完結‼️翡翠の歌姫は 後宮で声を隠す〜特殊な眼を持つ歌姫が、2人の皇子と出会い、陰謀に巻き込まれながら王家の隠した真実に迫る

雪城 冴

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百章 パラレルワールド

4-4 みんなとの別れ

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※莉杏というのは、本来は後宮編で、お姉さん的立ち位置で出てくるはずのキャラでした。
すみません……💦



――――――――

 周りの人に、行軍に参加することを告げたのは蒼瑛と会った翌日だった。

 この日から本格的な準備や、軍での訓練があった。もう隠すわけにはいかなかった。


 芙蓉妃には、不義理だとわかっていたが文で挨拶をすることにした。悲しむ顔を見たくなかった。


(楽府の皆には、稽古後に伝えよう――)

 稽古後の書庫はいつも通り賑やかだった。
 明鈴メイリン太凱タオガイに突っ込み、絢麗ケンレイ莉杏りあんは冷静にそれを宥める。
 こんな日常もあと少し。そう思うとなかなか口に出せなかったが、ついに翠蓮は切り出した。

「あのね……私、今度の行軍に参加することにしたんだ」

 皆、一瞬固まった。
「行軍……?」

「うん、経験を積みたくて……志願したの」
 努めて明るく言ったつもりだ。


「いつ行くの……?」
 莉杏の顔には不安が浮かんでいる。

「二週間後」


 その言葉に、太凱タオガイは胸の前で腕を組み、強い口調で言う。
「……もっと早く言えよ!」

「ごめん……でも、長くても一カ月くらいだし、そんなに心配するような地域じゃないんだよ? 任務も物資支援だって聞いてるし」


「だけど、こないだ倒れたばっかでまだ本調子じゃねぇだろ……」
 後宮で起きた毒殺未遂事件は、調査中につき他言無用とされた。
 楽府員には体調不良と伝えてあった。


「もう良くなったから、大丈夫」


 その言葉に太凱は声を荒げる。もう怒りを隠すつもりは無いようだった。
「大丈夫、大丈夫って……お前、いつもそればっかりだろ!
大丈夫じゃない時あんのかよ!」

 

(大丈夫じゃない時――?)
 そんなことはあっただろうか。いつも自分に言い聞かせてきた。大丈夫、きっとやれる、これで良かった、気のせいだと。
 太凱の言いたいことはわかる。無理するなと心配してくれているのだろう――恐らく蒼瑛も。
 だけど、無理をしなかったら、そこで歩みが止まってしまうような気もする。

 思わず、考え込んで返事が出来なくなった。 


 ずっと黙っていた絢麗が口を開く。

「もう決めたのね?」

「うん」

「わかったわ。皆、翠蓮の意志を尊重しましょうよ。
ね、太凱……そんな態度じゃ翠蓮が気持ちよく出発できないわ?」

 絢麗に諭されるも、太凱のふくれっ面は直らなかった。

「無理! 気持ちの整理がつかない! 俺は翠蓮に腹が立ってんだ!」

 あまりにはっきりと言うので、皆吹き出した。太凱はますますムキになる。

「笑い事じゃないだろ! 翠蓮、お前も言いたいこと言えよ!」

「ふふっ、ごめん……そうだよね……」
 おかしいはずなのに、思わず泣きそうになる。が、ここで泣くわけにはいかない。

 そのために、一人で散々泣いたのだから。

 行軍を決めたあの日――
 突然処置室に現れた黒い影。ふらつく身体を支えるようにして着いて行った先は、御簾みすの御前。
 その向こう側から、冷たくしなやかな声が響いた。

 「その才能に感服した。ぜひ軍に出向き、楽府の名誉を高めてはどうか」
 そう言ってくれた。


 戸惑う翠蓮に声は続けた。

「離れがたいか。だが、そなたの心がけ次第で、救われるものもあるのでは――」

 翠蓮は、一瞬蒼瑛の顔を思い浮かべた。
 そして、その心を見抜くかのように、声は蒼瑛の身の安全を約束をしてくれた。

 少しでも蒼瑛の役に立てるなら、という自己犠牲的な気持ちもあった。
 だけど、『経験を積みたい』、『兵の心の拠り所になれれば』という思いも嘘ではない。

 最終的に行軍することを決めたのは翠蓮自身だった。そのはずなのに――



「行軍なんかついて行けないぞ! 足手まといになる前にやめちまえ!」
 太凱は相変わらず優しいのか意地悪なのか。と思ったが、翠蓮にはわかっていた。

「太凱、ありがとう」
 
「翠蓮……嫌だよ……」
「そうよ……冬の行軍なんて危険だわ」
 明鈴も莉杏も、目を真っ赤にして泣いていた。

 明るく済ませるはずが、気づけば書庫は通夜のような雰囲気になってしまった。
 
 皆黙って書庫を出る。

 絢麗が控えめに翠蓮に声をかけた。
 皆が出て行ったのを確認すると、絢麗は核心を突いてくる。

「ねぇ、蒼瑛さまは……なんて?」

「……応援してくれたよ」
 
「翠蓮は、それでいいのね」

(それで……)
 絢麗が何を言いたいかは、翠蓮にもわかっていた。だけど、その想いを口に出すことは出来ない。

 黙する翠蓮を、絢麗はぎゅっと抱きしめてくれた。

(温かい……)

 つかえていたものが、溶け出していく様だった。

 絢麗の震える背中を撫でるように、翠蓮も腕を回した。

 
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