完結‼️翡翠の歌姫は 後宮で声を隠す〜特殊な眼を持つ歌姫が、2人の皇子と出会い、陰謀に巻き込まれながら王家の隠した真実に迫る

雪城 冴

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番外編

【番外編】太凱とデート

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こちらの話は番外編です!
太凱に興味ない方すみません……


―――――――――――――――――

 太凱タオガイ陽華宮ようかきゅうの大門に向かうと、翠蓮スイレンが既に来ていた。
 待たせてしまったのか、彼女は本に目を落としている。まだ太凱には気づいていないようだ。

 休日仕様なのか、髪がいつもより緩く結われ、半分ほどおろされ、柔らかく肩にかかる。
 淡い色の長居は、宮廷での隙のない翠蓮とはまた違って見える。
 風で裾と髪がふわっと揺れた。
 翠蓮が髪を押さえ、ふと本から視線を上げる。

「あれ? 太凱。来てたなら声かけてよ」

「おぅ。今来た……」
 見とれていたなんてバレたくなくて、太凱はついつい素っ気ない返事になる。

 今日二人は、陽華宮から少し離れた、観光通りに行くことになっていた。明鈴メイリンの誕生日の贈り物を探すため、という名目で太凱から誘った。
 
 門を出た大通りで、辻馬車を拾う。
「転ぶなよ」

「大丈夫だよ」
 笑いながら、翠蓮は太凱の前に座った。


 馬車が揺れ、ゆっくりと動き出す。翠蓮は窓の外を楽しそうに眺めている。
 その横顔に、急に二人きりで出かけているのだと実感して、太凱は恥ずかしくなってきた。

(駄目だ。なんか会話……)

「……そう言えば、さっき何見てたんだよ」

「えーっとね」
 翠蓮はごそごそと本を取り出すと、中を開いて太凱に見せる。観光名所やお土産などが載っていた。

「行きたいところあるのか?」

「うん、ここ。明鈴が集めてるちりめん細工のお店」

「……翠蓮が行きたいとこは? 初めて行くんだろ?」

 考えていなかったのだろう。翠蓮は、うーんと首を捻り、本をめくっている。彼女は「あ……」と小さく呟き、顔を上げた。

糖葫蘆タンフールー食べたい!」
 
「果物の飴だよな? それ食べようぜ」
 花より団子――
 色気がない気もしたが、翠蓮と一緒ならどこでも良かった。

(色気も何も、翠蓮はそのつもりで来てないんだし……)

 馬車は間もなく目的地に着く。


 ◇ ◆

「わぁ……すごい……」
 見渡す限りの人、人、人。左右には所狭しと店や屋台が並んでいた。ガヤガヤという喧騒が、活気ある雰囲気を生み出していた。
 翠蓮は圧倒されたように周りを見ている。

 歩き出すと、食べ物のいい香りが方方からしてくる。太凱は屋台の前で足を止める。

「お、糖葫蘆タンフールーあんじゃん。何がいい?」

猕猴桃キウイか、ナツメか迷う……」

「両方入ってんの買おーぜ」

 その飴は、長い串に緑と赤の果物が交互に刺さり、蜜がしっかりかかっている。光を浴びてきらきらしている。
 翠蓮がひとつ口に入れる。頬が少し赤くなり、目がぱっと輝く。
「甘くて美味しい……!」

 太凱はその様子を見て、心の中で小さくため息。

(かわいすぎる……)


「太凱も食べてみる?」
 串を差し出されるが、太凱は一瞬躊躇する。
 
(か、間接……いや、何言ってんだ。ガキじゃあるまいし)
 気にしないことにして、一口。

「甘っ……」
 子どもの時に食べた以来だった。こんなに甘かったかと、太凱は思わず眉をしかめる。

「ごめん、甘いの苦手だった?」
 そう聞かれ、太凱は慌てて取り繕った。

「うまい! うまいけど……いや……
ちょっと甘かった。後、翠蓮にやるよ」

「太凱は、激辛がいいんだもんね」

 自分の好みを覚えてくれていたことが、ちょっと嬉しい。

「太凱」
「なに――」

 すっと翠蓮の手が自分に伸びてくる。思わず息をとめると、柔らかい物が口元に触れた。


「蜜、ついてるよ」

 翠蓮は、手巾しゅきんで口元を拭いてくれていた。ふんわりと優しい香りがする。

 太凱は、ぶわっと体温が上がるのを感じて、咄嗟に一歩距離を取る。
 
(な、なんだよ――本当になんなんだよ!)
 翠蓮に他意が無いことはわかっている。わかっているが、理屈では感情を処理できない。

 赤くなっているであろう顔を見られたくなくて、太凱は咄嗟に、顔の前でバツを作る。

「子どもじゃないんだから、自分で拭く!」
 翠蓮は、「そう?」と手巾を渡してきた。

「ほら、ちりめん細工の店行くぞ!」
 太凱は口周りをごしごし拭きながら、店に入った。


◇ ◆


「どれがいいんだ……」
 太凱と翠蓮は、ちりめん細工の店で往生していた。
 手鏡にする所まではきまったのだが、何色にするかで迷っていた。翠蓮は、真剣な顔で一つ一つ手にとって吟味している、


「俺、全部同じに見えるわ……翠蓮はどれが良いと思う?」

「私は、この黄色が明るくて明鈴に合ってるかなって……」

「じゃ、これにしよーぜ」
 太凱は棚から黄色の手鏡を取る。
「これだけ一生懸命選んだんだし、明鈴も喜ぶだろ」
 太凱の言葉に、翠蓮はほっとしたように息をついた。


 店を出るとすでに昼を回っていた。


「結構時間使っちゃったね」 

「……何か食べて帰るか?」

「うん……でも、私この辺全く分からなくて……」

「これだから田舎もんは……ってかお前方向音痴なんだから、知ってても道案内できないだろ?」

 さざめく人の波が行ったり来たりし、気を抜くと押し流されそうだ。

「ほら」

 翠蓮は、差し出された手をぱっと握る。太凱は心臓が口から飛び出そうだった。鼓動がうるさくて翠蓮の方を向けない。

 今はこの喧騒がありがたく思える。静かな場所だったら、自分のこの動揺は全て翠蓮に伝わっていただろう。


「着いたぞ」
 やっと人の波を抜けた時、振り返ると手を繋いでいたのは見知らぬ子どもだった。

「え……? あれ?」

「うわーん! おかあさーん!!」
 子どもは大きな声で泣き出す。

「わー! 泣くな泣くな! 一緒に探してやるから……」

(翠蓮、大丈夫かな……)

 太凱はため息をつくと、ひとまず子どもの母親を探すことにした。


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