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第19話
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あれから、1年が過ぎた。
3歳半になったロージーは愛らしさに加えてお喋りが上手になり、たまに大人の言葉や仕草を真似しては周りを笑顔にしたり、ドキッとさせている。
ノアは新たに剣術を習い始めた。
これがなかなか筋が良いらしく、本人も真剣に取り組んでいる。
そして、相変わらず後をついて回るロージーに、いつも優しく接してくれる優しい兄だ。
クラリス様は夜会の華やかな場がお好みとのことで、旦那様と連れ立っては美しいドレスに身を包み出席している。
でも、お茶会は苦手らしく私が担当となり、今では役割分担ができつつある。
旦那様は半年前に王太子殿下が国王様になられてから、今までにも増して一層忙しくされている。
そんな旦那様はクラリス様の別邸へ帰る日も増えてきている。
でも、ロージーが寂しがらないよう本邸へも忘れずに顔を出している。
私はーー
「ミラ様、実は先週のバザーで子ども達の刺繍を見た方から、是非とも支援したいとのお話しを頂いて」
「・・・・・・支援、ですか?」
週2回刺繍を教えている孤児院のシスターからその話を聞いたのは、子ども達の作った刺繍のハンカチやテーブルクロス、凝った刺繍のロンググローブをバザーで販売し、大盛況を収めてから10日ほど経った頃だった。
サリンジャーと名乗る代理人の主人で投資家である方が、バザーで購入した数々の刺繍を見てこれらが孤児院の子ども達の作品と知りそれは驚かれたらしい。
『才能ある子ども達に是非とも手助けをしたい』
シスターから渡された紙には、代理人のサリンジャー氏の連絡先が記載されていた。
「それは感じの良い方でした。
子ども達に手を差し伸べてくださる素晴らしい考えで感動いたしました」
善人のなかの善人であるシスターは、人を疑うことを知らない。
作品ではなく、可愛い子ども達を見てよからぬことを企んでいるんじゃないか。
代理人というのも怪しい。
この時はそう思っていた。
数日後、スタンリー伯爵家の敏腕な家礼デイブ、腕の良い護衛を数人伴ってサリンジャー氏に対面するが、デイブが賛同するほどの素晴らしい考えで、納得した私もこの話を前向きに検討することした。
「ミラ様!私達専用の作業場なの!」
「大きなテーブル!
向こうには、休憩室もあるの」
「ええ、とっても素敵ね」
孤児院からもほど近い立地の、以前の工場跡地は数ヶ月で工房へと変貌した。
最適な環境と、指導者の派遣。
もちろん、子ども達には作品の作成に応じて給金が発生する。
全てが短期間で整った。
『いつかブランドを立ち上げられたら素晴らしいですね』
手紙にはそう記されていた。
サリンジャー氏に投資家であるご主人に面会を求めるが叶わなかった。
「大変忙しい方なので難しいかと。
こちらは、工房のお祝いに主人から預かりました」
大きな花束と、置物だった。
クリスタルのこの置物は、ブルージェ王国の伝統工芸品のはず。
それは、幼い少女の頬に天使がキスした可愛らしい置物だった。
遠いーー幼い頃の記憶が、
懐かしい記憶が、思い出される。
子どもの頃、お茶会の席で男の子達に顔のそばかすをバカにされて泣いてしまった、あの記憶。
可愛いミラ。これは可愛い証拠だよ。ってお父様は褒めてくれるのに・・・・・・。
屋敷へ帰ると、まだ泣き足りなかった私は涙を流した。
『それはな、天使からのキスって言ってだな、ブルージェ王国では美人の象徴なんだぞ。
この国のやつらは分かってない』
『びじん?』
『・・・・・・ああ、きれいな女性ってことだ』
ボサボサの黒髪に、深い森のような緑の瞳の・・・・・・
私の従兄、ローリー。
『・・・ドレスの刺繍、いいんじゃないか』
