完結‼️翡翠の歌姫は 後宮で声を隠す〜特殊な眼を持つ歌姫が、2人の皇子と出会い、陰謀に巻き込まれながら王家の隠した真実に迫る

雪城 冴

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番外編

【番外編】祭デート 蒼瑛

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こちらは番外編です。興味ない方は読み飛ばしてください。

――――――――
 
 蒼瑛が外廷から出ると、陳偉チンエイの声が聞こえる。

「蒼瑛さま!お待ちしておりましたぞ」
 駆け寄るようにして近寄ってくる。慌てた様子だ。


「もしやお忘れですか?本日は民間の音楽団の私的視察に行かれるご予定ですぞ……」

「あ……」
 そのもしやで、すっかり忘れていた。確か一ヶ月ほど前に決めた視察だ。陳偉は一瞬肩を落としたがすぐに切り替える。
 凌暁リョウギョウを呼び出し、見慣れぬ衣服を用意させた。

「本日は目立たぬよう、こちらにお着替えください」

 差し出されたのは、麻素材の単衣ひとえに柔らかい布で出来た細帯、それに外套がいとうだ。
 袖を通し終わると、普段つややかに整えられた蒼瑛の髪には、雑にくしを通された。

「おぉ、お似合いになりますな。学者の卵のように見えますぞ」
 
「そういう陳偉の服はなんだ……?」

「私は蒼瑛さまの叔父です!」

「なんだか楽しそうだな陳偉……」

「なかなかあの辺りに行く用事はないですからね。さぁ参りますぞ」

 
 普段なら決して身に着けない布の外套。鏡に映る姿に、蒼瑛は思わず苦笑した。

「こんな格好で歩くのはいつ以来だろうな」

 陳偉の後に、凌暁と蒼瑛が続く。意気揚々と歩く陳偉を見ているうちに、だんだん蒼瑛の気持ちも晴れてきた。


◇ ◆

 翠蓮と街で出会い、陳偉の計らいで屋台を回った二人。


 二人は、最後に揚げパンを食べていた。蒼瑛はお腹をさすった。

 普段は品を意識して、というより、食事はただ生きるためのものだった。
 皇子は好きなものを食べることは基本的に許されない。毒見されたものを、無言で、見張られながら食べる。美味しいとか不味いとかいう以前の問題だった。
 それを笑いながら誰かと――
 いや、翠蓮と食べると、こんなに美味しいものかと驚く。
 ついつい食べ過ぎて、お腹がはち切れそうだ。

「もう食べられないな……」

「蒼瑛、意外と食べなかったね」

「翠蓮は意外と食べるんだな」


 “ 蒼瑛 ” 十年前と同じように自分の名前を呼ぶ声。違うのは、彼女に当時の記憶がないということだ。その事実に、改めて胸に痛みを覚える。

 しかし、翠蓮は自分を楽しませようと気を遣ってくれているのだ。自分のわがままで彼女を困らせることがあってはいけない。


 気を取り直し、蒼瑛は袖から地図を取り出した。 

「祭がやっているみたいだな、行ってみてもいいか?」

「はい」

 どちらからともなく手を取り合う。ふっと横を見ると、翠蓮がこちらに笑顔をむけている。思わずどきっとする。

(少し化粧をするだけで、変わるものなのだな)

 先ほどの異国の王女風衣装には、思わず息を飲んでしまった。絶対に他人には見せたくない。そんな子どもじみた独占欲でいっぱいだった。


 だが、今の飾らない服装も、翠蓮の愛らしさを一層引き立てている。少し大きめの袖から出る、柔らかく小さな手。
 強引に掴んで、さらってどろどろに甘やかしてしまいたくなる。傷つけたいわけではないのに、どうにかしたくなるような衝動が怖い。
 綺麗なだけではないこの気持ちに、「自分は皇子なのだから」と、なんとか歯止めをかける。

(だが……)
 今夜くらい、少しなら許されるだろうか。と考えてみる。握った手に、そっと力を込めた。

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