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最終章
4-4 二人の英断
しおりを挟む城に帰り着いてもなかなか目を開かないオスカー。
リリアナはその全てを背負って、一睡もせずに看病した。ユリウスが何度言っても頑として聞かなかった。
何日か経ってやっと目覚めたオスカーは、ベッドの上で腕を動かすのがやっとだった。
診断は全身打撲と肋骨骨折。
オスカーの目に一番最初に映ったリリアナを見て、痛みを忘れたように微笑んだ。
リリアナは涙を流しながら、まるでオスカーしか見えていないような状態だったので、ユリウスは仕方なく部屋を出なければならない有様だった。
再びユリウスが呼ばれたとき、オスカーは自身の身体の状態よりも、リリアナの力が世に知れたことに危機感を抱いていた。
「やはり……連合主要国のカンタレアに、仲裁を願い出るしかないな」
オスカーの提案に、ユリウスは眉を寄せた。
「援軍も断られていますし、早馬を出したところでいい回答が得られるとは限りません……」
「それでも、このままではリリアナが狙われる。向こうもダメージを負っている今、動くしかない」
「……私が嘆願書を持ち、カンタレア国王に謁見します」
勇敢な申し出に、二人は心配そうにリリアナを見た。
「援軍が送られてこなかったのも、私の……父のせいなのですよね?」
リリアナの家族は、「エルジオに招かれた際、オスカーに侮辱された」と逆恨みしていた。
それで、今回もカンタレアの重臣たちに、あることないこと吹き込み現場を混乱させていた。
この度の誘拐も、異変に気づいていたオスカーが、父に白状させて居場所を割ったという。
自分の父のせいで被害が拡大していると思うと、リリアナは居てもたってもいられず、オスカーの手を取り、縋った。
「カンタレアは私の母国です。どうか行かせてください……」
オスカーはしばらく目を閉じていた。
リリアナが何度も頼むので、やがてしぶしぶ頷いた。
「わかった。仲裁と、共鳴のアリアを利用させないよう定めた協定案を作る。
ユリウス、お前もリリアナを頼む」
「もちろん。オスカー様に代わり、お守りします」
◇
そうと決まり次第すぐに出発した二人は、2日後にはカンタレア国王に謁見していた。
「お久しゅうございます。国王陛下」
リリアナは挨拶も早々に、仲裁の嘆願書と協定案を王座へ座る国王へ手渡した。
国王の思慮深い目は、文の内容を追っている。
オスカーから託された協定案には
「歌姫の力を兵器として使わない」
「いかなる国も歌姫を独占しない」ということが書かれていた。
リリアナは頭を下げ、強く両手を握って国王の言葉を待っていた。
沈黙の中、国王が紙をめくる乾いた音だけが響く。
めくる音も聞こえなくなったとき、リリアナは顔を上げたくなる気持ちを抑え、床をじっと見つめ続けた。
やがて、国王が口を開いた。
「仲裁を引き受けよう。また、この協定案も、主要国の名において、国際社会で必ず実現する」
「陛下……」
顔を上げたリリアナは、国王の英断に感謝の言葉を述べようとしたが、喉ががつまり言葉にできないでいた。
国王は協定書を再び開き、噛みしめるように文字を指でなぞる。
「エルジオの国王は自国の罪を隠さない。
アリアの力を“所有物”ではなく、人として扱っている。
そして、そなたもまた――王妃でありながら、国の平和を願い自ら動いた」
これ以上ない褒め言葉に感じ、これでオスカーを安心させられるとリリアナは安堵した。
しかし国王は、協定書を閉じて隣に置くと深いため息をついた。
「それに比べ余は……ヴェルデ公爵の言うことを鵜呑みにし、エルジオへ援軍を出さなかった……どうか許してほしい」
「陛下、どうか頭をお上げください。父の罪は、娘であるわたくしの罪でもございます」
「いいや、決してそんなことはない――」
そこへ、近衛兵がリリアナの父、メアリー、継母を連れて入ってきた。
皆後ろ手に縄がかけられてている。
国王の前に引き出された三人。
大理石の床に跪き、父は青ざめた顔で王座に叫んだ。
「陛下! これは何かの間違いです。わたくしの忠誠を、よもやお疑いではありますまい」
「見苦しいぞヴェルデ公爵。証拠はすべてそろっておる。公爵の名を語ることは今後許さぬ」
「そ……そんな……」
「この三名の処罰は――」
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