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音信不通になった理由
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和也が山盛りカレーを黙々と食べている間、『黙って待っているのもなんだし』と、紫音は明弘に質問をしてみる事にした。
「ところでアッキー、今何してんの?」
「大学生」
「へー、どこ?」
「えーっとね……」
明弘が答えた大学名に、紫音は驚く。
「やだ! アッキーったら、カッコ良くて、そのうえ頭もいいのっ? すごいじゃない! 会社でわたしの隣の席の女の子も同じ大学だよ。へー、すごい……」
「すごくないよ、別に……。運が良かったっていうか……」
「運で入れる大学じゃねーよなー」
既に知っていたらしい和也は、苦笑しながら言った。
「俺の大学とまあまあ近いから、これから遊べるなーって思って。電車乗れば、ここにも近いし」
「そうだね。ところで、そもそもどうやって連絡取れたわけ? ずっと音信不通だったのに」
「それがさ、凄いんだよ」
スプーンを振りつつ、和也が話す。
「合コンで、同じ小学校の女子と一緒になったんだって。で、たまたまその子と俺、高校まで一緒だったんだよね。友達ではなかったんだけど、間に何人か挟んだら俺の連絡先知ってる奴にたどり着いたってわけ」
「いつもは合コンなんて行かないんだけど、その時はどうしても断れなくて……でも、行って良かったよ。カズと連絡とれなくなって、困ってたんだ」
「そうだよー。俺もさ、連絡取れなくなって本当に心配したんだぞ」
「うん、ごめんね」
そう。
ある日、明弘は突然消えた。
水森家に来るようになり、和也と遊び、紫音に宿題を見てもらって、一緒にご飯を食べ、身綺麗になり体つきもしっかりして、クラスメイトからのいじめもなくなり。
春、夏が過ぎ、秋になって生活が落ち着いて来たころ、突然明弘が消えた。
「前の日まで全然変わりなかったのに、急に学校休んで、もう、そこから全然来なくなっちゃって。先生に聞いても教えてくれないし」
「お母さんが先生に聞いても、何も教えてもらえなかったんだって。個人情報は教えられないって。ねえ、どうしたの?」
前のめりに尋ねる二人に気圧され、明弘は『ごめん』と謝った。
「連絡しないでごめんね。俺さ、母親の彼氏に階段からつき落とされて大怪我して入院して、父親に引き取られてアメリカに行って……」
「はっ?」
「えっ?」
「そんなんで、バタバタして連絡できないまま引っ越しちゃったんだ」
「あ……それなら仕方ないけど……ちょっと情報量が多すぎて……ええ?」
「大怪我? アメリカ? なんだそれっ!」
……明弘の話によると。
明弘の母親は、離婚した夫に似てくる明弘に嫌悪感を抱くようになり、小学校三年生頃から明弘を無視するようになっていたという。
彼氏ができてからはその状態がどんどん酷くなり、明弘の為の食事、洗濯、掃除はほぼしなくなり、平日は夜中に帰り、休みの日は彼氏の所に泊まるので、自宅は酷い状態になっていた。
「一度、掃除をしてゴミを捨てた事があったんだけど、分別してないから回収してもらえなくて。同じアパートの人から苦情を言われたって、物凄く怒られて……どうしていいかわからなくて、それっきり掃除もしてなくて……でも、水森家にお世話になって、ゴミの分別の仕方とか、洗濯の仕方もわかるようになって、俺、家で少しは家事するようになったんだよね」
「そういえば、自分で洗濯できるからもう洗ってくれなくて大丈夫、って言われたわね」
当時を思い出し、紫音が頷いた。
「部屋が汚いうちはさ、いくら彼氏に言われてもうちに連れてくる事はなかったんだけど、俺が掃除するようになってキレイになったら、彼氏が来るようになっちゃって」
思わぬ弊害が出てしまったわけだ。
「母親は、俺がいるからダメだって言ってたらしいんだけど、彼氏の方は、仕事も辞めちゃってうちに転がり込む気満々だったらしくて、強引に引っ越してきちゃって。で、まあ、俺は別の部屋で寝てたんだけど『そういう事』しようとした彼氏が『子供がいるからダメ』って言われたのに腹を立てて、『じゃあ、こいつ外に出しとけよ』って、いきなり部屋の外に連れ出されて、アパートの階段から押されて落ちて、ここ切って」
前髪を上げた右の額に、薄くはなっているが大きな傷跡があった。
「血が派手に出ちゃって、腕も骨折しちゃって、突き落とされる前に顔叩かれてたから口の中切れてるし顔も腫れてて……それ以前から蹴られたりして体にアザがあったし、もう、いかにも虐待されました、って状態だったから、病院から警察に連絡がいって……離婚した父親のところにも連絡がいって、それまでの育児放棄の状態なんかも問題になって、入院してるうちに、父親の方に引き取られる事になってたんだ」
