寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank

文字の大きさ
11 / 25

第11話

しおりを挟む
クライブ様が部屋を出て行くと、私は化粧台の前へ向かい椅子に座った。
化粧台の引き出しの中には様々な化粧品や化粧道具が入っている。

私は引き出しの取ってを掴むと、ゆっくり手前に引いた。
そして、整頓されている細々とした化粧品の奥に手を伸ばして一枚の紙を取った。

学園を卒業して王宮侍女になった時、女性に敵認定されやすい私は化粧と髪型のアレンジを侍女仲間にすることで、彼女達から信頼のようなものを得た。
それは学園時代に同姓との付き合いに苦労した私にとっては、処世術に近いものだったかもしれない。

何人かの侍女仲間は特に気に入ってくれ、私はよく彼女達の夜会やデートの前には手伝いをした。

『シドニー、私の従姉が劇団員なんだけど、あなたの化粧の腕に興味があるみたいでね』

彼女に渡された紙には、劇団の住所と名前が記されていた。

“リリアン・フィッチャー劇団”

隣国発祥の女性のみによる、今話題の劇団だった。
役者や裏方、全てが女性のこの劇団には正直とても興味があったが、侍女になりたてだった私は連絡を取らなかった。

今からでも、間に合うだろうか・・・・・・。
正直のところ、自分にはこれしかあてがない。

正面の鏡を見れば、髪を下ろした自分が映っていた。
化粧をしていなくても、はっきりとした顔立ち。

それに比べて、あの女性ステラ様は儚げで美しかった。

クライブ様も見惚れていたーー

離宮に居ても、二人の噂話が耳に入る。

『ノックス副団長とステラ様、よくご一緒されてるの』

二人が並ぶ姿は、お似合いだった。
学園時代は仲睦まじかったと、フランシス様も話していた。

『婚約破棄を自分から告げたけれど、ノックス副団長は後悔されて元婚約者のご令嬢への想いを自覚された。
そして、今もなお後悔し続け、元婚約者のご令嬢を想っている』

まだクライブ様と結婚して3ヶ月。
たとえステラ様との未来を考えたとしても、クライブ様なら私の今後を考えてそれを切り出せるような人ではない。
今夜だって、こうして私の火傷を心配して夫としての務めを果たすために帰宅してくれた。

だったら私が、そうなるように仕向ければ良い。


私は紙を小さく折り畳んで元の場所へ戻した。



ベッドで横になっていると、湯浴みを済ませたクライブ様が部屋へ入ってきた。
髪はまだ濡れていて、薄いシャツの開いた胸元から鍛えられた体が目に映った。

クライブ様はベッドへ近寄ると私の名前を呼び、二人の唇は重なった。

本当なら、ここまでにしないといけないのは分かっている。

でもーー

目の前にいる愛しい人の瞳を見ているとーー最後の思い出に。

そんな気持ちが芽生えてきて、

私達は愛し合った。




クライブ様の規則的な寝息を耳にしながら、私を後ろから抱きしめる大きな温かい手に、自分の手を重ねた。

もう、会えないかもしれない。

この温かさを忘れないよう重ねる手に少し力を加えると、クライブ様の手が動いて私の両手を包み込むように抱きしめられて、涙が頬を伝った。



目を覚ますとクライブ様の姿は見当たらず、シーツは既に冷たくなっていた。


私はデスクへ向かい、リリアン・フィッチャー劇団宛に手紙を書いた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

君に愛は囁けない

しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。 彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。 愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。 けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。 セシルも彼に愛を囁けない。 だから、セシルは決めた。 ***** ※ゆるゆる設定 ※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。 ※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。

ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」  ぱんっ。  愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。  甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。  ──え?  打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。

ふまさ
恋愛
 伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。  けれど。 「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」  他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび
恋愛
「結婚しよう」 アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。 しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。 それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

処理中です...