院を後にし牧場へ戻った。
ここはモンドンと違い空気が澄んでいる。
「おかえりなさいまし」
「カペラぁ、今戻ったよ。おーよちよち」
ベガが出迎えてくれたカペラに頬ずりしたり頭を撫でたり首元を擦ったりする。
ベガにとってカペラの扱いって……もしかして、ペットか何かだと思っていないか心配だ。
微動だにしないカペラはベガの異様な愛情表現に慣れているのか……いや、怪力の持ち主のベガだ。
下手に動き骨を折られるわけにはいかない?
つまり、怖くて動けない……ふふっ、最弱のカペラらしいじゃないか。
僕は自慢の医務室へ向かい、そこのベッドで横になる。
この医務室には僕のすべての頭脳が集積されていた。
え、なぜ過去形なのかって?
いつの間にか助手であるカペラの研究器具がこの医務室の半分以上を占めているためだ。
ふふっ、僕だって仲間と無駄な争いはしたくない。
それが星々の庭園で最弱のカペラであろうともだ。
カペラは僕の助手となって、みんなの健康を損なわないよう見守ることに注力している。
それには僕も同意しているし、何よりこの研究器具はお義母様から譲り受けたものだという。
お義母様のものはみんなのもの、カペラのものは僕のもの。
つまり、この研究器具も僕のものであることに変わりはない。
そして、カペラが今作っているのは僕の血液を利用した何か……ふふっ、何が出来上がるのか実に楽しみだ。
僕の血液から作った以上は僕のものになるのは確実だろうしね。
暫く休んだ後、今後の計画について食堂に集まった。
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