明弘は、大した事ではないかのように、あっけらかんとそう言った。
「ところでアッキー、今何してんの?」
「大学生」
「へー、どこ?」
「えーっとね……」
明弘が答えた大学名に、紫音は驚く。
「やだ! アッキーったら、カッコ良くて、そのうえ頭もいいのっ? すごいじゃない! 会社でわたしの隣の席の女の子も同じ大学だよ。へー、すごい……」
「すごくないよ、別に……。運が良かったっていうか……」
「運で入れる大学じゃねーよなー」
既に知っていたらしい和也は、苦笑しながら言った。
「俺の大学とまあまあ近いから、これから遊べるなーって思って。電車乗れば、ここにも近いし」
「そうだね。ところで、そもそもどうやって連絡取れたわけ? ずっと音信不通だったのに」
「それがさ、凄いんだよ」
スプーンを振りつつ、和也が話す。
「合コンで、同じ小学校の女子と一緒になったんだって。で、たまたまその子と俺、高校まで一緒だったんだよね。友達ではなかったんだけど、間に何人か挟んだら俺の連絡先知ってる奴にたどり着いたってわけ」
「いつもは合コンなんて行かないんだけど、その時はどうしても断れなくて……でも、行って良かったよ。カズと連絡とれなくなって、困ってたんだ」
「そうだよー。俺もさ、連絡取れなくなって本当に心配したんだぞ」
「うん、ごめんね」
そう。
ある日、明弘は突然消えた。
水森家に来るようになり、和也と遊び、紫音に宿題を見てもらって、一緒にご飯を食べ、身綺麗になり体つきもしっかりして、クラスメイトからのいじめもなくなり。
春、夏が過ぎ、秋になって生活が落ち着いて来たころ、突然明弘が消えた。
「前の日まで全然変わりなかったのに、急に学校休んで、もう、そこから全然来なくなっちゃって。先生に聞いても教えてくれないし」
「お母さんが先生に聞いても、何も教えてもらえなかったんだって。個人情報は教えられないって。ねえ、どうしたの?」
前のめりに尋ねる二人に気圧され、明弘は『ごめん』と謝った。
「連絡しないでごめんね。俺さ、母親の彼氏に階段からつき落とされて大怪我して入院して、父親に引き取られてアメリカに行って……」
「はっ?」
「えっ?」
「そんなんで、バタバタして連絡できないまま引っ越しちゃったんだ」
「あ……それなら仕方ないけど……ちょっと情報量が多すぎて……ええ?」
「大怪我? アメリカ? なんだそれっ!」
……明弘の話によると。
明弘の母親は、離婚した夫に似てくる明弘に嫌悪感を抱くようになり、小学校三年生頃から明弘を無視するようになっていたという。
彼氏ができてからはその状態がどんどん酷くなり、明弘の為の食事、洗濯、掃除はほぼしなくなり、平日は夜中に帰り、休みの日は彼氏の所に泊まるので、自宅は酷い状態になっていた。
「一度、掃除をしてゴミを捨てた事があったんだけど、分別してないから回収してもらえなくて。同じアパートの人から苦情を言われたって、物凄く怒られて……どうしていいかわからなくて、それっきり掃除もしてなくて……でも、水森家にお世話になって、ゴミの分別の仕方とか、洗濯の仕方もわかるようになって、俺、家で少しは家事するようになったんだよね」
「そういえば、自分で洗濯できるからもう洗ってくれなくて大丈夫、って言われたわね」
当時を思い出し、紫音が頷いた。
「部屋が汚いうちはさ、いくら彼氏に言われてもうちに連れてくる事はなかったんだけど、俺が掃除するようになってキレイになったら、彼氏が来るようになっちゃって」
思わぬ弊害が出てしまったわけだ。
「母親は、俺がいるからダメだって言ってたらしいんだけど、彼氏の方は、仕事も辞めちゃってうちに転がり込む気満々だったらしくて、強引に引っ越してきちゃって。で、まあ、俺は別の部屋で寝てたんだけど『そういう事』しようとした彼氏が『子供がいるからダメ』って言われたのに腹を立てて、『じゃあ、こいつ外に出しとけよ』って、いきなり部屋の外に連れ出されて、アパートの階段から押されて落ちて、ここ切って」
前髪を上げた右の額に、薄くはなっているが大きな傷跡があった。
「血が派手に出ちゃって、腕も骨折しちゃって、突き落とされる前に顔叩かれてたから口の中切れてるし顔も腫れてて……それ以前から蹴られたりして体にアザがあったし、もう、いかにも虐待されました、って状態だったから、病院から警察に連絡がいって……離婚した父親のところにも連絡がいって、それまでの育児放棄の状態なんかも問題になって、入院してるうちに、父親の方に引き取られる事になってたんだ」
明弘は、大した事ではないかのように、あっけらかんとそう言った。
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