時の扉を開けて~初恋をこじらせたイケメン令嬢&早とちり令息の時間旅行~

壱邑なお

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【番外編2】きみは星5

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「じゃあ……2回目に会ったのは、この学園に入学したとき?」
「うん」
「何で、声かけてくれなかったの?」
 首を傾げたステラに、氷のプリンスが憮然ぶぜんと告げる。
「かけたよ」

「『3年前の6月15日。グランヴィル子爵邸のパーティで会った俺だけど覚えてる?』って」
 ちょっと待て。

「そんな詳しく!? 日付けと場所まで?」
「覚えてるけど、何か?」
 当然のように返されて、頭を抱えた。
「それでわたし―何て答えたっけ?」
「視線も合わせないで、たったひと言。『覚えてません!』って」

 ……それは、言うよ!
『不審者』認定しちゃうよね、13歳のわたし?

「えっと、ごめん。『前に会った』って、嘘つく男子もいたから」
 今更ながら言い訳すると、
「いや俺も、いきなり失礼だった」
 アイスブルーの目を、ふっと泳がせて。
「その、ステラとは―夜空の星を見るたびに、会ってた気がしたから」
 少し照れた様に、アレクシスが言った。

 うーわっ! 
 なにその、恋愛小説とかに出て来そうな殺し文句!

「えっと……そうだ! 『ケネス』って弟さん、ホントにいるの?」
 ぼっと熱くなった顔を誤魔化したくて、急いで質問すると。
「いるよ。赤毛で黒い目の、陽キャ」
 あっさり、答えが返って来た。

「去年、『魔法道具開発クラブ』をステラが立ち上げたとき。
 すぐに入りたかったけど、父との約束があるし。
 ステラとも気まずいままだし。
 ケネスに相談したら、『じゃあ、俺のフリすれば?』って」
 まさかの、本人発案!?
「『俺みたいなキャラだったら、きっと気軽に話してくれるよ』って言うから、つい……」
 同意しちゃったんだ?

「元々双子に間違われる位、背格好は似てたから。
 変色魔法薬で2時間半だけ、目と髪の色を変えて。
 なるべくステラとは、他で接しないようにして」
「だから、ジェスチャーで?」
「声出したらバレるかもって―感じ悪かったろ? ごめん」
 気まずそうに、頭を下げてから。

「ケネスになるのも楽しかったけど。ステラをだましてた訳だし……もう、辞めないと」
 神妙な顔で伝えて来た、氷のプリンス。
 しょんぼり伏せた目が、迷子の仔犬みたいで。
 気が付いたら上着のえりを、ぎゅっと両手で掴んで、引き寄せていた。

「ダメだよ! やめちゃダメ!」
 至近距離で、若葉色の瞳とアイスブルーの瞳がかちりと合う。
「ステラ……?」

「新メッセージバード作るって、約束したよね!?
 2人なら、たくさんアイデア浮かぶし。楽しいし! だからっ……」
「辞めるのは、『ケネスのふり』だよ?」
「え」

「『アレクシス・ブロワとして、魔法道具開発クラブに入りたい』って、ちゃんと父に話す。
 反対されても、絶対に説得するから」
 嬉しそうに告げられて。
 今にもキスしそうな体勢に、はっと気付く。

「ごっごめん!」
 ぱっと手を離したら、
「いや、大歓迎! じゃなくて……そうだ! ひとつお願いが」
 作業机の隅に置いてあった、小さな鉢植えを差し出された。

 土の中からぴんと伸びた、淡い金色を帯びた茎。
 そこから同じ色の葉が2枚、一対の羽根の様に広がっている。
「やまびこ草?」
「うん。メッセージバードの改良は間に合わなかったから。
 この子に俺の名前、呼んでもらってもいいかな?」
「名前……?」
 
『アレクシス』だと、何だか他人行儀だし。
「アレク?」
 鉢植えに向かって、愛称で呼びかけると。
 ステラの声を抱き締めるように、一度きゅっと合わさった葉が。
 ふわりと開きながら、言葉を反響させた。

『アレク』

「……こっ、こんなで、いいの?」
 恥ずかしさを我慢して、手渡すと。
「ありがと―ステラに名前を呼ばれる度に、ケネスがうらやましかったんだ」
 ふんわり嬉しそうに、氷のプリンスが笑う。
 
「魔力を注げば何度でも、繰り返してくれるから。休みの間、毎日聞くよ」
 その笑顔が、かたくなだった気持ちを、雪解けみたいに溶かして行く。
 だから。
 新メッセージバードが出来たら、最初にプレゼントしようって決めた。

 メッセージは3つ。
 『おはよう』『おやすみ』。
 それから、
 『アレク、大好き』―なんて、どうかな?
 
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