【R18】餌付けした少年が大人になってやって来た

カナリア55

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ショックな事は呑んで紛らわそう

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「……って事でね、ほんっとーにショックだったの、わたし」

 5本目のビールをグラスに注ぎながら、紫音は言った。

「もー、何回目? って感じ。毎回そう。全然仕事できないくせに出世してくのよ。プレゼンで使った資料褒められて『そんなたいしたことありませんよ』って言った人に、それ、わたしが作ったよね? って言ってやりたかった。男だとか、大卒だとか、そういう事だけでチャンスを与えられるなんて、ズルい! いくら頑張っても高卒で女のわたしは、そんなチャンスは一度ももらえなくて、ただただ他の人の為に手伝わされるだけで……おおっと」

 泡が落ち着くのを見計らいながらビールを注いでいたが、イライラしていたせいで雑になってしまった。
 溢れさせてしまい、慌ててグラスに口をつけた。

「あー、失敗失敗」
「はい、ティッシュ」

 いつもより早いペースで飲んでしまっている紫音を少し心配しながら、明弘はティッシュを渡した。

「ありがとー。……ごめんねアッキー、愚痴ばっかり言っちゃって」
「いいよ。聞くことしかできないけど、少しでもスッキリするなら話して」

 そう言って笑う明弘を見て、紫音は『ありがとう』と言った。

 今日、会社で新プロジェクトの発表があり、紫音が教育係をしていた後輩の吉田理央がそのチームに抜擢された。
 お祝いの飲み会に誘われたが、その前に明弘から『今日行っていい?』と連絡が入っており、約束をした後だったので紫音は参加せずに済んだ。

「行きたくなかったから、アッキーと約束した後で良かったよ」

 しみじみと呟く紫音に、明弘はお土産として持ってきたチーズタルトを勧める。

「しーちゃん、これ食べて元気出して! 店の前に行列できてたからつい並んじゃったんだけど、美味しいと思うよ」
「最近テレビで紹介してたよ、これ! 食べてみたいって思ってたんだ、ありがとう。でも本当に、こんなにしょっちゅうお土産持って来てくれなくていいんだからね。手ぶらでも、アッキーなら大歓迎だから。でも嬉しい。……うん、おいしい! ちょっとしょっぱくて、お酒にも合うね」
「うん、本当だ」

 そうして、二人で楽しく飲んでいると、つくづく思う事がある。

「……はぁ……今日はアッキーのおかげで助かったけど……ちゃんと考えた方がいいのかなぁ……」

 紫音は、しみじみと言った。

「考えるって?」
「結婚とかさぁ、まだまだいいやって思っていたけど、付き合ってすぐ結婚するわけじゃないから、そろそろ彼氏とか探した方がいいのかもって。このまま会社にいても、ずっといいように使われるだけだろうし、そう考えるとストレスが……ねえ、アッキーのバイト先に、いい人いない?」
「えっ?」
「同じ部署にはいい人いないし、紹介してくれるって言ってた先輩は、しばらく新プロジェクトで忙しいだろうし……出会いは多くあった方がいいかなーって」

 笑いながら紫音は言ったが、明弘が俯いて黙ったままなので『あれ?』と声をかけた。

「どうかした?」
「え? あ、えーと……どんな人がいいかなって考えてて……しーちゃんの好みって、どんな感じ?」
「んーとねー、んー……浮気しない人!」
「そんなの当たり前でしょう。他には?」
「当たり前っていうけど、なかなかいないもんよ? えーとそれからねぇ、穏やかな人がいいなー。わたしには勿論だけど、他人にも怒鳴ったりしない人ね」
「いや、それも当たり前だし……ねえ、大学生は?」
「あー、大学生は駄目!」

 ビールを飲みながら、紫音は即答した。

「……年下は、駄目?」
「年下は別にいいよ。だけど……なんていうか……大学生には、あんまりいいイメージがないんだよね……」

 苦笑しながら紫音は言った。

「前に言ったでしょ? 付き合った人がいるって。その人、大学生だったの。で、軽いというか、なんというか……まあ、端的に言ってしまえば、遊ばれて捨てられた、っていうのかな? わたしも若くて、何も知らない小娘だったからね」

『へへっ』と紫音は苦笑したが、明弘はスッと表情を変えた。

「遊ばれて捨てられたって、どういう事?」
「あー、いや、まあ、ある意味そういう事、って感じ。大学行った友達に合コンに誘われて、そこで意気投合して付き合う事になったんだけど、すぐに連絡がとれなくなって、そのまま音信不通で自然消滅したの。で、『所詮はセックスしたいだけだったんだな。わたしとは真剣に付き合う気なんて、最初からなかったんだろうな。だって大学には女の子もいっぱいいるし、楽しい事がたくさんあるだろうから』と思ったわけですよぉ」
「……俺は、そんな事ないよ?」

 真剣な顔でそう言った明弘に、紫音は『それはわかってるよー』と笑った。

「アッキーの事はそう思ってないよ、勿論」
「じゃあ……俺は?」

 明弘は、紫音を見つめてそう言った。
 
 
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