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005 確かな成長
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――転生してから、2か月が経過した。
物語の開始まで、早くも残り1年を切ったところだ。
この2か月間、俺は日々修行に明け暮れてきた。
深夜トレを欠かさず行うことで各ステータスは着実に伸びている。
さらにエルナの指導のおかげで、剣の技術も格段に上達した。
その証拠に、今日で3回目となるエルナの指導を受けているのだが――
「――はあッ!」
「ほう」
木剣を握りしめ、全身の力を込めて俺は斬りかかる。
一方のエルナは軽やかな身のこなしで、次々とその攻撃を凌いでいた。
実力差は歴然。
だが、そんなことは百も承知だ。
俺の目的は一つでも多くの技術を盗むこと。
全力で斬りかかるのみだ。
「どうした、動きが単調になってきているぞ!?」
「――――ッ!」
斬り下ろし、突き、薙ぎ払いなど、幾つもの種類を交えながら攻撃していたつもりが、歴戦の剣士であるエルナからすればパターンを読み切るのは簡単だったようだ。
その証拠に、俺が続けて突きを放つことを読み切っているのか、彼女は木剣を前にかざしており――
「ここだ!」
――この瞬間を狙っていた俺は、いつもより低く踏み込むと、そのまま木剣を勢いよく振り上げた。
さっきまで同じ攻撃のパターンを繰り返していたのは、このための布石。
読みに優れたエルナに対し、警戒外の一撃を喰らわせるためだ。
「――――!?」
その狙いは半分だけ成功する。
エルナは後ろに飛び退くことによって直撃こそ避けたものの、体勢がわずかに崩れた。
(このタイミングなら――!)
俺は一瞬でエルナとの距離を詰めると、全力で木剣を振り落とす。
しかし――
「ふむ、今のは惜しかったな」
「なっ!」
一瞬だった。
一瞬、木剣を握るエルナの右手がブレたかと思えば――次の瞬間にはもう、俺の木剣は空高く宙を舞っていた。
カランカランと、音を鳴らしながら木剣が宙に落ちる。
(こんなに違うのか……!)
目で捉えることすらできなかった。
これが、現時点における俺とSランク冒険者の差……!
「くそっ!」
悔しさに歯噛みしつつも、俺は木剣を拾い上げるとめげずに斬りかかり続けるのだった。
◇◆◇
レストが悔しさに歯を噛み締めている一方で、エルナ・ブライゼルの内心は少なからぬ衝撃に揺れていた。
それもそのはず、レストの成長ぶりが尋常ではないからだ。
彼女が剣を教え始めてからまだ2か月。
にもかかわらず、レストの実力は目を見張るものがあった。
剣の技術、身体能力ともに伸びは著しい。
その勢いたるや、なんと兄二人をも追い抜かんばかりだ。
(これがどれだけ異常なことか……スキルの性質を知っている者なら、全員が驚愕するだろうな)
それは何も兄二人が、レストより半年早くスキルを得て修行を始めているにもかかわらず、今にも追いつこうとしているから――というだけではない。
剣士系スキルは、剣の技量が上がる他、剣の使用時に身体能力への補正も入る。
そもそも非戦闘用のスキルしか持っていない存在が追い付ける道理はないのだ。
にもかかわらず、現時点で兄二人と互角に近い実力を有するレストは紛れもない天才か――もしくは、血のにじむような努力の賜物としか思えなかった。
エルナの背筋に、興奮の汗が流れる。
(もしかしたら私は、とんでもない逸材を育てているのかもしれない……)
だが、だからこそ残念な事実もあった。
レストは確かに天才だ。それは間違いない。
しかし、そんな彼が限界まで鍛えてやっとなお、このレベルなのだ。
同年代に比べて飛びぬけていることは間違いないが、強力な戦闘スキルを持った上で努力を積み重ねてきた者には敵わない。
かつてのエルナはもちろん、彼女が現在、他で指導している相手――ほんの一か月前にスキルを獲得したばかりの第二王女とも、互角がいいところだろう。
そんな悲しい現実が、この世界には確かに存在していた。
――それから、さらに修行を続けること10分。
「よし、今日はここまでだな」
木剣を下ろしエルナが修行の終了を告げる。
「はい! ありがとうございました!」
レストは頭を下げ礼を述べた。
その姿からは、充実感がいきいきと伝わってくる。
「だいぶ上達してきたな。この調子でどんどん励むことだ」
「はい!」
大きく頷いた後、レストはもう一度だけ深く礼をし、大修練場を後にした。
その背中を見つめながら、エルナは残念そうに小さく呟く。
「もし彼が戦闘用のスキルを持っていれば、歴史に名を残すほどの傑物になったかもしれないのに……」
◇◆◇
――それからさらに2週間が経過した、夕食の場。
いつもと変わらない食卓だと思っていた矢先、父のガドが突如としてこう告げた。
「第二王女が、客人としてこちらにいらっしゃることになった」
…………へ?
