完結‼️翡翠の歌姫は 後宮で声を隠す〜特殊な眼を持つ歌姫が、2人の皇子と出会い、陰謀に巻き込まれながら王家の隠した真実に迫る

雪城 冴

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二章 歌姫の競演

2-9 雪の記憶

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――十年前

「蒼瑛、明日から地方視察だが……公務以外になにかやりたいことはあるのか?」

 皇帝の問いかけに、蒼瑛は身を乗り出して答えた。

「僕は友達を作ってみたいです!」

「友達……か。」
 皇帝は香炉の薄く立ち昇る煙を見ると、目を細めた。その顔は少し悲しそうに見える。


「陳偉、明日から蒼瑛を頼む。普段窮屈な思いをしてる分、多少は好きにさせてやってくれ」

「御意にございます」

「蒼瑛、身に気をつけるのだぞ」

「はい、父上!」

 広く世を見てほしい。そんな皇帝の願いから、蒼瑛は北雪郷に旅立った。



 この時期は落ち着いているが、吹雪の日も多い雪深い地であった。
 蒼瑛は真っ白な銀世界に驚いた。どこまで行っても雪ばかりで、踏みしめた時のきゅ、という感覚が新鮮だ。


 『友達を作りたい』そう思っていた蒼瑛は、公式な挨拶は手短に、村の広場に走った。もう夕暮れが近づいていたが、まだ何人か、村の男の子たちが遊んでいる。


 普段、蒼瑛の周りの子どもと言えば皇子たちくらいだった。

(遊んでもらえるかな……)  
 蒼瑛は自分が受け入れてもらえるかどうか緊張していた。


「あの……一緒に遊んでもいい?」

「……誰? どこからきたの?」
 男の子達は、この辺では見かけない顔の蒼瑛を不思議そうに見る。

「蒼瑛って言うんだ! 帝都から来た!」

「いいよ、鬼ごっこしようぜ!」

 仲間に入れてもらえたことが嬉しく、短い間だったが、思い切り遊んだ。

「もう走れないー!」
 蒼瑛はボスンと雪に寝転ぶ。冷たくて気持ちがいい。

「ははっ! 蒼瑛、足速いじゃん!」
 こんなに駆け回ったのは初めてだった。


「また明日遊ぼうな!」
 あっという間に日が沈み、蒼瑛は名残惜しくいつまでも手を振った。

 人生で初めて出来た『友達』。その言葉は、蒼瑛の心を経験したことのない気持ちにさせた。明日また会えると思うと、興奮から眠れぬ程だった。




 次の日蒼瑛は、肩を落として一人雪道を歩いていた。村の子どもたちは蒼瑛が皇子だと知り、"怪我でもさせたら大変"と遠巻きに見るだけだった。


「宮廷では兄上や周りの大人は、僕のこと"妾の子"って馬鹿にするくせに……ここでは"殿下"か」


 悲しかった。身分でばかり判断される。誰も自分を見てくれない。
 来た時には眩しく輝いて見えた雪。今では、自分を冷たく閉じこめる檻に感じる。


「雪しかない……こんなところ嫌いだ……」


 その時、雪林の奥の方から歌が聞こえてきた。

「きれいな声……」

 引き寄せられるように歩いていくと、小さな女の子がいた。白い息を吐いて、寒さに頬を赤くしながら歌っている。

(子守唄……?)

 もっと聴きたいと思ったと同時に、女の子は蒼瑛に気がついた。歌うのを止めて興味深そうに近づいてくる。

「なにしてるの?」

「遊ぼうと思って……」

「ふーん? わたし、ここ来たばっかりで友達いないんだ。雪だるまつくる?」

 年下の女の子なんて……と思っていたが、一緒に遊ぶと意外と楽しかった。


「雪だるまって、丸くするの難しいなー……」
 蒼瑛は顔をしかめながら雪玉を転がす。

「ふふっ……こっちのが大きいから、わたしの勝ち!」

 くったくなく笑う顔が可愛くて嬉しくて、妹ができた気分だった。ずっと雪を触っていたせいで手がしもやけになっていたが、蒼瑛は気にならなかった。


 女の子は手を止め、思い出したように言う。

「ねぇ、名まえ なんていうの?」


 蒼瑛は名乗ることをためらったが、嘘をつくことも出来ない。

「ん……ソウエイ」

「ソウエイ……」

 蒼瑛は木をとると、雪に漢字を書く。

あおいにえいだよ。瑛は美しいたまって意味」

 説明してあげると、女の子はじっと蒼瑛の目を見つめる。
「な……なに?」

「蒼い、きれいな目の色だもんね。ソウエイ……蒼瑛! おぼえたよ!」

 名前を褒められるとちょっと照れくさいけど、悪い気はしなかった。
 だが、この子もきっと明日になれば蒼瑛から離れていく。そう思うと深入りしたくなかった。

 なのに女の子はどんどん距離を詰めてくる。

「私はスイレンって言うの」
 蒼瑛がしたように、雪の落書きの隣に漢字を書いてくれる。

翡翠ひすいの"すい"にはすだよ!」

「確かに、翡翠色の目だもんね」
 綺麗な色の、と言いたかったが恥ずかしくて言葉を飲み込む。ごまかすようにもう一度雪の文字に目を落とす。

「うん、覚えた。翠蓮」
 名前を呼ぶと、翠蓮は眩しいくらいの笑顔を見せてくれた。


(どきどきする……)
 この気持ちをなんて呼ぶのか分からなくて、それでもずっとその笑顔をみていたいと思った。


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