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苦しみと愛に満ちた我が生涯。 前編

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「……今日も、詩をまともに聞いてくれる人はいなかったな」
 野次やじとからかいを受けながら、自作の恋愛ストーリーを語る日々。
「面白かったよ、ああ笑った笑った」と馬鹿にされながら渡された黒パンをかじるしかない貧乏さを呪った。

 そんな俺の目の前に、筆舌に尽くしがたい美貌を持つ女性が突如現れた。
「私の恋人になれば芸術の大家にしてあげる」
 彼女の所作はなまめかしく、非常に悩ましいものであった。
 その容姿に惚れ、そして生活苦に悩まされていた俺は即座に「ぜひとも」と答えた。

 そして俺は大成した。
 自己破滅的な詩人として。

 彼女と交際して以来、俺の頭から幸せな詩は消え、惨憺さんたんたる日々と転落劇が駆け巡っていた。
 これでは詩が書けない、でも書かねば飢える。

 そして無理矢理作った絶望を謳った詩が繁盛した。
 どこの街に行っても「muise詩神」と声がかけられる。
 そして酒場に案内され、管理が大変なほどの投げ銭と、やかましいまでの賞賛を受け取った。

 最早、嬉しくもなかった。
 書きたい物はこれじゃない。
 日夜問わず絶望の妄想が俺の精神を蝕んだ。
 眠れず、やっと眠ったとしても見る夢は悪夢であった。

 それでも時たま現れるリャナンシーとは欠かさずデートをした。
 前日、一睡もできていなかったとしても。
 そのような日々を繰り返し、ついにその苦しみは肉体にも及んだ。


 今際の際で、気まぐれであったのか、リャナンシーはベッドに横たわる俺に口付けした。
 あの絶望の詩の収益は凄まじく、今では使用人を一人雇うようになったが、彼には彼女が見えていないらしい。

「次はあの男かしら」
 そう言って彼女はその使用人を見た。

 俺は怒りに燃えた。
 ここまで生きたのは、苦しみに耐えたのは、ひとえに彼女への恋心だった。
 いつか彼女へ愛を唄いたかったからだ。
 いつか彼女に愛を囁きたかったからだ。

 それが、なんだって?

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