完結‼️翡翠の歌姫は 後宮で声を隠す〜特殊な眼を持つ歌姫が、2人の皇子と出会い、陰謀に巻き込まれながら王家の隠した真実に迫る

雪城 冴

文字の大きさ
4 / 72
一章 楽府オーディション

1-3 明鈴との出逢い

しおりを挟む

 (気のせいじゃない、誰かいる――) 

 そっと覗くと、女の子が寝台に大の字に寝転んでいる。少しだけいびきをかいている。

「あの……」

 声をかけると女の子は跳ね起きる。そして、

「え!? 部屋間違えたかな……あ! もう一個先だった!?」
 そう言うと髪をふり乱し、すごいスピードで部屋から出て行ってしまった。


 翠蓮スイレンが呆然としていると

 トントン

 扉を叩く音がする。恐る恐る開くと、さっきの女の子だった。

「さっきは間違えちゃってごめんね。もし良ければせっかくだからお話したいなって
 ……私は明鈴メイリンって言うの!」


 翠蓮は、喜んで明鈴を部屋に招き入れた。
 明鈴は羊のような栗色のくせ毛に、明るい笑顔の女の子で、まるい大きな瞳には好奇心を浮かべている。
 温暖な南方からきた笛の楽士で、年は翠蓮の一つ上だった。


「翠蓮は雪国出身って納得~! 肌も真っ白で、つやつやの黒髪が良く映える! 瞳の色もすっごく綺麗で宝石みたい!」

 どうやら、都では"忌み眼"を知る者、口に出す者のほうが珍しいようだ。


 (さっきの宮女に当たったのは、運が悪かっただけ……)

 褒められ慣れていない翠蓮は顔を赤くした。

「ふふっ……翠蓮ってばかわいい~」

「もう、からかわないでよ……」
 頬を膨らませる翠蓮を見て、明鈴はくすくすと笑い、思い出したように身を乗り出した。

「ねぇ、それより今日さ、蒼瑛皇子見た?
あの人、お妾さんの子なのに頭脳明晰で人望もあるらしいよ。
それでいてあの美貌だもん。神様って不公平」


 一度息継ぎし、明鈴は声を潜める。


「将軍のお兄さんは、皇后さまの息子でしょ? 皇位争いで兄弟仲は最悪。
蒼瑛皇子が責任者を務める楽府のことも、よく思ってないんだって」

 (すごいな……こんな短時間でどこから聞いてくるんだろう……)

 まだまだ仕入れた情報はあるようで、明鈴は勢いを落とさず続ける。

「明日の二次は"殺しに来てる"って聞いた!?」


 翠蓮は、その物騒な言葉に耳を疑う。

「ほら、今日の一次は形式だけの簡単なチェックだったでしょ? だから明日は相当落とされるんじゃないかって……皆、噂してるの」


「そうなんだ……」
 翠蓮は目を伏せる。明日には荷物をまとめて宮廷を後にするかもしれない。
 そうなったら――

 明鈴は元気づけるように、明るい口調で言う。

「絶対合格しようね。
 笛と歌で組んだらさ、美少女二人で視線を独占しちゃうよ、きっと」
 明鈴はにこっと歯を見せた。


「……ありがとうね、明鈴」

 何が?と明鈴はとぼけるが、励まそうと心を配ってくれた温かさが嬉しかった。

 二人は手を取り合い、互いに合格を誓い合った。



  明鈴メイリンが出て行った後、誰かの視線を感じ、翠蓮は暗くなった外に目をやる。

 木々や庭の隅に、雪がわずかにあるだけだ。

 翠蓮は寝台に、ぼすっと寝転ぶ。



「皆、すごく上手だったな。
やっぱり、そんなに甘い試験じゃないよね……」

 だけど、自分を庇って死んだ父のためにも、諦めるわけにはいかなかった。

 元気を出そうと、ぐっと身体を起こす。胸に手を当てて深呼吸してみると、いくらか気が晴れた。


 襟元から首飾りを取り出す。首から外して手に取ると、美しい蒼色がきらめく。

 まるで夜の海のような深い蒼色――


 この首飾りは、恐らく母の形見だ。
 恐らく――というのは、翠蓮には母の記憶がほとんどなかった。
 覚えているのは揺りかごの唄と、この首飾りだけ。


 半月を思わせるしなやかな弧を描くその石は、無駄な装飾はない。すべすべした感覚が気持ちよくて、無意識に石を撫でる。

 ふと、蒼瑛ソウエイ皇子の顔が、思い出された。 

(なぜ、あの方の顔が――) 


 思わず石を撫でる手を止めた。

 彼に指をとられた時に、身体に流れ込んで来た感覚。あの懐かしさは何だったのだろうか。

「どこかで会ってるとか? そんなわけないか」

 皇子と言えば、"殿下"と呼ばれていた赤い瞳の胴鎧の彼――
「あの人が、蒼瑛殿下のお兄様……」
 なぜかちくりと胸が痛む。
 助けてくれたのに、きちんとお礼もできなかった。
 

 石を両手で包み込む。
 いつもならこの石に心癒されるはずなのに、今日派胸のざわつきが消えない。

 翠蓮は、その違和感から逃げるように、無理やりまぶたを閉じた。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました

由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。 巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。 今日も黙々と床を磨いていたら―― 「お前の磨いた床は、よく眠れる」 恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。 見た目は完全にラスボス。 中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。 勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。 光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。 戦争よりも、まず床。 征服よりも、まず対話。 これは、世界最強の存在に溺愛されながら 世界平和を“足元から”始める物語。 甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。

あやかしが家族になりました

山いい奈
キャラ文芸
★お知らせ いつもありがとうございます。 当作品、3月末にて非公開にさせていただきます。再公開の日時は未定です。 ご迷惑をお掛けいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。 母親に結婚をせっつかれている主人公、真琴。 一人前の料理人になるべく、天王寺の割烹で修行している。 ある日また母親にうるさく言われ、たわむれに観音さまに良縁を願うと、それがきっかけとなり、白狐のあやかしである雅玖と結婚することになってしまう。 そして5体のあやかしの子を預かり、5つ子として育てることになる。 真琴の夢を知った雅玖は、真琴のために和カフェを建ててくれた。真琴は昼は人間相手に、夜には子どもたちに会いに来るあやかし相手に切り盛りする。 しかし、子どもたちには、ある秘密があるのだった。 家族の行く末は、一体どこにたどり着くのだろうか。

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。 彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。 ――死んだはずの彼女が、生きている? 同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。 「今さら、逃げ道があると思うなよ」 瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。 秘された皇子と、選び直した愛。 三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?    * * * 後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

処理中です...