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三章 後宮編
3-4 観光名所
しおりを挟む翠蓮は宮廷から少し離れた観光名所に来ていた。
「太凱、ちょっと……まっ……」
人波にのまれ、はぐれるのは一瞬だった。太凱は気づいていないのか、先へ歩いて行ってしまった。
追いかけるのは難しそうだ。仕方なく翠蓮は端に避難し、周りを見渡す。
「ここどこだろう……」
今日は太凱と、明鈴の誕生日プレゼントを探しに来ていた。こんな混み入った所で、太凱にもう一度会えるだろうか。
「任せきりだったからなぁ……」
肩を落とし、前の店に目をやると楽器店だった。音楽に関わる者の性なのか、翠蓮は吸い寄せられるように中に入った。表の賑やかさが嘘のように静かだ。
「わ……これ素敵……」
楽器を小さく模倣したものに、紐が通してある。二胡のキーホルダーが目に入ると、ふと蒼瑛のことを思い出す。
土産はいらないと寂しそうに言った顔。外出してみたいと言った時のすねるような声。そして――
近距離に迫った蒼瑛の顔を思い出して、ぶんぶんと頭を振った。
翠蓮は手に取ったキーホルダーを、指でなぞる。
「うん、これにしよう。蒼瑛さま二胡を弾かれるって言ってたし」
購入して店を出ようとしたところで、入りがけの人とぶつかってしまった。男性は、よろけた翠蓮に手を差し出した。
「失礼、大丈夫ですか?」
(この声――)
聞き間違えるはずはない。だけど、こんなところにいるはずがない。
「翠蓮?」
「蒼瑛……さま?」
やっぱり蒼瑛だった。しかし、宮廷で見る彼と様子が違う。変装しているようだ。
声を聞かなければ、彼だと気が付かなかったかもしれない。
蒼瑛はしーっと言い、人さし指を口の前に立てた。注意深く周りを見る。
「すまないが……呼び捨てしてもらえないか?」
(えぇ!? 呼び捨て……)
「なぜここにいらっしゃるのですか……?」
とりあえず名前を呼ばずに話しかけてみる。
蒼瑛は困った顔をして、一層声を落とした。
「町の音楽団を視察していたんだ。
敬語もなしで……友人だと思って話してくれ」
(えぇ……無理だよそんなの……)
翠蓮が戸惑っていると、変装した陳偉が入ってきた。
「おぉ、蒼瑛。勝手に離れてはならぬと言っただろう」
「あ、叔父さんすみません」
あまりのことに翠蓮は目をパチパチさせる。あの陳偉が、思いっきりタメ口で蒼瑛にしゃべっている。
蒼瑛は翠蓮に向き直ると、眉を下げる。
「な、そんな訳だから……今日だけと思って……」
「わ、わかっ……た……」
気圧されつつもひとまず頷く。そしてあることに気づき、ハッとする。
「私、太凱を探さなくちゃ……」
その名前に蒼瑛がぴくりと反応する。
「太凱がどうした?」
「それが、はぐれてしま……はぐれちゃって」
「そういうことなら一緒に探す」
「そうですな、人手は多いほうが良い!」
陳偉はウキウキしながら出ていってしまった。
「…………」
二人の間に沈黙が流れる。
その時。
ぐぅ~
(わー……なんでこんな時に!?)
真っ赤になってうつむく翠蓮に、蒼瑛は吹き出した。
「……俺も昼はまだなんだ。気にしなくていい」
(俺……そっか。本当にお忍びなんだ)
「一緒に何か……と言いたいが、太凱が見つからないことにはな」
蒼瑛は翠蓮に手を差し出した。
「さぁ、行こう」
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