"忌み眼"の歌姫は声を隠す〜皇位争いに巻き込まれ後宮で死にかけました〜旧題:翡翠の歌姫は声を隠す

雪城 冴 @キャラ文芸大賞参加中

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一章 楽府オーディション

1-3 明鈴との出逢い

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(気のせいじゃない、誰かいる――) 

 そっと覗くと女の子が寝台に大の字に寝転んでいる。少しだけいびきをかいている。

「あの……」

 声をかけると女の子は跳ね起きる。そして、

「え!? 部屋間違えたかな……あ! もう一個先だった!?」
 そう言うと髪をふり乱し、すごいスピードで部屋から出て行ってしまった。


 翠蓮スイレンが呆然としていると

トントン

 扉を叩く音がする。恐る恐る開くと、さっきの女の子だった。

「さっきは間違えちゃってごめんね。もし良ければせっかくだからお話したいなって
……私は明鈴メイリンって言うの!」


 翠蓮は喜んで、明鈴を部屋に招き入れた。
 明鈴は柔らかいくせ毛に明るい笑顔の女の子で、まるい大きな瞳には、好奇心を浮かべている。
 温暖な南方の果樹地帯からきた笛の楽士で、年は翠蓮の一つ上だった。


「翠蓮は雪国出身って納得~! 肌も真っ白だし、今まで会った人の中で間違いなく一番の美少女!」
 
 褒められ慣れていない翠蓮の頬はみるみる紅く染まる。

「ふふっ……翠蓮ってばかわいい~」

「もう、からかわないでよ……」
 頬を膨らませる翠蓮を見て、明鈴はくすくすと笑ったあと、思い出したように身を乗り出した。

「ねぇ、それより今日さ、蒼瑛皇子見た? あの人、お妾さんの子なのに頭脳明晰で人望もあるらしいよ。それでいてあの美貌だもん。神様って不公平」

 一度息継ぎし、明鈴は声を潜める。

「将軍のお兄さんは、皇后さまの息子でしょ? だから皇位をめぐって仲悪いんだって。四ヶ月違いの兄弟じゃ常に比べられて大変だよね~」

(すごいな……こんな短時間でどこから聞いてくるんだろう……)

 まだまだ仕入れた情報はあるようで、明鈴は勢いを落とさず続ける。

「明日の二次は"殺しに来てる"って聞いた!?」


 翠蓮は、その物騒な言葉に耳を疑う。

「ほら、今日の一次は形式だけの簡単なチェックだったでしょ? だから明日は相当落とされるんじゃないかって……皆、噂してるの」

「そうなんだ……」
 翠蓮は目を伏せる。明日には荷物をまとめて陽華宮を後にするかもしれない。そう思うと暗い気持ちになる。

 明鈴は元気づけるように、明るい口調で話題を変える。

「私、家族のためにどんどん稼ぎたいんだ。弟たちチビたちまだ小さくてお金かかるからさ」

「弟がいるんだ。いいな、可愛いでしょう」

「うるさいだけだよ! 欲しけりゃ一人あげたいくらい!」
 口ではそう言うが、明鈴の優しい眼差しには、家族を大切に思う気持ちが滲んでいる。

「絶対合格しようね。
笛と歌で組んだらさ、美少女二人で視線を独占しちゃうよ、きっと」
 明鈴はにこっと歯を見せ、翠蓮の手を握る。

「……ありがとうね、明鈴」

 何が?と明鈴はとぼけるが、励まそうと心を配ってくれた温かさが嬉しかった。

 二人は手を取り合い、互いに合格を誓い合った。


——はずだった。

 明鈴が部屋を出て行った後、ふと、翠蓮は背中に冷たいものを感じた。
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