物語の開始まで、早くも残り1年を切ったところだ。
この2か月間、俺は日々修行に明け暮れてきた。
深夜トレを欠かさず行うことで各ステータスは着実に伸びている。
さらにエルナの指導のおかげで、剣の技術も格段に上達した。
その証拠に、今日で3回目となるエルナの指導を受けているのだが――
「――はあッ!」
「ほう」
木剣を握りしめ、全身の力を込めて俺は斬りかかる。
一方のエルナは軽やかな身のこなしで、次々とその攻撃を凌いでいた。
実力差は歴然。
だが、そんなことは百も承知だ。
俺の目的は一つでも多くの技術を盗むこと。
全力で斬りかかるのみだ。
「どうした、動きが単調になってきているぞ!?」
「――――ッ!」
斬り下ろし、突き、薙ぎ払いなど、幾つもの種類を交えながら攻撃していたつもりが、歴戦の剣士であるエルナからすればパターンを読み切るのは簡単だったようだ。
その証拠に、俺が続けて突きを放つことを読み切っているのか、彼女は木剣を前にかざしており――
「ここだ!」
――この瞬間を狙っていた俺は、いつもより低く踏み込むと、そのまま木剣を勢いよく振り上げた。
さっきまで同じ攻撃のパターンを繰り返していたのは、このための布石。
読みに優れたエルナに対し、警戒外の一撃を喰らわせるためだ。
「――――!?」
その狙いは半分だけ成功する。
エルナは後ろに飛び退くことによって直撃こそ避けたものの、体勢がわずかに崩れた。
(このタイミングなら――!)
俺は一瞬でエルナとの距離を詰めると、全力で木剣を振り落とす。
しかし――
「ふむ、今のは惜しかったな」
「なっ!」
一瞬だった。
一瞬、木剣を握るエルナの右手がブレたかと思えば――次の瞬間にはもう、俺の木剣は空高く宙を舞っていた。
カランカランと、音を鳴らしながら木剣が宙に落ちる。
(こんなに違うのか……!)
目で捉えることすらできなかった。
これが、現時点における俺とSランク冒険者の差……!
「くそっ!」
悔しさに歯噛みしつつも、俺は木剣を拾い上げるとめげずに斬りかかり続けるのだった。
◇◆◇
レストが悔しさに歯を噛み締めている一方で、エルナ・ブライゼルの内心は少なからぬ衝撃に揺れていた。
それもそのはず、レストの成長ぶりが尋常ではないからだ。
彼女が剣を教え始めてからまだ2か月。
にもかかわらず、レストの実力は目を見張るものがあった。
剣の技術、身体能力ともに伸びは著しい。
その勢いたるや、なんと兄二人をも追い抜かんばかりだ。
(これがどれだけ異常なことか……スキルの性質を知っている者なら、全員が驚愕するだろうな)
それは何も兄二人が、レストより半年早くスキルを得て修行を始めているにもかかわらず、今にも追いつこうとしているから――というだけではない。
剣士系スキルは、剣の技量が上がる他、剣の使用時に身体能力への補正も入る。
そもそも非戦闘用のスキルしか持っていない存在が追い付ける道理はないのだ。
にもかかわらず、現時点で兄二人と互角に近い実力を有するレストは紛れもない天才か――もしくは、血のにじむような努力の賜物としか思えなかった。
エルナの背筋に、興奮の汗が流れる。
(もしかしたら私は、とんでもない逸材を育てているのかもしれない……)
だが、だからこそ残念な事実もあった。
レストは確かに天才だ。それは間違いない。
しかし、そんな彼が限界まで鍛えてやっとなお、このレベルなのだ。
同年代に比べて飛びぬけていることは間違いないが、強力な戦闘スキルを持った上で努力を積み重ねてきた者には敵わない。
かつてのエルナはもちろん、彼女が現在、他で指導している相手――ほんの一か月前にスキルを獲得したばかりの第二王女とも、互角がいいところだろう。
そんな悲しい現実が、この世界には確かに存在していた。
――それから、さらに修行を続けること10分。
「よし、今日はここまでだな」
木剣を下ろしエルナが修行の終了を告げる。
「はい! ありがとうございました!」
レストは頭を下げ礼を述べた。
その姿からは、充実感がいきいきと伝わってくる。
「だいぶ上達してきたな。この調子でどんどん励むことだ」
「はい!」
大きく頷いた後、レストはもう一度だけ深く礼をし、大修練場を後にした。
その背中を見つめながら、エルナは残念そうに小さく呟く。
「もし彼が戦闘用のスキルを持っていれば、歴史に名を残すほどの傑物になったかもしれないのに……」
◇◆◇
――それからさらに2週間が経過した、夕食の場。
いつもと変わらない食卓だと思っていた矢先、父のガドが突如としてこう告げた。
「第二王女が、客人としてこちらにいらっしゃることになった」
…………へ?
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