時の扉を開けて~初恋をこじらせたイケメン令嬢&早とちり令息の時間旅行~

壱邑なお

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 キャリントン伯爵家の次男パーシヴァルは、1歳年上の幼なじみで、初恋の相手だった。

 母親同士が親友で、まだ5、6歳の頃に顔を合わせて。
 小さい頃は恥ずかしがり屋で口ベタだったわたしの、初めての友達になってくれた。
 かくれんぼや鬼ごっこ。
 本を読んでくれたり、こっそり仔馬に乗せてくれたり。
 転んでケガしたわたしをおぶって、屋敷まで走ってくれた背中は、まるでお話の中の『騎士様』みたいで。
 銀の髪とお日様みたいな笑顔がステキな、大好きだったパーシー兄様。

『えっ、ベル!? あの小さかった?』
 13歳の時入学した学園で再会して、外出日や課外活動に誘ってくれるようになった。
 2人きりじゃなく、パーシーの友達やステラも一緒だったけど。
 楽しくて、嬉しくて。

『好きだ』と言ってくれたのは、今年の春。
「去年はダメだったけど。今年はベルのために、『黄金のグリフィン賞』を取るから」
 と真剣な顔で告白されて。
『わたしのために? 嬉しい! 応援するね!』と可愛く答えるのが、正解だって分かってたけど。

『わたしのためって……何で、自分のためじゃないの?』と、間違えた場所に刺繍針を、ちくりと刺した様な、引っかかりを覚えてしまった。
 そこに気を取られたまま。
「ごめんなさい。わたしも目指してるの、『黄金のグリフィン賞』」
 思わずぽろりと、口からこぼれ落ちた言葉。
 とたんにガツンと殴られたような、パーシーの顔を見て。
『ごめんなさい』=『告白を断った』と取られた事態に気が付いた。

「そっか——じゃあ、俺たちライバルだな?」
「えっ! そうじゃなくて、パーシー……」
「今日のことは、気にしなくていいから!」
 うつ向いて目を逸らしたまま、『何も言うな!』と両手でばっと、ブロックして来た初恋の相手。

 全力で拒絶された事に、思いがけずショックを受けて、口ごもったわたしに。
「お互い頑張ろう! じゃっ」
 早口で告げてから、もの凄い勢いで走り去って行く、広い背中。
 それを、ぼんやり見ながら思い出した。
 そういえばあの人、小さい頃から『早とちりのパーシー』って呼ばれてたっけ。
 わたしが転んだ時も、ほんの少しにじんだ血を見て、『ベルが死んじゃう!』って真っ青になってたし。

「ちょっと待って! 何でそんな『お前には負けないぜ』『こっちのセリフだ』みたいな、ポンコツ展開になってんのっ!?」
 ステラには、心底呆れられたけど。
「でもまぁ——ベルが『ヘイミッシュのプリンスキャラ』で行くなら、彼氏はいない方が効果的かもね?」

『寮生活で楽しみのない、気軽に男子とも付き合えない、貴族のご令嬢たちが求めるもの=推し!
 思い切り応援出来て、「萌え」を友達と共有出来て。
 誰からもとがめられない、将来に傷ひとつ付かない「推し」=同性の王子様!』
 というステラの分析の元、ぐんっと背が伸び始めた2年前、5年生になった頃から徐々に、『学園のプリンス』キャラを演じて来た。

『ベルはただ、自然にしてればいいから! それで十分男前だし、王子だし!』
 ステラが太鼓判押してくれたし、女子に好かれるのは嬉しいし、得票数にも繋がる。

「パーシー先輩と仲直りしたい気持ちがあるなら、もちろん全力でサポートするよ? 『黄金のグリフィン賞』は、来年だってチャンスあるし!」
 と励ますように、ステラに聞かれて。
『でも来年まで待ったら、おばあ様は……』
 春休みに帰省したときの、ひときわ弱々しくなった様子を思い出して、キュッと噛みしめた唇。
「——このままでいい。こうなったら、プリンスキャラで行く!」
 と決めたのは、わたし……メイベル・ハートリーだった。

 その、『告白を思い切り断った(事になっている)相手』。
 今はタルボット先生と懐中時計片手に、真剣な顔で打ち合わせをしているパーシーに。
 話が終わったのを見計らって、急いで声をかける。
「あのっ、どうしてここに? パ―キャリントン先輩?」
「俺もベル——ハートリーの時間旅行に、同行させてもらうから」
「は?」

「サポート役で同行するはずだったホランド先生に昨夜、ドラゴン関係の出張要請が来てしまったんだ。
 キャリントンは授業で何度も『旅行』経験があるし、魔力も攻撃力も学年一だからな!」
 タルボット先生が頼もしそうに、ぽんっとパーシーの肩を叩く。

 そっか8年生になると、時間旅行の授業が受けられるんだっけ。
 好きな場所に自由に飛べる訳じゃなくて、学園内や近郊に限られてるらしいけど。
 でも……代理で行ってくれる先生は、誰もいなかったの!?
 何でよりによって、1番気まずいパーシーと!

「光栄です、先生。今日はよろしく、ハートリー」
 1年前と変わらない、人好きのする笑顔で、にっこり右手を差し出され、
「……よろしくお願いします、キャリントン先輩」
 メイベルは渋々と、その手を握り返した。
 その見た目とは裏腹に。
 勝手に心臓は、ドキリと高鳴ったけど。
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