黒髪を後ろに撫でつけた、大人の男性になった宰相様、ディクソン侯爵。
「・・・・・・まさか、よね」
3歳半になったロージーは愛らしさに加えてお喋りが上手になり、たまに大人の言葉や仕草を真似しては周りを笑顔にしたり、ドキッとさせている。
ノアは新たに剣術を習い始めた。
これがなかなか筋が良いらしく、本人も真剣に取り組んでいる。
そして、相変わらず後をついて回るロージーに、いつも優しく接してくれる優しい兄だ。
クラリス様は夜会の華やかな場がお好みとのことで、旦那様と連れ立っては美しいドレスに身を包み出席している。
でも、お茶会は苦手らしく私が担当となり、今では役割分担ができつつある。
旦那様は半年前に王太子殿下が国王様になられてから、今までにも増して一層忙しくされている。
そんな旦那様はクラリス様の別邸へ帰る日も増えてきている。
でも、ロージーが寂しがらないよう本邸へも忘れずに顔を出している。
私はーー
「ミラ様、実は先週のバザーで子ども達の刺繍を見た方から、是非とも支援したいとのお話しを頂いて」
「・・・・・・支援、ですか?」
週2回刺繍を教えている孤児院のシスターからその話を聞いたのは、子ども達の作った刺繍のハンカチやテーブルクロス、凝った刺繍のロンググローブをバザーで販売し、大盛況を収めてから10日ほど経った頃だった。
サリンジャーと名乗る代理人の主人で投資家である方が、バザーで購入した数々の刺繍を見てこれらが孤児院の子ども達の作品と知りそれは驚かれたらしい。
『才能ある子ども達に是非とも手助けをしたい』
シスターから渡された紙には、代理人のサリンジャー氏の連絡先が記載されていた。
「それは感じの良い方でした。
子ども達に手を差し伸べてくださる素晴らしい考えで感動いたしました」
善人のなかの善人であるシスターは、人を疑うことを知らない。
作品ではなく、可愛い子ども達を見てよからぬことを企んでいるんじゃないか。
代理人というのも怪しい。
この時はそう思っていた。
数日後、スタンリー伯爵家の敏腕な家礼デイブ、腕の良い護衛を数人伴ってサリンジャー氏に対面するが、デイブが賛同するほどの素晴らしい考えで、納得した私もこの話を前向きに検討することした。
「ミラ様!私達専用の作業場なの!」
「大きなテーブル!
向こうには、休憩室もあるの」
「ええ、とっても素敵ね」
孤児院からもほど近い立地の、以前の工場跡地は数ヶ月で工房へと変貌した。
最適な環境と、指導者の派遣。
もちろん、子ども達には作品の作成に応じて給金が発生する。
全てが短期間で整った。
『いつかブランドを立ち上げられたら素晴らしいですね』
手紙にはそう記されていた。
サリンジャー氏に投資家であるご主人に面会を求めるが叶わなかった。
「大変忙しい方なので難しいかと。
こちらは、工房のお祝いに主人から預かりました」
大きな花束と、置物だった。
クリスタルのこの置物は、ブルージェ王国の伝統工芸品のはず。
それは、幼い少女の頬に天使がキスした可愛らしい置物だった。
遠いーー幼い頃の記憶が、
懐かしい記憶が、思い出される。
子どもの頃、お茶会の席で男の子達に顔のそばかすをバカにされて泣いてしまった、あの記憶。
可愛いミラ。これは可愛い証拠だよ。ってお父様は褒めてくれるのに・・・・・・。
屋敷へ帰ると、まだ泣き足りなかった私は涙を流した。
『それはな、天使からのキスって言ってだな、ブルージェ王国では美人の象徴なんだぞ。
この国のやつらは分かってない』
『びじん?』
『・・・・・・ああ、きれいな女性ってことだ』
ボサボサの黒髪に、深い森のような緑の瞳の・・・・・・
私の従兄、ローリー。
『・・・ドレスの刺繍、いいんじゃないか』
黒髪を後ろに撫でつけた、大人の男性になった宰相様、ディクソン侯爵。
「・・・・・・まさか、よね」
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